女子大学生に劇物「タリウム」を摂取させて殺害した疑いで宮本一希容疑者(37)が逮捕された殺人事件。犯罪に使われた劇物「タリウム」は白い粉で無味無臭。かつては殺鼠剤や脱毛用クリームに使われていたが、その後に毒劇物に指定され、厳しく管理されています。しかし犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は「地方では管理は厳しくないところもあった」と話し、以前から所持していた可能性があると推測します。(2023年3月6日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)
◎小川泰平氏(犯罪ジャーナリスト):元神奈川県警刑事 30年の勤務経験 第一線で数々の事件を解決
「警察が、否認されても公判維持できるくらいの証拠を持っているのか」
---犯罪ジャーナリストの小川泰平さんに解説をしていただきます。事件が起きたのは去年の10月11日、宮本容疑者と浜野さんは、2人で京都市内で会食をした後、浜野さんの家でお酒を飲んでいたようです。そして12日の午前、浜野さんがせき込み始め、未明に宮本容疑者が1人で薬局に行き、市販薬を購入します。しかし朝までに回復しなかったため、宮本容疑者は浜野さんの両親に電話をしたということです。ここでなぜすぐに救急車を呼ばなかったのかという理由については、逮捕前の任意聴取で、宮本容疑者は浜野さんから「喘息なので救急車は呼ばないで欲しい」と言われたと話していたということです。その同日の12日、両親が浜野さんを引き取り、大阪の個人病院に連れて行ったのですが、重度で対応ができなかった。そして心肺停止状態で総合病院に搬送されて集中治療で予断を許さない状態で入院。その後には総合病院の医師が「事件かもしれない」と警察に通報をしていました。3日後の15日、浜野さんの死亡が確認されます。死因はタリウム中毒による急性呼吸窮迫症候群、重度の呼吸不全を起こしていました。ここまでは10月の話ですが、そこから4ヶ月以上経った今年3月3日に宮本容疑者は殺人容疑で逮捕され、今は黙秘を続けているということです。知人の話だと2人は非常に仲が良さそうだったと。宮本容疑者が薬局に薬に買いに行っている。これも防犯カメラで確認されている。宮本容疑者が浜野さんの両親に電話をして、体調不良を伝えているということです。
通常、タリウムを摂取するとですね、体に異変を感じますから、実際に自宅に帰ってくるときには、そういう防犯カメラではその異常がないような歩き方をしているというようなことから考えると、やはり自宅に戻ってから、何らかの方法でタリウムを摂取させられたんだろうというふうに警察は見ているようですね。
---今後の捜査はどういったところになりそうですか。
まず一番は入手経路です。タリウムをどういう方法で入手したか、通常一般の家にタリウムなんて普通ありませんので、しかも今は薬局でも売っていません。以前はね、売っていたこともあるんですけども殺鼠剤とかですねそういったことからいくと、このタリウムをどういうふうにして入手したのか?あとはこの摂取方法と、宮本容疑者さんと濱野さんの関係性。そういったところを警察は慎重に捜査していく必要があるだろうなと思いますね。
---去年10月の話なのですが、逮捕が3月3日で約5ヶ月っていうことになりますけども、この期間というのはどう見ていますか。
この期間で捜査をしていたわけですね。実際に亡くなってから任意の事情聴取では、当然本人は否定しています。否定している状態では逮捕状も請求できない、逮捕状も取れない。その中でこの事件を究明し真相究明するためにいろんな捜査をやっていって、これ警察の単独で逮捕できるような事件ではないので、当然ですけども検察庁と協議をしてですね。任意の事情聴取のときは否定している。当然、本人が簡単に認めるわけではない。否認もしくは黙秘しても、起訴できる、起訴して公判維持できるぐらいの証拠を持っているのか、ある程度警察、検察が自信を持って対応したのではないかなというふうには見ています。
---10月の11日から12日にかけて、浜野さんの部屋で起きたのではないかということですけども、宮本容疑者が浜野さんにこのタリウムを飲ませたのか、それとも浜野さんがどういうわけかわからないけど自分で摂取してしまった可能性はないのか、とかあとは意図せず摂取してしまった可能性、このあたりを立証するのは今後どうなっていきそうですか。
それは本当に非常に困難な作業になるんですが、そもそもタリウムが浜野さんの自宅にあること自体がまず不自然ですから、タリウムを誰がどのようにして入手したのかっていうのが一番問題になるわけです。ただ、誤って摂取する、誤飲をした可能性は否定できない。浜野さんが自分でこれを飲んだらこうなるっていうのがわかっていて、自らそれを選ぶということは、ご家族のお話からも「いろいろこれからやりたいことがたくさんあったんだ、計画があった」というところから見ると、自ら命を絶つようなことはない。それから考えるとやはり誤って飲んだと言っても、自ら誤って飲んだのか、誤って飲ませられるように飲ませたのか、その辺りも、このタリウムというのは、青酸カリ等とは違って無味無臭なのですね。ですから本当に水で、しかも非常に溶けやすいというふうに言われています。ですから簡単に摂取させることが可能な劇物ということが言えると思います。
「劇物タリウムは地方にいくと、一部で売られていた」
---タリウムはどんなものなのか改めて見ていきます。劇物です。「日本中毒学会」評議員の薬師寺さんによりますと、白い粉状で水に溶けやすく無味無臭、致死量はおよそ1グラム1円玉ほどの重さということなのですよね。水にも溶けやすそうですね。飲むとどうなるのか。半日から1日ないし数日かかっていろんな症状が出てくるようです。例えば数時間から半日で嘔吐・下痢など消化器系の症状も出てくるそうです。では何に使われているものなのか、古くは脱毛用のクリームやネズミなどを殺す殺鼠剤にも使われていたようです。ただ脱毛用のクリームに関しては、1973年にWHOが使用禁止を呼びかけていて、殺鼠剤に関しては厚労省が毒劇物の一般消費者への販売自粛の通知もしています。しかし、2005年に女子高校生が母親にタリウムを飲ませて殺人未遂容疑で逮捕されていたり、2015年に女子大学生がタリウムで友人を殺そうとして逮捕されたり、こういった事件は起きていたわけです。事件のたびに厚労省から販売自粛や販売方法の徹底通知がなされていて、現在は入手困難なのですね。その殺鼠剤に関しては現在別の成分が使用されています。タリウムは研究室などで使われているということです。非常に入手が難しいと言われるのをどうやって入手したのかというところですよね。
2015年の女子大生の事件を取材したのですが、東京とか大阪とか都心部では薬局でも当時も販売されていませんでした。ただ地方に行くと、一部売られているところがあって、この女子大生は年齢をちょっとごまかして購入していたといったのがあって、そういったことで事前に持っているもの、これって一気に使うものではないので、持っている者から譲り受ける、もしくは、あくまで私の勝手な推測なのですが、この宮本容疑者が賃貸業をやっていたというようなことで、ネズミの駆除とかのときにですね、以前使っていたものがあったのか、以前使っている者から譲り受けたのか、そういった可能性も否定はできないのかなと思います。
---今後の捜査はどうなっていきそうですか。
本人もちろん取り調べ毎日やっていくのですけども、容疑者と被害者の浜野さんとの関係性ですね。推定無罪というのを前提で話するのですが、殺人事件だとすれば、殺害動機がなければこういう犯罪は起きないわけですね。これはちょっとしたトラブルあたりで殺害には至らないわけです。ですから殺害するほどの動機が何かあったんだろう。まずはこの関係性から始まって、無料通信アプリとかだとか、お互いどういったことのやり取りをやっていたのか、ただ言えることはアルバイトに来ていた者と雇用主なのですけども、ただ、このアルバイトの女子大生の家に行っているってことを見ればですね。しかも夜行ってお酒を飲んでいることを見ればそれだけの関係ではない。もう一歩踏み込んだ関係であったことは間違いないのですが、そこでどういったやり取りがあったのかといったようなところを、これから友人や関係者等から聴取していきながら、捜査は進められていくのだろうと思います。 〆