年間約7万人が体外受精を経て生まれた子どもだというデータがある。現在の出生数を計算すると約12人に1人が体外受精で生まれたということだ。不妊治療する人の選択肢の一つとなっている「卵子提供」。卵子提供により出産した女性と卵子ドナーを取材すると、両者を仲介する業者の存在と、卵子提供をめぐる“光と影”が見えてきた。
1000万円以上を費やすも妊娠にいたらず…「卵子提供で出産」を選択した女性
大阪府に住む香澄さん(仮名)、46歳。3年以上の不妊治療を経て、去年、男の子を出産した。
(香澄さん)「生理がきたタイミングで自分の出血を見て、今回もダメだったんだっていう、自分を否定してしまうタイミングが一番悲しかったかもしれない」
香澄さんは結婚後、自身の貯金をつぎ込み不妊治療に1000万円以上を費やしたという。
(香澄さん)「札束みたい…1回の支払いが27万円とか、次の支払いが30万円、次が38万円…。(1回)採卵すると100万円ぐらいが飛んでいきますね。『またダメだったのか、また次』みたいな、ギャンブル依存症みたいな感じでしたね」
体外受精をして、受精卵を培養し子宮に戻す「胚移植」を10回以上行なったが、妊娠にはいたらなかった。クリニックのすすめで検査を受けると、全ての受精卵で異常が見つかり、自分の卵子での妊娠は諦めた。
(香澄さん)「この検査結果は衝撃というか…自分の卵子では無理なんだなというのを痛感させられました。卵子提供の可能性があるなら、そこにかけたいと思いましたね」
「卵子提供」とは、第三者から卵子を提供してもらいパートナーの精子と体外受精させた後、自分の子宮に移植して出産するというものだ。
香澄さんは、追加で約500万円を支払い仲介業者を通して、20代の日本人ドナーの卵子で体外受精を行ない、45歳で子どもを授かった。
(香澄さん)「不妊治療の期間が苦しかったので、それに勝るものはないというか、本当に生まれてきてくれてただただうれしかったです」
第三者からの卵子を提供するNPO法人 ドナーは原則ボランティア
不妊治療をする人の中で、卵子提供も選択肢として一筋の光となっている。NPO法人「ODーNET」は、早発閉経など自分の卵子では妊娠できない女性(43歳未満)に対して、第三者からの卵子を提供している。
(NPO法人ODーNET 岸本佐智子代表)「300人近くの方から問い合わせをいただいています。ご夫婦の不妊治療を何十回もされた方、どうしても卵子が取れない方で、卵子提供でご主人と遺伝子を残したいと」
ドナーには原則、ボランティアでの卵子提供をお願いしていて(※休業補償20万円を支払う)、約10年間で12人の子どもが生まれ、現在も6人が妊娠中だ。一方で、こんな相談も多いという。
(岸本佐智子代表)「他のエージェントさんで登録された方の涙のお電話もすごく多いんです。カウンセリングもない、費用もすごく高額ということもありました」
「ドナーへの謝礼金は150万円ぐらい」アメリカで日本人向けに卵子提供する仲介業者に聞く
2003年の国の報告書では、第三者からの卵子提供について「商業主義を排除する」と明記。医療費や休業などに伴う実費以外の対価を禁止している。
しかし、インターネットで「卵子提供」と検索すると、高額報酬をうたい日本人の卵子ドナーを募集する業者も見受けられる。アメリカで日本人向けに卵子提供を行う仲介業者に話を聞くことができた。
(卵子提供の仲介業者)「だいたい日本人の方は日本人のドナーを希望する方が多いですね。ドナーへの謝礼金として1万ドル、日本円にすると150万円ぐらいになると思います。基本は若くて健康な女性ですね。身長は平均以上あればOKという方が多い」
そして、こうも話した。
(記者)「日本で卵子提供を行なうのはハードルが高い?」
(卵子提供の仲介業者)「日本は現在、法律がないので、もし何かあった時に責任が取れないので、ちょっとあの…日本では、うちはできないです」
さらに、別の中国の業者は120~300万円の報酬をドナーに支払うという。
(記者)「日本人ドナーの卵子は誰に提供される?」
(中国の仲介業者)「お客さんの大部分は中国の富裕層、台湾や日本人の卵子が結構人気」
(記者)「どういう基準で卵子ドナーを選ぶ?」
(中国の仲介業者)「写真をお客さんに見せないとマッチングできない。あとは学歴や身長、卵がどれだけ取れるかを重視している」
この中国の仲介業者は日本人ドナーを増やすため、いずれ日本に進出する予定だとも話した。
「出自を知る権利」の課題も 法整備が進んでいない現状
そして卵子提供をめぐりいま、もう一つ課題となっているのが生まれた子どもの「出自を知る権利」だ。第三者による卵子提供で出産した場合に、出産した女性をその子の母と認める法律は2020年に制定されたが、出自を知る権利については現在にいたるまで定まっていない。卵子提供に関する法整備は全く整っておらず、今国会での法案提出を目指して議論が進められている。
報酬もらわず卵子を提供するドナー 副作用のリスクもある中でなぜドナーに?
東京都内で会社員として働くかなさん(仮名)。去年12月、報酬はもらわず卵子を提供するドナー(休業補償20万円)となった。
(卵子ドナー かなさん)「診察にうかがいます。2週間の間に5~6回ですね。仕事は休みを取っていたり、シフトを調整したりするんですけど」
診察は、2週間のうちに5回ほどある。かなさんは取材した日、2回目の採卵に向け卵子の大きさなどを確認していた。
(看護師)「卵胞の方が右が0.9cmまで6個、左が1cmまでが6個になっております。いま体調とかでおなかが苦しくなったりとかはないですか?」
(かなさん)「特に問題ないです」
ドナーにかかる負担は通院だけではない。
(かなさん)「注射は毎日、決まった時間に。採卵手術の2日前ぐらいまでは打ち続けます」
2週間毎日、卵子を多く育てるために自分で注射を打たなければならない。その上、採卵手術の際の出血やお腹に水がたまるなど、副作用のリスクもある。それでもなぜドナーとなったのか、尋ねた。
(かなさん)「自分の子どもが欲しい気持ちが強くないっていうのが大きくて、であれば望んでいるところに自分の卵子を届けられればいいなというのがあったので。幸せになる家庭が一個増えるんだなと思えば、そこまで負担にはならなかったですね」
かなさんは出自を知る権利として、個人を特定できる情報を提供することを承諾している。
(かなさん)「子どもが自分の出生を知る時もくると思うので、その時はご両親と話し合っていただいて、本人が知りたければ、知れるような状態がベストだと思います。その方の人生にも関わってくるので」
明確な規定がない中で進められる卵子提供…法整備は必要不可欠
生殖補助医療に詳しい弁護士は、卵子提供で生まれてきた子どもが一定数存在する中で、法整備は必要不可欠だと話す。
(平原興弁護士)「(卵子提供に関して)いわば隠すような形でずっとやられてきて、後ろめたいことの中で生まれてきたんじゃないかっていう思いを、お子さんが抱いたりというようなことも、当事者の方の話を聞く中で感じることがあります。きちんと社会の中で議論して、法律を伴った制度にしていくことが必要な時期にきていると感じています」
明確な規定がない中で進められる卵子提供。生まれてくる子どものためにも早急な法整備が求められる。