119番通報では「消防」「救急」「救助(レスキュー)」という理由で出動するが、この救助にあたる事案の中で意外と多いのが『室内閉じ込め救助』だという。例えば、自宅で急病のため通報するも、玄関のカギを開けるところまでたどり着けずに倒れてしまった…などのケースだ。そのような事態にどう対応するのか。尼崎市消防局の救助現場を取材した。

尼崎市内で過去最多「室内閉じ込め救助」

 去年12月25日。年の瀬に鳴り響く救急指令。隊員が一斉に動き出す。兵庫県の尼崎市消防局は、救急車1台あたりの稼働率は全国トップクラスで、救急・消防・救助をあわせた出動件数は年間3万6000件以上と多忙を極めている。
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 中でも今、増えているのが「室内閉じ込め救助」だ。室内閉じ込め救助とは、なんらかの原因で住宅内に閉じ込められた人を救助する事案。これが尼崎市内で過去最多となっている。
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 通報が入れば、レスキュー隊や救急隊などがすぐ現場に向かう。

 【車内での隊員らのやりとり】
 「高齢男性、脱力動けない」
 「はい」
 「玄関は施錠。破壊許可はまだ取れていない」
 「はい」
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 玄関は施錠されていたが、カギがかかっていない窓を発見、そこから入ることに決めた。

 (隊員)「入らせてもらいますね」
 (隊員)「そのまま玄関を開けさせてもらいますね」

 自宅に1人でいるときに急病や転倒などで動けなくなり、本人や関係者が通報するというケースが多い。レスキュー隊員が窓などから室内に入って救助にあたる。

背景に「高齢化」 一人暮らしが多いことも要因の一つか

 尼崎市内の救助の出動件数は去年初めて750件を超えて過去最多となった。そしてそのうちの約7割を室内閉じ込め救助が占めている。背景にあるのが高齢化だ。

 (尼崎市消防局 田伏敦消防司令)「高齢の単身世帯が増えてきていますので、それに伴って救助要請が増えてきている」

 尼崎市の65歳以上の人口は約3割(2020年国勢調査)。隣の西宮市や伊丹市と比べて高くなっている。加えて一人暮らしも多いことから、周囲が体調の変化に気づかないことなどが要因とされている。

「約束の時間に自宅を訪問したのに応答ない」訪問看護師からの通報

 尼崎市消防局で室内閉じ込め救助などにあたるレスキュー隊員は24人。2交代勤務で24時間出動に備えている。どんな救助事案にも対応できるように、ロープを使ったり担架で搬出したりする訓練を繰り返す。

 訓練の様子の取材中、室内閉じ込め救助の指令が入った。

 (指令のアナウンス)「救助指令 限定救助 室内閉じ込め」
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 訓練を中断、すぐに現場に向かう。訪問看護師からの通報。一人暮らしをしている60代の男性の自宅に約束の時間に行ったのに応答がないという。
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 (車内から呼びかける隊員)「緊急車両交差点に進入します。止まってお待ちください。止まってお待ちください」

 通報から約10分で現場に到着。集合住宅の2階のため、外側からはしごをかけてベランダに進入する。

 (隊員)「ベランダ進入して確認するも掃き出し窓は施錠状態」

 窓にはカギがかかり、中に人影は確認できない。特殊な方法で窓のカギを開ける。
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 【隊員らのやりとり】
 「開きました」
 「開放、入りますね」
 「屋内進入し玄関開放します」
 「入りますね」
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 「もしかしたらおらん可能性もある」
 「布団の中は?」
 「布団の中いないです」
 「コタツの中もおらんな。ひと通りもれなく確認して」
 「コタツの中もいないです」

 どうやら不在のようだ。

 通報の一部はこのような「留守」や「寝ていた」など緊急性がないケースだが、急病の場合も多く、中にはすでに亡くなっていることもあるという。

 (救助にあたった「高度救助隊」 竹内雄一消防司令補)「室内を探したんですけれども、居住者が見当たらず不在でした。119番通報で出動した以上は我々で安全を確認する義務がありますし、留守かどうかも室内に入ってみて初めてわかることですので」

玄関も窓も開けられない事態…「もう割ろう」

 取材した日、集合住宅に住む80代の女性から救助の要請が入った。「全身の力が入らず動けなくなった」という。現場は高層階。玄関にはチェーンロックがかかっていて外れない。

 (無線での連絡)「ベランダ側、家族より破壊許可あり。無理であれば窓ガラスを破壊し進入する」
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 玄関は諦め、隣の部屋からベランダに入る。しかし窓のカギを開けることができない。一刻を争う事態に決断した。

 (隊員)「開けたい気持ちもわからんでもないけど、中の状況がわからんからもう割ろう」
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 隊員が窓ガラスを割った。

 (隊員)「開けますよ、入りますね」
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 女性はベッドの横に倒れていた。意識はあるようだ。

 (隊員)「ちょっと起き上がるで。どこか痛かったら言ってな」

 女性は救急隊によって病院に搬送され、約1週間入院したが大事には至らなかった。

 後日、救助された女性を訪ねた。女性は当時をこう振りかえる。

 (救助された80代女性)「起き上がれないの。ほんでここで寝たまま電話があるからかけちゃったのよ。消防が来なかったら大変だった。良かった。どうして入って来られたかわからなかったけど、担架を持ってきて寝かせてくださった」

もし誰かが閉じ込められている状況だったら?

 人口減少と高齢化が進む日本社会で、今後も増え続ける可能性がある室内閉じ込め救助。身近な命を救うために私たちにはどんなことができるのだろうか。

 (尼崎市消防局 田伏敦消防司令)「室内で閉じ込められている状況に遭遇しましたら、まずは大きな声で室内に声をかけて助けを求めている人がいないかどうか確認してもらって、躊躇せず119番通報をしてください」