学校側が「いじめ重大事態」と認定したのは、両親が訴え始めてから約9か月たった後だった。奈良市の小学校で起きたいじめ問題。放置されたいじめの実態や学校の対応について、被害児童がカメラの前で初めて明かした。

 12月6日、急きょ会見を開いた奈良市の仲川げん市長。市立小学校でのいじめをめぐる対応に不備があったと話した。

 (仲川げん市長)「全体的に問題があったと思いますので、この点を踏まえてどう改善していくかをしっかり検証し行動していく」

同級生の男児に足を蹴られけが 親は調査を求めるも「学校は警察じゃない」と言われる

 奈良市に住む小学5年のA子さん(11)。市長が問題があったとしたいじめの被害児童だ。去年2月、教室で突然、同級生の男子児童に足を蹴られたという。

 (A子さん)「急に蹴られた。帰りの準備をしているときに。びっくりした。(Q痛みは?)あった」
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 当時の写真を見ると、すねの部分が赤黒く腫れているのがわかる。全治1週間の打撲だった。子ども同士がじゃれあってできたような傷ではないと判断したA子さんの両親は、翌日、学校に相談。ところが、学校は男子児童がA子さんを蹴ったことを認めなかったという。その理由は、証言の不一致。

 A子さんは当時の状況を「ロッカーの前に立っていた男子児童に蹴られた」と説明。一方で、目撃していた別の児童は「男子児童は座ったまま蹴っていた」と証言した。学校は、男子児童の状況に食い違いがあるとして、A子さんらの証言を聞き入れなかったのだ。

 (A子さん)「(男子児童が)蹴ったのに蹴ってないと言って、ちょっと嫌な感じ。早く(わたしを蹴ったことを)認めてほしいなって…」
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 (母親)「加害児童もやっていないと言うし、調査できないということだったんですね。もっといろんな子に聞いて調査してほしいとお願いしたんです。そしたら『学校は警察じゃない』と、一言、言われてしまった」

その後も「からかい」行為が続くが…学校によるいじめ調査は行われず

 学校に不信感を抱いた両親は警察に被害届を提出。調査の結果、警察は「男子児童がA子さんの右足を足蹴りする暴行を加えた」と特定し、児童相談所へ通告した。しかし、これを受けても学校側の対応は変わらなかったという。

 4月に入り、学年が変わっても男子児童による「からかい」行為は続いた。すると…。

 (母親)「朝、玄関で渋ったりとか行きたがらなくなってしまったりとか、でも友達に会いたいから行ったりとか、そんな繰り返しが長く続いていました」
 (父親)「朝起きて2人で『きょうは大丈夫かな』と。起こしにいっても前日に何かがあると『行きたくない』とか『行けない』とか。見ているだけでつらくてつらくて」
 (母親)「(Qこれまでもそういうことが?)ないです」
 (父親)「学校は大好きだったので、友達もたくさんいて、(学校に)行きたくないなんて1回も言ったことがなくて」

 こうした状況は数か月間、続く。その間、何度学校へ訴えてもいじめ調査が行われることはなかった。そして去年6月、さらに“追い打ち”をかける出来事が起こる。

「つらかった」「自分なんて、いなければよかった」A子さんが訴えた作文に…担任は『花マル』

 A子さんが自習ノートに書いた作文。そのタイトルには「いやだ」と記されている。
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 【作文より】
 「かなしかった つらかった なみだがこぼれた」

 さらに、先生に助けを求めるようこんな文章も書かれている。

 【作文より】
 「わたしは死ねばいいのに 自分なんて、いなければよかった」
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 しかし、提出されたノートに当時の担任が書いたのは、“花マル”だった。そして、その下にはこんな言葉が添えられていた。
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 【担任が書いた内容】
 「You can do it!!(あなたならできる) ファイト!!」

 (父親)「まず花マルがついている…なんでって。娘は心の叫びというか、だいぶ追い詰められていると思うんです。助けを求めていたと思うんですよね。『You can do it!!』という意味合いが全く理解できない」
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 去年9月、A子さんは適応障害に。両親は診断結果を受けてもう一度、学校側にいじめ調査を要望。すると、去年11月、ようやくA子さんの同級生全員にアンケート調査が実施され、別の目撃証言が明らかになり、学校側は「いじめ重大事態」と認定した。両親が訴え始めてから約9か月後のことだった。

 (父親)「文章でこうなりましたっていうのを渡されて」
 (母親)「渡されただけという感じでした」
 (父親)「校長として謝罪の一言でもあるんだろうかと思ったら何もなく」
 (母親)「もっとちゃんと対応してくださっていたら、娘はこんな状況にならなかったし、安心してもっと学校に通えていたんじゃないかと」

担任の説明は「A子さんに頼まれたため花丸をつけた」

 重大事態の認定後、市教委などが経緯を調査。MBSが独自入手した調査報告書には、おととしから去年12月にかけてA子さんの手首をひねったり背中を鉛筆で突いたりなどの男子児童によるいじめ行為が12件あったと記されている。さらに、A子さんのノートに当時の担任が「You can do it!!」と書いたことについて、担任が市教委の聞き取りに、次のように説明していたことも明らかになった。
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 【調査報告書より】
 「児童Aに花丸を付けてほしいと頼まれ、花丸を付けにくい内容であることから一度は断ったが、児童Aに頼まれたため、心配していることを伝え花丸を付け、励ましの意味を込めて、『You can do it!』と記載した」

 担任は、A子さんに頼まれたから花マルをつけたと話したという。しかし、A子さんはこう話す。
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 (A子さん)「(Q花マルを書いてくださいと言った?)言ってない。なんで花マルしてあるんやろうって思った」
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 担任の対応について市教委は「配慮に欠けた不適切なものだろうと言わざるを得ない」と断じた。

教育長「被害者に寄り添った姿勢が不十分だったのではないか」

 では、なぜいじめは9か月間も放置されてきたのか。今年12月6日、奈良市の教育長は、こう説明した。

 (北谷雅人教育長)「非常に被害者の感情にもっともっと寄り添った姿勢が不十分だったのではないかと思っています。その意味で早期に解決に至らなかったことについては非常に反省すべきことだろうと重く受け止めております」
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 学校側は改めて今回の対応についてどう考えているのか。校長はMBSの取材にメールで回答した。

 【校長の回答より】
 「学校として反省すべきところは反省して、今後対応をしていく。被害児童が安心して学校生活が送れるように、被害児童の保護者が安心して児童を学校へ送り出せるように努力していく」
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 A子さんの両親の代理人である弁護士は、学校側が第三者を入れずにいじめの調査を行ったことが問題だと指摘する。

 (三橋和史弁護士)「第三者が1人でも入っていれば、こういったいじめが実際には存在していたにもかかわらずその存在が認められない状態が長期間にわたり続いてしまったことは避けられたのではないかと」

父親「いまだに学校や市教委から謝罪の一言もない」

 重大事態の認定後もA子さんはこれまでの学校の対応や蹴られたときの状況を思い出すなどした結果、今年1月、ストレス障害を発症。いまも症状は続いているという。卒業まで残り1年とわずか。しかし、一家の学校への不信感はいまも消えていない。
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 (父親)「明らかに学校の対応が悪かったというのは今明らかになってきているのに、いまだに学校や市教委から謝罪の一言もない。謝るべきところは謝ってほしいなと思いますね」

 市は近く、調査報告書を公表するという。子どもたちが安心して学校に通えるよう1人1人に寄り添うことが教育機関に求められている。