踏切で起きた事故で愛する妻を失った家族を取材した。警報機も遮断機もある「第1種踏切」、遮断機がない「第3種踏切」、そして警報機も遮断機もない「第4種踏切」。今回の家族の事故が起きたのはこの第4種踏切で、過去にも事故が相次いでいたにもかかわらず、対策が取られないまま放置されていた。

警報機も遮断機もない「危険な第4種踏切」

 2023年4月、京都府舞鶴市の踏切でシニアカーに乗っていた高齢男性がはねられて死亡した。男性は農作業をしようと畑に向かうところだったとみられ、事故当時に乗っていたシニアカーは原型を留めないほど大破していた。

 (亡くなった男性の友人)
 「遮断機も何にもなかったもんでね。耳が遠いから気がついたときには遅かったんじゃないですか」
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 事故が起きたのは警報機も遮断機もない第4種踏切。渡るときには一層の注意が必要となるが、この場所は…。
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 (記者リポート)
 「事故現場となったこちらの踏切は警報機や遮断機がないため、左右を確認しなければならないのですが、右側に盛り土があってかなり見通しが悪くなっています」
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 踏切の手前に大量の土砂が盛られて視界を遮り、列車が死角から突然現れるような状態に。地域の元自治会長は、この第4種踏切ではこれまでにも死亡事故が起きていると話す。

 (地域の元自治会長 四方勝さん)
 「非常に危険な状態やということで大きな事故も過去に起きているんですけれども、今回もまた事故が起きました。人命に関わることなので、せめて警報機ぐらいは設置してほしいなと」

 自治会は警報機や遮断機の設置を求める要望書を鉄道会社に提出。しかし…。

 (地域の元自治会長 四方勝さん)
 「費用が何千万円以上かかる。『予算がものすごくかかるので考えていきましょう』というような返事をいただいた。早急に何とか改善をしていただきたいなというのが我々の気持ちなんですけどね」

 こうした警報機も遮断機もない第4種踏切での事故は各地で後を絶たない。国土交通省によると、第4種踏切での事故発生率は、警報機と遮断機がある第1種踏切と比べると約1.5倍に上るという。

第4種踏切で妻をなくした家族…現場は「過去に複数回事故も対策されず放置」

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 (娘)「ママ。ここにママがいるの?」
 (福崎さん)「ここによ。おてて合わせてください」
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  佐賀県に住む福崎大智さん(32)。2018年、妻の美紀さんを踏切の事故で亡くした。生後11か月だった娘を車で保育園に迎えに行く途中だったという。
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 事故が起きたのは、ここでも第4種踏切だった。農繁期だった当時、農業用の車が止まっていた道を避け、普段は通らない踏切を通り事故にあったという。車は踏切から50m以上飛ばされた。
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 美紀さんの命日だったこの日、初めて娘を連れて事故現場を訪れていた。

 (福崎さん)「(ママはここで)ひかれちゃった」
 (娘)「なんか、意味わかんない」
 (福崎さん)「そうね、いつかわかる」

 (福崎大智さん)
 「車があそこの高架の緑色のところに吹っ飛んでいる状態で、残骸とかがあそこにばーって転がっていて。あのガードレールのところに救急車が止まっていて、そこに走っていったら、心臓マッサージされていた状態」
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 事故の後にフェンスが設置されて、現在は封鎖された踏切。実は過去にも複数回この踏切で事故が起きていたが、対策が取られないまま放置されていた。福崎さんは「最初の事故の後に踏切が封鎖されていれば美紀さんは命を落とさずに済んだのではないか」と話す。
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 (福崎大智さん)
 「初めての事故で通れなくしましょう、ならまだわかりますけど、過去に何件も事故があって、それをほったらかしにしていて。返してほしいです、本当に。会わせてあげたいですけどね、この子に一番」

国交省は廃止進めるも『暮らしに影響。踏切を残してほしいという声も』

 現在も国内に2400か所以上存在する第4種踏切。相次ぐ事故に国土交通省も廃止を進めているが、一筋縄ではいかない現状があるという。

 (国土交通省・鉄道局施設課 須山翔太企画調整官)
 「現状ある踏切が廃止あるいは統合されることによって近くにはなくなってしまうと。踏切の付近に暮らされている皆さんにおきましては、遠くまで足を運んで移動する、いわば時間がかかってしまうことが想定されますので。やはり現状の踏切を残してほしいという声があります」

静岡県の鉄道会社は第4種踏切の一つを廃止に『地域が一丸となって』

 一方で対策に乗り出した鉄道会社もある。静岡県にある「天竜浜名湖鉄道」。2023年5月、第4種踏切の一つを廃止した。この会社では2022年に別の踏切で起きた事故をきっかけに実態の調査を開始。廃止のほか、警報機や遮断機の設置など、踏切ごとの対応を進めている。
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 (天竜浜名湖鉄道 松井宜正社長)
 「満場一致で廃止してOKっていうところは皆無ですので。地域が一丸となって、危ないから協力しようね、という雰囲気を作っていただいたというのが一つ大きなところじゃないかなと思っています」

福崎さん『予算がないと言っても…。すみませんでそれを済ますのか』

 5年前に踏切の事故で最愛の妻を亡くした福崎大智さん。事故が起きたころはほとんどできなかった料理も手慣れてきたという。

 (福崎さん)「食べていいよ、もう」
 (娘)「キノコ食べない」
 (福崎さん)「キノコも頑張って食べて、お願い」

 父と娘だけの生活には慣れてきた一方で、娘が成長するにつれて、美紀さんがいない喪失感は増していく。
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 (福崎大智さん)
 「娘に対して、してあげてほしいことしか出てこないですね。抱き上げてほしい、声をかけてほしい、手をつないで一緒に歩いて欲しいとか、会ってほしいです。僕はいいんで、夢の中だけでも本当に」

 自分のような人が生まれないために。福崎さんは第4種踏切の解消に向けて対応を急ぐべきだと話す。

 (福崎大智さん)
 「予算がないからって言っても、もし自分の家族が踏切に入って死んでしまったらどうするのって。あんな鉄の塊が走るレールがあるのに、もしそこに子どもが入っていった場合を想像してみて、多感なうちの娘もそうですけど。あんな多感な子どもはちょっと目を離したらすぐ走っていきますよ。ふって入ってボンとひかれてしまったら、すみませんでそれを済ますんですかね」

 死亡事故が後を絶たない第4種踏切。悲惨な事故をこれ以上繰り返さないためにも、早急に協議を進めていく必要があるのではないだろうか。