各国で研究が続く『コロナ後遺症』。2022年8月に発表されたオランダの研究によると、7万6000例のコロナ患者を調査したところ、呼吸困難や筋肉痛などの症状が長期(90日~150日間)で発生した患者は12.7%いたという。そんな中、コロナ後遺症の治療薬の治験が日本でスタートした。この治療薬は後遺症で悩む人たちの光になるのだろうか。

コロナ後遺症に苦しむ人たち『こんな生活が待っているなんて』

 (厚生労働省 加藤勝信大臣 4月27日)
 「コロナは5月8日以降は5類感染症となる。まさに大きな転換点を迎えるわけであります」

 ついに5類に引き下げられた新型コロナウイルス。マスクの着用も個人の判断に委ねられることとなり、街中ではコロナ楽観論が高まっている。

 (街の人)
 「マスクの制限が4月くらいから緩和されてきましたので、心置きなく遊びに行けるかなと思っています」
 「すごいにぎやかでびっくりしています」
 「人がいっぱいで…」
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 一方で、足の痛みを訴えてうずくまる小学4年生の川上くん(9歳・仮名)。

 (男の子)「痛い…」
  (母親)「どこが痛いの?どんなふうに痛いの?」
 (男の子)「なんかよくわからない感じ。力全然入らない…」
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 川上くんは去年8月に新型コロナウイルスに感染。後遺症により、外出時は車いす移動を余儀なくされている。厚生労働省の発表では、コロナ後遺症はけん怠感・記憶障害・頭痛・関節痛などの症状が代表的だ。川上くんの場合は全身の痛みとけん怠感が顕著だという。

   (記者)「どんな症状があるか教えてくれる?」
 (川上くん)「すぐ疲れる」
   (記者)「足はどう?」
 (川上くん)「痛い」
   (記者)「どこが痛いかな?」
 (川上くん)「(ひざを手で押さえて)この辺」
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 (川上くんの母親)
 「(コロナ療養期間終了後)突然、左の股関節がすごく痛いって言い出して。もう全然歩けないような状況になったんですね。周りの人にも活発で大変ねって言われるぐらい活発な子で、もう今は全く別世界の暮らしですね」

 コロナ感染前はインラインスケートが趣味で、学校にも休むことなく通っていたが…。

 (川上くんの母親)
 「今は学校にはほとんど行けていないですね。最近で言えば欠席が8割ぐらいで。普通に学校に行けるようになったときに、例えば1年~1年半の勉強が空白であいていたら、この子はどうするのかな?って。子どもには、ただの風邪と同じかなって思っていたので、感染後こんな生活が待ってるなんて夢にも思っていなかった。コロナにかかったら、こういうふうになることもあるんだよっていうのをみんなには知ってもらいたいし、そういうふうになってるお子さんがいたら、サボってるの?と言わないで、後遺症なんじゃないか?っていう目を持ってほしい」

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 母親は患部をマッサージするなどケアを続けているが、症状がいつ治まるのか先の見えない不安が大きいという。

 (川上くんの母親)
 「こんな生活が待っているなんて夢にも思っていなかったです。コロナにかかったらこういうふうになることもあるんだよっていうのをみんなには知ってもらいたい」

感染者数は減っても後遺症患者は減らず『痛みがつらくて死んでしまいたい』

 コロナ後遺症で苦しんでいるのは子どもだけではない。東京都渋谷区にある「ヒラハタクリニック」。これまで約6000人のコロナ後遺症患者を診察してきた。

 (医師)「前回の漢方はどうでしたかね?」
 (患者)「劇的に変化はないです」
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 (ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
 「コロナの感染者数は減ってはいますが、後遺症の患者さんが減ったという印象はまるでないですね。むしろ増えている可能性があるかもしれない。オンライン診療なんかは特に1日何十人もお断りするっていう状況がずっと続いてしまっているので」

 クリニックを訪れる後遺症患者の多くは、社会生活に大きな影響を受けているという。

 (平畑光一院長)
 「仕事を失ってしまった人が300人以上いらっしゃるという状況です。休職になっている人が1400人近い。給料が減る形で影響が出てしまっている方が来院患者の7割弱ということになります」
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 去年2月に家庭内感染で新型コロナウイルスに感染した40代のAさん。コロナ後遺症により約1年間、全身の激しい痛みなどの症状に悩まされている。

 (コロナ後遺症患者のAさん)
 「痛みがつらくて。もうこの痛みを体験したくないから死んでしまいたいって、そんなこと思っちゃいけないんですけど、思ってしまうこともあります」

 仕事は現在休職中で、家事もほとんどできなくなってしまったという。

 (コロナ後遺症患者のAさん)
 「(ひざに貼っているのは)これ冷えピタですが、痛いところに貼って冷やして何とか痛みをごまかしているという感じです。本当に人生が狂ってしまった」

「後遺症の治療薬」になるかもしれない希望の光

 コロナ後遺症は明確な治療方法が未だ確立されていない。後遺症外来では漢方による対症療法や針治療など手探りの診療が続いていた。そんな中、希望の光が灯った。

 (東京慈恵会医科大学・ウイルス学講座 近藤一博教授)
 「うつ症状が改善されたということを指標に、『ドネペジル』という薬が新型コロナウイルスの後遺症に効くのではないかと」
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 東京慈恵会医科大学では、けん怠感やうつ症状などコロナ後遺症の症状を持つマウスに、認知症薬「ドネペジル」を投与する実験を行ったところ症状の改善がみられたという。

 (東京慈恵会医科大学・ ウイルス学講座  近藤一博教授)
「けん怠感というのはマウスを泳がせて泳いでいる時間を見るんです。(けん怠感があると泳ぐ時間が短くなりますが)ドネペジルを投与すると泳いでいる時間が普通と変わらなくなるので、倦怠感が取れたという判定ができます」

 現在は複数のコロナ後遺症外来でドネペジルの治験が始まっている。

 (東京慈恵会医科大学・ウイルス学講座 近藤一博教授)
 「ドネペジルっていう薬は認知症の薬として非常によく使われていて安全性もわかっているので。人間で試してみるっていうことが非常にやりやすい薬なんです」

 対象となるのは1年以内に新型コロナウイルスに感染した後遺症患者。治験がスムーズに進めば、再来年度中にも実用化できる可能性があるという。

国内で進む治験…平畑院長『コロナを軽視せずに今後も感染対策を』

 ヒラハタクリニックでもドネペジルを使った治験が行われている。

 (平畑院長)「おじいちゃんおばあちゃんが飲む薬なので、あんまり心配することはないですね。8週間で終わりですしね」
 (治験を受ける患者)「薬を飲んでちょっと調子悪いときは?」
 (平畑院長)「すぐ教えてください」

 去年7月にコロナに感染し、けん怠感などの後遺症症状に苦しんでいる50代の女性患者。母子家庭で2人の子どもを育てているが、職場復帰のめどが立たず、今年1月に医療関係の会社をやむ無く退職した。わらにもすがる思いで治験に応募したという。

 (治験を受けるコロナ後遺症患者)
 「ブレインフォグがあるので、医療関係の仕事を無理に始めてミスをしてしまうのが不安だったので仕事をやめました。私としてはやっぱり仕事ができないとなかなか経済的に厳しい。仕事ができないとなかなか経済的に厳しい。子どもたちにも迷惑をかけちゃうので。治験でもし効果があるんだったらという思いですかね」
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 一歩ずつ進むコロナ後遺症治療。新型コロナウイルスのパンデミックは終息しつつあるが、後遺症治療はまだ道半ばだ。

 (ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
 「5類になることによっていろんな人が『もうコロナ終わった。怖くないんだ』というふうに思っていらっしゃると思うのですが、そんなことは決してなくて。後遺症になってしまえば、仕事を奪われたり、あるいは何年間も苦しんだりということが起こり得るので、軽視せずに今後も感染対策をしっかりやっていただきたいなと思います」