「『預かり金投資』をめぐって被害にあった。それについて取材してほしい」。同じ内容の手紙が全国各地から約20通、MBSに届いた。うたい文句は「預けるだけなので元本保証」「毎月5%の配当がある」というものだという。投資話を持ちかけていたO氏から被害にあったという人が相次いでいる。トラブルの実態に迫った。
Aさん「使えるお金を全部入れた。本当に許せないし悔しい」
兵庫県に住むAさん(30代)。2021年、新型コロナウイルスの感染拡大で勤務していた飲食店の客足が減り、収入が10分の1になっていた。そんな時、知人から紹介されたO氏に投資話を持ちかけられたという。
(Aさん)
「わらにもすがるじゃないですけど、何とか生活を立て直さないとという、その一心で。大手の証券会社で元々トップトレーダーとして働いていた方が、今は独立して個人として投資をされていらっしゃる。本当にすばらしい運用をしている方々のグループがいるんだ、その話が私に運良く回ってきた、と思ってしまった」
仕組みはこうだ。AさんはO氏に資金を預ける。その後、O氏がトレーダーのT氏にこの資金を貸して株式投資をしてもらう。T氏は大手証券会社出身の敏腕トレーダーで、毎月8~15%の利益をあげることができるといい、Aさんには、預けた資金の5%が毎月配当として入ってくるというのだ。
O氏は「預かっただけで、投資ではないから元本は保証される」と説明した。具体的な投資先などは示されず、手書きでの説明にAさんは当初、不審に思ったが、O氏とトレーダーT氏の住所や生年月日が記載された印鑑登録証明書を示され信用した。
約600万円を預け、はじめの5か月間は毎月30万円程度の配当を現金で受け取った。順調に配当があったため200万円を追加で預けたが、去年2月、「投資グループ内のトラブルがあった」などとして配当が止まった。その後、O氏とも連絡が取れなくなり、今も預けた金は戻ってこないままだ。
(Aさん)
「動かせるお金を全部かき集めて、使えるお金を全部入れました。必死で働いたお金なので、本当に許せないですし悔しいですし、何とかして取り戻したい、返してほしいという気持ちでいっぱいです」
Bさん「個人年金の解約と車売却したお金を…こんな簡単にだまされるんだと」
被害者は他にも。大阪府に住むBさん(30代)。2020年12月、O氏から「預かり金投資」の勧誘をされ、悩んでいると「配当会」に誘われたという。
(Bさん)
「東京駅の徒歩圏内の一等地のビルを借りて『配当会』をしていて、何千万円というお金が積み上げられていて、本当に運用されているかのように。トレーダーさんが前にいて、『この株に入れている』と説明をされたので信用しましたね」
Bさんは総額600万円を預けて1年ほど毎月30万円の配当を受け取ったが、Aさんと同じく去年2月に配当が止まった。今も預けた600万円は返ってこない。
(Bさん)
「個人年金を解約したお金と、車を売ったお金を入れました。将来のために資産運用、子どもがいますので。よくテレビとかニュースで詐欺の話聞くじゃないですか。『え、私も?』という感じもありますし、こんな簡単にこういう感じでだまされるんだと」
O氏「T氏はすご腕トレーダーなので月利5%切ることはない」
O氏がこの預かり金投資の勧誘をする映像が残っている。O氏はこの時26歳。もともとは高校の教員だったと説明していた。
(O氏 映像より)
「教員になったんですけども、2016年の時から副業の勉強もしていたので、内緒でぼく自身もしていたという感じです。この5年間いろんなものをやってきて、それの集大成がこの事業だなっていうふうにぼく自身は考えているので、相当内容としては自信があります」
すご腕トレーダーT氏に資金を預けて株式投資をしてもらうことの安全性を再三、強調していた。
(O氏 映像より)
「T氏はすご腕のプロトレーダーです。なのでみなさまの月利5%は切ることはありません。全国飛び回ってですね、こうやってお話させていただいて、この2年間で30億円集まりました。資金を投資するのではなくて、預からせていただくという形になります」
弁護士「出資法に違反する」 詐欺の可能性についても言及
今回の預かり金投資。消費者問題に詳しい加納雄二弁護士は「預かり金には国の許可が必要で、O氏の投資話は出資法に違反する」と指摘する。
(加納雄二弁護士)
「主に出資法違反ですね。入り口では預かり証とかを出していますから。しかもそれで配当を保証している。基本的な預かり金規制に引っかかるということです」
さらに詐欺の可能性もあるという。
(加納雄二弁護士)
「投資について具体的な説明が全くないし、おそらく配当の大半は預かり金から出している。そのうち預かり金が減れば、配当できなくなっておしまい。これがそういう詐欺手口の典型例ですね」
O氏・T氏との接触を試みて証明書に記載の住所へ
取材班はO氏に話を聞くべく、印鑑登録証明書に記載された山梨県の住所に向かった。どうやら家にはいないようだ。
隣人に話を聞くと。
(隣人)
「今は別の方が住んでいて。去年引っ越されて」
配当が止まった去年、引っ越していた。
それでは敏腕トレーダーのT氏はどうか。住んでいるというのは東京・港区の一等地の高級マンション。こちらも会うことはできなかった。
関わっていた男性に聞く『預かり金投資』の実態
取材を続けると、この投資話に関わっていたという男性に接触することができた。男性はO氏とともに預かり金投資の勧誘を行い、また投資者らに配当金を渡す業務をしていたという。O氏とは約6年前、別のマルチ商法を通じて知り合った。今回、O氏の羽振りの良さを見て、預かり金投資に混ぜてもらったという。
(預かり金投資に関わっていた男性)
「週に3回寿司食べに行ったりとか、ブランドものを購入したりというのがインスタに載っていたんですよ。それを見た時に何かやっているなと思って」
男性は自分の知人らを勧誘してO氏へ紹介。知人らが預けた資金の2%を毎月、勧誘の報酬として受け取っていた。O氏と同じ立場の勧誘役は他にも複数いて、グループは全国から資金を集めていたという。
(預かり金投資に関わっていた男性)
「全部で何十億円運用するって言ってたっけな…60億円って言ったかな」
実際に集めた金は投資していたのか問うと。
(預かり金投資に関わっていた男性)
「それはわからない。ぼくらには書類を出していたんですよ。パソコン上で『残高はこれくらいあります』と」
自らもO氏に金を預けて被害を受けたという。だが、「こうした投資話に乗るのは自己責任だ」と話す。
(預かり金投資に関わっていた男性)
「ぼくは『別に無理してやらなくてもいいよ』と。『絶対』とかも言わないですし、『100%もうかる』なんかないので。結局、自己責任・自己判断というのもあるので。(Q罪に問われたら?)どうするも何もありのまま説明しますね。もちろんこれが捕まる側だったとしても…詐欺で?捕まってもしょうがないんじゃないですかね」
「お金を預けるだけで毎月5%の利益」甘いささやきで集められた巨額の資金はどこに行ったのか。実態の解明が急がれている。