プロサッカー選手を夢見る若者を狙う『トライアウト詐欺』。海外チームの入団テストを持ち掛けて費用を振り込ませるという手口で、被害額は合計で数百万円にも上っている。人の夢を踏みにじるような卑劣な詐欺を行うM氏に迫った。

インスタグラムに届いた「ベンフィカの入団テスト勧誘」

 プロサッカー選手を目指し、現在はアメリカの大学にサッカー留学をしている19歳のAさん。去年11月、見知らぬ男性からインスタグラムのメッセージが突然届いたという。

 【Aさんに届いたメッセージ】
 「初めまして。現在アメリカの大学でプレーされていますよね。今後ヨーロッパでプレーするつもりはないですか?」
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 接触してきたのはポルトガルのチームに所属する傍ら、海外に挑戦する日本人選手を支援しているという21歳のM氏。ポルトガルの強豪クラブ「ベンフィカ」の入団テストを受けないかと勧誘してきたという。
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 (Aさん)
 「気になって返信したら、ベンフィカ23歳以下のセレクション(入団テスト)を受ける権利があります、みたいなことを言われた」
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 M氏は“入団テストを受けられる特別なルートがある”と説明。Aさんは当初は疑っていたが、インスタグラムに投稿されていた写真や動画を見て考えが変わったという。

 (Aさん)
 「ベンフィカというちゃんとしたビッククラブの人と写真を撮っていたりしたので。写真とか動画を見た時に、ほんまにすごい人なんだなと思って。ほんまに信じてしまうような写真ばっかりだったので」
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 その後、M氏は入団テストの費用として2500ユーロ(日本円で約36万円)を支払うよう迫ったという。「受けられるのはあと2人だけ」などと急かされ、Aさんはすぐに金を振り込んだ。しかし、入団テストの話は一向に進まず、まもなくM氏と連絡が取れなくなった。

 (Aさん)
 「夢はプロになって活躍することだったので、その近道というか挑戦できる権利があるということに、目の前が見えなくなったというか。しばらくは自主練もできないというか、ぼーっとしていて。サッカーに対する情熱が薄れるという言い方はちょっとおかしいかもしれないですけど、あまり集中できなくなりました。実際に感じたのは悲しいというかショックでしたね」

『サッカー業界でM氏という名前は一度も聞いたことがない』

 狙われたのはAさんだけではない。サッカー留学を支援する会社「WithYou」のCEO・中村亮さんは、去年11月以降にM氏に不審な話を持ち掛けられた選手が少なくとも3人いるという。

 (WithYou 中村亮CEO)
 「自分はベンフィカに留学している選手だ、という話から、今おいしい案件があるから是非来ないか、みたいなそういった同じ内容です。選手は当然うれしいと思いますよ。やっぱり一見おいしい話じゃないですか。なので当然それが本当の話なら飛びつきたい」

 一方でM氏についてはサッカー業界で知られた人物ではないと話した。

 (WithYou 中村亮CEO)
 「僕は一度も聞いたことがないですね。全く誰も知らないとか一度も聞いたことがないというのは、ベンフィカのユースに所属する選手ではなかなかないんじゃないかなと」

強豪ベンフィカに直接問い合わせ「M氏は所属している?」

 入団テストを受けないかと持ち掛けて金を騙し取るM氏。ポルトガルのチーム・ベンフィカと何らかの関係があるのだろうか。取材班がチームに問い合わせてみた。

 (ベンフィカの担当者)
 「(QM氏はあなたのクラブにいますか?)そんな選手は知りません」

 選手やスタッフにM氏という人物はいないと回答した。さらに…。

 (ベンフィカの担当者)
 「(Q入団テストは行っていますか?)子ども向けのものしか行っていません。(Qベンフィカのクラブに入るには?)プロ選手として入るには、元からどこかのチームに所属していないといけません」

 プロを目指す選手を対象にした入団テストは行っていないと断言した。

学生時代のチームメイト『M氏は高校を1年で中退。その後ポルトガルに行った』

 さらに取材を進めるとM氏を知る人物にたどり着いた。小中学校時代にM氏と同じサッカーチームに所属していたBさん。

 (Bさん)
 「M氏は高校を1年で中退して、ちょっと仕事をして、高3くらいでポルトガルに行っていると思います」

 M氏はベンフィカの合宿に練習生として1週間ほど参加していた。その後「ポルトガルの別のチームと契約を結んだ」とBさんに話したという。実はこのBさんも、M氏から入団テストの話を持ち掛けられて約30万円を支払っていた。その後、M氏を問い詰めたところ、ポルトガルのチームと契約したという話も入団テストも全て嘘だと認めたという。

 (Bさん)
 「サッカーに夢を持っていたので、正直キツかったといえばキツかったですけど。昔からの友達だったのでちょっと信じてしまいましたね」

M氏の実家を訪ねると…弟と名乗る男性『被害者が家に来て困惑している』

 取材班は真相を確かめるべく千葉県にあるM氏の実家を訪ねた。家の前で待つこと5時間。駐車場にM氏によく似た男性が現れた。

 (記者)「すみません、Mさんですか?」
 (男性)「違います」
 (記者)「じゃないですか?Mさんはいますか?」
 (男性)「いないです」

 この男性は取材班に対して「M氏の弟」だと説明した。

 (記者)「Mさんはここに住んでいないですか?」
 (M氏の弟)「ずっといないですね。逃げ出して、家から」
 (記者)「連絡やLINEとかは?」
 (M氏の弟)「家族は全員ブロックされているので」
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 M氏は約1年前に家を出て家族も行方が分からないという。M氏の詐欺行為について尋ねると…。

 (M氏の弟)
 「知っていますよ。来るので、家にMの被害に遭った人が来るので。最初は親が金を返していたんですけど、このまま返していてもきりがないって思って。被害額はたぶんもう何百万円なんじゃないですかね」

 一週間前にもM氏に騙されたという人が家を訪ねて来て、家族も困惑しているという。

 (M氏の弟)
 「夢を壊されたのは最悪ですし、被害者もいるんですけど、僕たちも壊されたりしているので。家族でグルみたいに思われるのも嫌ですし、わからないことだらけで自分たちも怖いんですよね」
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 M氏に36万円を騙し取られたAさん。去年12月、警察に被害届を提出した。プロ選手を目指す人がこれ以上被害に遭わないことを切に願っている。

 (Aさん)
 「侮辱行為というか、人の夢を金に換える行為というか。同じ被害者がもうこれ以上出ないように反省をしてほしいです」

 なぜ自分と同じ夢をもつ若者を狙ったのか。M氏の口からその答えが明かされる日は来るのだろうか。