違法通信機器が急増する中で『電波Gメン』に密着取材した。用途ごとに割り当てられた出力・周波数を外れている違法電波は、通信障害や家電の誤作動の原因となる。その実態と取り締まりの現場に迫った。

違法電波で『ストーブが勝手に点火』『航空機の位置情報が不明に』

 約30年前、東京都内の無人の事務所で石油ストーブが点火して火事が起きた。不可解な現象の犯人だったのが違法電波。近くを通ったダンプカーの改造された無線機が強力な電波を発してストーブの誤作動を引き起こしたというのだ。

 そして今、新たな違法電波の被害が急増している。それは3年前、石川県の小松空港で突然起こった。GPSを受信できなくなり、航空機の位置情報を把握できなくなったのだ。
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 (国土交通省性能評価センター 小黒和哉調整官)
 「電波干渉を受けていた当時のグラフの状況なんですけれども、時間が経過して信号レベルが下がっていく。航空機がGPSを受信できなくなってしまう」
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 幸い事故には至らなかったものの、4日間にわたり大幅な遅延や欠航が発生。その原因は、小松空港から約4km離れた工事現場のクレーンの上に設置された、外国製無線機を搭載したカメラから出た違法電波だった。一体どういうことなのか。
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 通信障害が起きぬように国内で使用できる電波は電波法という法律で周波数や出力が決められている。しかし、小松空港で起きた事案では、カメラから出た電波の周波数とGPSの周波数が一致し、航空機の位置情報がわからなくなったのだ。こうした違法電波はGPSのみならず携帯電話の通信障害もたびたび引き起こしているが、外国製無線機を使用した当事者たちはみな、こう弁明したという。

 (外国製無線機を使った当事者)
 「インターネットで購入した。違法だとは知らなかった」

ネット上で安く流通する外国製無線機

 実際に取材班が調べてみると、インターネット上にはトランシーバーやヘッドホンといった様々な形の外国製無線機が販売されていた。国産の正規品より値段が安いことから広く流通しているようだ。その一方で…。
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 【ネット上での質問と回答】
 (質問)「日本で使っても違法になったりしませんか?」
 (回答)「認証番号があれば違法ではない」

 日本国内での使用が違法だという表記は一切ない。

偽の技適マーク…出力は合法無線機の100倍

 これらの外国製無線機は本当に問題がないのか。取材班はタイプの異なる3つの外国製無線機を購入して専門家に鑑定を依頼した。すると…。
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 (関東総合通信局 川合美帆総務技官)
 「これは技適マークのようなものが書いてあるんですけれど、本当の技適マークとは違うマークがついています。偽造のものになります」
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 本来は電波法に適合している無線機には技適マークが付いている。しかし、取材班が購入した外国製無線機の技適マークは本物によく似ているが丸の右端が欠けていない。
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 電波を比べてみると…

 (関東総合通信局 川合美帆総務技官)
 「こちらの外国製無線機だと100倍の出力が出ているということになります。出力的にこれはアウトになる」

 外国製無線機の電波は約10dBで、合法の無線機の出力の100倍の電波が出ていた。鑑定では取材班が購入した3つの外国製無線機すべてが違法な電波を発していた。

販売業者を直撃すると…

 では販売業者に違法性の認識はあるのか?取材班が外国製無線機の販売業者を直撃すると、出てきたのは代表者の妻だった。

    (記者)「ヤフーショッピングをやっている?」
 (代表者の妻)「知らないです。何を売っているんですか?」
    (記者)「外国製無線機を売っていて…」
 (代表者の妻)「え…」

 夫に連絡するよう求めると…。

 (代表者の妻)「夫に連絡したらいいですか?わかりました。それはできます」
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 しかしその後、連絡はなく、その日のうちに販売サイトから商品が削除された。

違法電波を取り締まる『電波Gメン』に密着

 一方で国も違法な外国製無線機に目を光らせている。取り締まるのはその名も『電波Gメン』だ。
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 近畿総合通信局の瀬戸口正さん(59)は電波Gメン歴30年のベテランだ。

 (近畿総合通信局・監視第二課 瀬戸口正課長)
 「電波の混信・妨害が発生した場合には、その電波の発射源を特定して排除する。なかなか目立たない仕事ですけども電波の監視を行っている」
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 「DEURAS(デューラス)」という電波の出どころを特定するシステムを使って、近畿一円の違法電波を日々監視している。取材中にも“ある違法電波”を発見した。

 【無線機の音声】
 「アルミ缶4。鉄4。バッテリー8おわり。(中国語の言葉)」

 (瀬戸口正課長)「これが使用者が使っている無線の音声になります」
 (記者)「バッテリーと言っている?」
 (瀬戸口正課長)「言っていますね」
 (記者)「日本語じゃない感じもありますね」

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 聞こえてきたのは「アルミ缶」や「バッテリー」といった単語に中国語。すぐにこの違法電波の排除へ向かう。
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 取材班は特別に同行を許可された。向かったのは大阪府南部。現場に着くと特殊な測定器を使って違法電波の出どころを探る。

 (近畿総合通信局・監視第二課 瀬戸口正課長)
 「電波が強くなってきました。やはりこっちの方向で間違いないみたいです」

出どころは廃棄物処理業者 取り締まりの瞬間

 測定器が反応したのは廃棄物処理業者だった。電波Gメンが踏み込んでいく。
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 (電波Gメン)「無線使われてますよね?仕事で」
 (業者)「あります」
 (電波Gメン)「これ、日本製じゃないですよね?」
 (業者)「日本製じゃない。中国製」
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 2人の従業員は中国人で、仕事で使う小型無線機を中国から持ち込んだという。
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 (電波Gメン)「違法だと知らないで使っていた?」
 (業者)「知らない知らない」
 (電波Gメン)「日本円でどのくらいで売ってるものなんですか?これって」
 (業者)「日本円では3000円2000円くらい」
 (電波Gメン)「日本の技適マークがついている無線機を買ってください」
 (業者)「はいはい。日本のは高いよ」

 渋々納得した中国人従業員。安さから安易に、そして知らず知らずに違法電波を発していた。

 (近畿総合通信局・監視第二課 瀬戸口正課長)
 「軽い気持ちで外国製無線機を持ち込んで使ってしまう。その結果が既存の無線局の特に重要な無線局に妨害を与えるというのがありますので、注意喚起を積極的にやっていけたらなというふうに考えています」

 世に蔓延る違法電波。目に見えぬ脅威が私たちに迫っている。