「コロナで大変なんです」「北海道の高級食材を詰められるだけ詰める」などと電話で勧誘して、購入すると粗悪品が届く…。こうした『海産物詐欺』の被害が急増している。今回、取材班はある業者を直撃した。記者に対して業者が語った主張とは。
泣きながらの電話勧誘「北海道産」のはずが届いたのは“外国産の粗悪品”
知らない番号からかかってきた押し売りの電話。
【視聴者の録音記録】
「もしもし?札幌海鮮市場のウエダと申します。こんにちは。今、全国的にコロナがひどいじゃないですか。それでうちの市場も影響を受けちゃって…。紅鮭とかってお好きですか?今回、送料無料の半額以下の大特価でお届けしていたんですよ」
「コロナ禍で海産物が売れず助けてほしい」。今、実在しない市場や業者をかたる『海産物詐欺』が相次いでいる。
【Twitterより】
「昔の伝票をもとに電話かけたって言ってた」
「可哀想と思った親がカニを購入。届いた物が粗悪品」
「1万5000円で届いたのがコレ。どう見ても数千円よね?秋刀魚なんてめっちゃ不味そう」
値段は1万5000円~2万円ほど。決して安くはないが、届く商品は粗悪品ばかりだという。
取材班は実際にこの海産物を購入したという男性に話を聞くことができた。
(木下剛佑さん(仮名))
「知らない番号から電話がかかってきて。普通に電話を出ましたら、女性の方なんですけれども、ほとんど泣きながらというか。何事だろうと思って。コロナで大変なんですって言うので、ぜひとも商品を買っていただきたい、と」
助けになるなら…と2万円のセットを購入すると告げた。すると…。
(木下剛佑さん(仮名))
「買うかもしれないと思われたというか、思った瞬間に泣きながらの声が一気に晴れたみたいな感じだったんですよね。(Qしくしく声じゃなくなった?)もう淡々としゃべるみたいな感じでしたね」
そして木下さんにもとに届いた海産物。北海道産と聞いていたが…。
(木下剛佑さん(仮名))
「(エビは)アルゼンチン産って書いてあったんですよ。あとはマグロが入っていたんですけどそれはチリ産と書いてあって。解凍して食べようと思ったんですけど、もう黒く焼けちゃっているみたいな感じのやつで」
鮮魚のプロが鑑定『高いと思う。ちょっとやりすぎ』
一体いくらの価値があるのか。鮮魚のプロに見てもらうと…。
(八百鮮三国店 鮮魚担当者)
「溶けてからもう1回凍らせたみたいな感じはありますね。僕が販売するのであれば7980円、もしくは9800円までかな。(Q今回は2万円で販売されているが?)高いと思います。これはめちゃめちゃ。これはちょっとやり過ぎだと思います」
どう見ても購入した金額の半額、1万円程度の価値しかないという。
粗悪な海産物の押し売り。被害の相談が相次いでいることから、国民生活センターは今年度に注意喚起を2度行っている。
(国民生活センター 濱名彩香さん)
「相談件数が一気にそれまでの件数の2倍に増えたので、これほど増加したというところに驚きもありました。(Q相談件数は過去何番目の多さ?)(このままいけば)過去10年度分で1番多い件数になってしまうと思います」
買った大学生の家で『海産物が届く瞬間』に立ち会い
取材を進めると去年12月、なんと海産物がこれから届く、という大学生に辿り着いた。
(山岡純太さん(仮名))
「過去に取引があった方にお電話を差し上げています、というふうに。(電話口では)名前が僕の父親の名前で、僕の携帯番号は父親から引き継いだので、父親と取り引きがあったのかなと考えた。コロナで僕も大変な思いをしたので、できる範囲で助けられるのであればお助けしましょうか、と」
コロナ禍での経営難を訴えられ、約2万円の商品を購入したという。しかし注文後にネットで調べると電話をかけてきた『A商店』は悪徳業者だとわかった。キャンセルしようと電話をかけたがつながらなかった。
そして取材中、ついにA商店の商品が届いた。中身を確認すると入っていたのはカニ・エビ・紅鮭など7品。一見豪華にも見えるが、後日、鮮魚店に確認してもらうと、真空パックに空気が入り海産物の鮮度が落ちていることが判明。実際の値段は支払った2万円の半額ほどだという。
さらに後日、A商店から再び山岡さんのもとに電話がかかってきた。その際の音声が残っている。
【電話の録音記録】
(A商店を名乗る男性)「前回助けていただいてこういう形で本当に申し訳なかったんですけど。北海道の高級食材や名物を詰められるだけ詰めて、(A商店の)社長もぴったり1万円で最後だし頑張っていいよって言ってくれたので。うるさい男との最後のお付き合いだと思って、これだけなんとか最後に頑張らせてください。最後買って良かったなって絶対に言わせるので。信じてやってください、お父さんお願いします」
(山岡さん)「お…お父さん?僕お父さんじゃ…」
(A商店を名乗る男性)「これだけ最後になんとか恩返しさせてください!お願いします!」
北海道に同名の店が複数…多くがクレーム対応に追われていた
いったいどういうつもりなのか。取材班はA商店に話を聞くべく北海道札幌市へと飛んだ。調べると、A商店という名前の店は札幌市内に複数存在していた。そのうちの1つを訪ねると、一見普通の個人商店に見える。電話をかけると…。
(A商店と同じ名前の店)
「はい、A商店です。(Qこちらは海産物を取り扱っていますか?)はぁ…それね。何件か問い合わせがあって。(キャンセルの)問い合わせしたけどつながらないとか。うちはもう昔から酒・タバコ・食料品の個人の小売店なので。うちがしているんじゃないの?って思って電話をかけてくる方もいらっしゃって、そういう点では心外だなと思いますね」
A商店によく似た名前の鮮魚店でも。
(A商店と似た名前の鮮魚店)
「(クレームは)もう去年からだもん。去年の夏からだよ、ずっと。(Qどういう電話が?)怒っている人もいるよ。断っているのに何回も電話がかかってくるから、おたくはそういうことをやってんのかい?と興奮して電話をかけてくるんですよ」
多くの店が粗悪な海産物を売りつけられた被害者からのクレーム対応に追われていた。中には苦情の電話が40件かかってきたという店もあった。
業者を直撃「コールセンターで海産物を販売している」
そして取材班はA商店につながる手がかりを入手した。購入者に届いた契約書面だ。そこには『株式会社X』という聞いたことのない会社の名前が書かれていた。電話勧誘の際にこの社名を告げていなければ特定商取引法に違反することになる。
取材班は契約書面に書かれていた会社Xの住所地である札幌市内の雑居ビルへと向かった。
(記者)「毎日放送です。こちらはちなみに何の会社ですか?」
(会社Xの社員)「なんの会社…コールセンターです」
(記者)「コールセンター?海産物を売ってないですか?」
会社Xの社員は「ここはコールセンターで海産物を販売している」と話した。
(会社Xの社員)「迷惑なんですよね」
(記者)「迷惑なんですけど、もっと迷惑を被っている人たちがいるので」
(会社Xの社員)「(迷惑が)あなたたちにかかっていますか?」
(記者)「僕たちに声が寄せられているんですよ。あなた社員でしょ?」
(会社Xの社員)「そうですけど」
(記者)「社員だったら答えてくださいよ」
(会社Xの社員)「これ以上の強引な取材というのは僕もどうかと思いますので。強引ですよね」
(記者)「ただ強引な勧誘電話をされていますよね?」
(会社Xの社員)「そういうのは関係なくないですか」
(記者)「どうしてですか?」
社員という人物が釈明『従業員が勝手にうそを』
社員は帰ろうとするが、取材班も食い下がる。
(記者)「A商店というのは実在する会社なんですか?」
(会社Xの社員)「いちおう屋号としてやっていますね。例えばその辺にラーメン屋さんとかあるじゃないですか。それも屋号でやってるじゃないですか」
(記者)「それはちゃんと登録されているじゃないですか。電話をかける時に会社Xと名乗ればいいじゃないですか?」
(会社Xの社員)「やっていますよ。やっていますよそれは」
(記者)「じゃあA商店って何なんですか?何のために名乗っているんですか?」
(会社Xの社員)「いちおう水産を売っているので。そういうお店の名前でやっていますよーみたいな感じで」
(記者)「でもお店ないじゃないですか」
(会社Xの社員)「はい…」
(記者)「同情してね、何とかあなたたちのことを助けたいと思った人たちについてね、それを思って買った人たちについて、どう思っていますか?」
(会社Xの社員)「うちの従業員とかでそういうふうなことを勝手に言って…まぁうそじゃないですか。そういうことであれば申し訳ないなと思います」
社員は『A商店は存在せず、従業員が勝手にうそをつき勧誘していた』と釈明した。
コロナ禍に便乗した海産物詐欺。助けてあげたいという人の善意を踏みにじる行為は絶対に許されない。
※お困りの場合は『消費者ホットライン:188(いやや!)』にご相談ください。最寄りの消費者生活センターなどにつながります。