投資を考える人たちに近づく悪徳業者の誘いの手口、自己破産した人もいるという危険な不動産投資の実態とは。今、住宅金融支援機構の住宅ローン『フラット35』を不正利用させられ、機構からローンの一括返済を求められるトラブルが全国で相次いでいる。
住宅ローン「フラット35」の利用をブローカーに勧められたAさん
大阪市に住む会社員のAさん(48)。4年前、約76平方メートルの土地と2階建てのアパートを、賃貸に出す目的で約3400万円で購入した。
部屋の中に入ってみると、テーブルやイスなどの家具は一切ない。なんとこのアパートは着工から4年がたった今も完成していないのだ。
(Aさん)
「水道ガスが通っていなくて、電気は今は止めている状態になります。わかってはいますけど、このがらんどうの部屋ですね、なんか見ていてちょっとむなしいなという気持ちはありますね」
工事が止まったのは着工から半年後。ローンを利用した住宅金融支援機構から一通の書類が送られてきたことがきっかけだった。
【住宅金融支援機構の通知書より】
『全額を直ちに当機構にお支払ください。お支払がご無理な場合はやむを得ず法的手続きを執ることになります』
Aさんが利用したのは、最長35年間固定金利の住宅ローン「フラット35」。
Aさんは賃貸に出す目的でアパートを建てたが、実はこのローンは投資用の物件には利用できない。このため機構は不正利用と認定して、ローンの元金約3000万円の一括返済を求めたのだ。
(Aさん)
「全く訳がわからなかったですね、その時は。将来の資産だと思って、資産になると思って話を進めたんですけれども、逆に多額の借金を背負うというような形になってしまいました」
Aさんにフラット35を勧めたのは不動産投資セミナーで知り合ったブローカーの男性。セカンドハウスという名目にすれば審査に通ると説明したという。
【ブローカーとAさんのメールのやりとりより】
『今回はセカンドハウスで住宅ローンへの影響はございません』
(Aさん)
「まさか自分がそういったウソをつかれるとは全く想像はしていなかったですね。投資で使えるものだというふうに話を聞いていまして、それで僕も安心して契約を進めてしまった」
Bさんは不動産会社から勧められ「フラット35」を利用
同様の被害は各地で相次いでいる。栃木県の会社員・Bさん(35)も、住宅金融支援機構からローンの一括返済を求められている1人だ。
(Bさん)
「約4000万円ですので、そういった大きな負債を抱えてしまったという、ちょっと絶望感みたいなところがありましたね」
Bさんは神奈川県のマンションの一室(約41平方メートル・2DK)を約4700万円で購入。マンションは賃貸に出す予定だったが、東京の不動産会社Xにフラット35の利用を勧められた。
ローン審査の直前、X社からある指示があったという。
(Bさん)
「金融機関との面談をする際に、『この物件に住みますか?という居住確認の面談があります』というようなことを事前に言われました。その質問に対して私は『はい』と答えてくださいと」
違和感を覚えたBさん。指示を断るとどうなるか聞いてみると…。
(Bさん)
「(審査が通らなくても)不動産売買契約は完了していると。物件価格の約20%の違約金がかかると。20%だと約800万円になるんですかね、その金額がやはり当時とても支払えるものではなかったので」
Bさんの場合…申込書に『ウソの理由』を加筆された?
さらに問題発覚後、金融会社が開示した住宅ローンの申込書にも不可解な点が。
(Bさん)
「申し込み理由が『関連の会社に出向が決定したため』と書かれているんですけど、これは完全に私の字ではなくて、誰かが理由を勝手に書き加えたものとなっています」
Bさんが書いた文字と加筆された文字を比べてみると、Bさんの文字はハネやトメがきちんと書かれている。一方、加筆された文字は丸みをおびていて明らかに筆跡が違う。そもそも関連会社に出向する予定はなく、ローン審査を通すためにウソの理由を書き加えたとBさんはみている。
(Bさん)
「こういった理由を書いて、私本人が住みますという体を装っている。完全に偽造ですよね」
不動産会社X社に取材を申し込むと
X社は違法性を認識しながらフラット35を勧めたのではないか。取材班がX社に電話で取材を申し込むと…。
(記者)「投資用ではフラット35が使えないということをわかっていて勧めたのでしょうか?」
(X社)「私、電話番なので、確認します一度」
(記者)「では折り返しの電話をいただけますか?」
(X社)「折り返しするかは答えられない」
(記者)「X社の社員ですか?」
(X社)「電話番なので、何もこの場でお答えすることができないので、一言一句そのままお伝えするだけなので」
電話番の男性は「答えられない」の一点張り。その後、X社から連絡はなかった。
悪質商法に詳しい専門家「被害回復は非常に難しいのでは」
フラット35の不正利用を促した不動産会社などから被害金額を回収するのは難しいと、悪質商法に詳しい松尾善紀弁護士は指摘する。
(松尾善紀弁護士)
「業者も、自分たちが刑事事件の共犯者、詐欺罪の共犯者として捕まるリスクを負っているわけなので、徹底的に隠蔽したり偽装したり逃げたりすると思うので。悪徳業者とかの内部の情報を収集するというのは極めて困難であるし、被害回復自体も非常に難しいことが多いのではないかと考えられますね」
39人が住宅金融支援機構を集団提訴
追い詰められた被害者たちは司法の場に救いを求めた。去年12月、住宅金融支援機構に対して「融資のチェックがずさん」などとして、ローン一括返済の無効を求めて、全国の被害者39人が東京地裁に集団提訴した。
(街頭で訴える被害者団体)
「できるはずのない一括返済を求める住宅金融支援機構の対応は、問題を解決しようというものとは思えません」
大阪のアパートを所有するAさんも原告の1人だ。
(Aさん)
「我々が意図して融資の不正利用をしているというわけではなくて。問題が一体どこにあったのか。どうしてもうやむやにはしたくない。きっちりと調査を行ってほしいというのが我々の思いですね」
将来の蓄えのための不動産投資がトラブルに一転した。だまされた人が悪いという言葉だけで済まされないのではないだろうか。