自身が広告塔となってSNSで豪遊する様子を発信して若者を誘惑する男。今も被害者を増やし続けるその男はいつしか『キラキラトレーダーK』と呼ばれるようになる。キラキラした世界をエサに若者を誘う大胆な手口とは?被害者や元同僚が語った勧誘の実態やマニュアル。そしてK氏本人を直撃取材した。
派手な生活を発信する『キラキラトレーダーK』
ある時はタワーマンションのベランダから札束を投げ捨て…。
【インスタグラムに投稿された映像より】
「きょうのプレゼント企画です。現金10万円」
またある時は“スーパーでトマトを買う感覚”で数千万円する高級外車を購入。
キラキラトレーダーK。このK氏のインスタグラムを見てみると、高級ブランドの時計にド派手な出で立ち。自身の成功を強烈にアピールしている。
【K氏が話す映像より】
「みんな、決断すれば人生は180度変わる。まずは一歩踏み出す勇気をもって、チャレンジしてみてほしい。皆さんの人生がさらに豊かなものになることを心より願っています」
「俺について来れば間違いなく人生を変えてあげる」
こうした投稿の裏に「だまされた」と訴える被害者がいる。
(K氏の被害にあった聡介さん(仮名))
「あそこで契約をさせられました。33階でしたね」
東京都内に住む会社員の聡介さん(仮名)は、去年2月、インスタグラムで友達の生活が突然派手になったことに気づいたという。その理由を尋ねると…。
(K氏の被害にあった聡介さん(仮名))
「友達から『とある社長(K氏)に出会って人生が変わった』と教えてもらって。良かったらその人(K氏)に連絡をしてみてと言われて連絡をした」
社長とは、あのK氏。友達に言われるがまま連絡を取ってみると、こう返信があった。
【インスタグラムのDMより】
『本気で人生を変えたい気持ちがある方にだけ、僕自身、時間を使うと決めています』
“一週間以内に来られるなら会ってやる”と言われ、結局すぐにK氏の住むタワーマンションを訪ねたという。
(K氏の被害にあった聡介さん(仮名))
「タワマンに来たのも入ったのも初めてだったので、自分もそうなれたらいいなというふうに、当時は本当に希望が大きかったですね。俺について来れば間違いなく人生を変えてあげるよ、みたいなことを直球に、目をまっすぐ見てきて言うので、そこに(自信の)揺らぎはないのかなと」
タワーマンションからの絶景にK氏と一対一の状況。雰囲気に飲み込まれた聡介さんは、具体的に何をするのか知らされないまま、コンサルティング料として110万円を支払ったという。
勧められたFX投資はマイナスに…そして語られた『K氏のビジネス』
K氏にまず勧められたのはFXなどの投資。売買のタイミングを教えるので確実に儲かると説明されたという。しかし…。
(K氏の被害にあった聡介さん(仮名))
「トータル的には完全マイナスですね。自分は50万円くらいはたぶん損失していますね」
コンサル料とあわせて160万円のマイナスに。儲からないことに焦った聡介さんがK氏に疑問をぶつけると…。
(K氏の被害にあった聡介さん(仮名))
「深々といろいろ聞いていったら、その人(K氏)はビジネスをやって実際には稼いでいると」
K氏の言うビジネスとは、いわゆるマルチ商法。K氏に勧誘された被害者がさらに金儲けをしたい若者を勧誘する。勧誘が成功すればコンサル料110万円のうち、勧誘した者は20万円、残りの90万円はK氏が受けとり、まさに被害者が加害者となるシステムだった。
そのマニュアルでは「内面からは難しいため、まずは外見を変えろ」と日サロに筋トレ、髪型はデコ出しを推奨。自分を格上に見せるためのトークテクニックなど勧誘のノウハウが詳細に書かれている。
聡介さんはこの時点で自身も勧誘のターゲットにされていたことに気づき、K氏と関係を絶った。
(K氏の被害にあった聡介さん(仮名))
「悔しいです。早く捕まってほしいです。笑っている顔を見るのが吐き気がするくらいです」
SNS上でも“K氏の被害にあった”という訴えが多数確認できる。
【SNSより】
『Kに騙された方、メッセージください』
『K、そこに置いてる金を皆に返せよ!』
『Kを許すな』
行政には2年間で数十件の相談…大半は20代前半の若者
こうした状況に行政も動き出している。
(東京都消費生活総合センター 高村淳子課長)
「(Kが)起業して2年くらいだと思うんですけれど数十件の相談が来ている」
相談の大半は20代前半の若者たち。2年間で数十件の相談が寄せられるのはかなり多いという。その上で違法性については…。
(東京都消費生活総合センター 高村淳子課長)
「説明のときに、どういうことをやって何をもって儲けていくのかという具体的なことは全く言っていない。勧誘目的不明といえる話ですねこれは。(Q特定商取引法上、問題になる?)問題になります」
K氏が提示した契約書には、「ビジネスマインドの向上」などと書かれているだけで、具体的な稼ぐ手段について一切記載がない。
K氏は“師匠”の会社で幹部に昇格後に独立
いったいK氏は何者なのか?取材を進めると、ある関係者にたどり着いた。5年前にK氏とともに投資の勧誘を行っていたという小宮山涼氏(仮名・20代)。
(K氏の元同僚 小宮山涼氏(仮名))
「僕はKの師匠の会社で営業マンとして活動していましたね。(当時のK氏は)七三黒髪の短髪でパリッとした感じのビジネスマンって感じの風貌でしたね。なんか今はすごくチャラチャラしていますけど」
K氏はストイックな性格で、優秀な営業成績を残して幹部に昇格。その後、独立したという。
取材班はK氏の師匠のセミナーの映像を入手。そこには…。
【セミナーの映像より】
(K氏の師匠)「どう言いたいかっていうと、自分のコンプレックスとか自分の弱みってしかたないわけよ。だったらそれを変えようって。OK?」
(話を聞く人たち)「はい!」
根拠がわからない自信。どこかで見たような…。
K氏が話す映像と見比べてみると、話しぶりに通ずるところがある。
【K氏が話す映像より】
「みんな、決断すれば人生は180度変わる。まずは一歩踏み出す勇気をもって、チャレンジしてみてほしい」
小宮山氏によれば、勧誘の手口もうり二つだという。ただ1つだけ異なることがあるという。
(K氏の元同僚 小宮山涼氏(仮名))
「(師匠と比べて)あそこまでガンガン顔を出してみたいな感じは珍しいんじゃないですかね。(Qキャラを演じている?)じゃないですかね。無理しちゃっている感はすごくありましたね」
会社の登記上の住所へ向かうと…
取材班はさらに、K氏に迫るため、会社の登記上の住所がある神奈川県川崎市へ向かった。しかし…。
(記者リポート)
「登記上のK氏の住所に来てみたのですが、表札を見てみますと名前は名字も違うようです」
周辺で聞き込みを行うと、ここは数年前まで「ネギ味噌ラーメン」が名物のラーメン店だったという。
(K氏の会社の登記上の住所に住む元ラーメン店の店主)
「(Qこの人物(K氏)に見覚えは?)全く見たことない。(客として)食べに来ていたかもしれないけど」
「なんかテレビに出てくるようなプロレスラーとか格闘家とかに何となく感じないですか」
この場所に引っ越してきて30年近くになるというがK氏のことは全く知らないと繰り返した。
タワマンに張り込みK氏を直撃
こうなればK氏に直接話を聞くしかない。取材班はタワマンに張り込んだ。待つこと8時間。ついにK氏が姿を現した。
(記者)「あなたと契約してすごく損をしたと、だまされたと言っている人がいるんですよ。そのことを知っていますか?」
K氏は無言で走り出した。
(記者)「あなたがやっていることは違法ですよね?違法なことをやっているんじゃないですか?消費者センターも数十件の相談が来ていると言っているんですけど。答える責任があるんじゃないですか。あなたのインスタグラム見ていますよ。人から集めた金で…。答えてください。説明してくださいよ」
必死で追いかけたが最後まで何も答えず走り去っていった。
キラキラ生活に憧れる若者たち。新たな獲物を罠にかけようと、K氏は今も牙を研いで待っている。