大阪府枚方市の市立中学校で起きたいじめが「重大事態」に認定された。重大事態とは、いじめにより生命・心身・財産に重大な被害が生じた場合や、いじめによって相当の期間、学校を欠席することを余儀なくされている状況のことをいう。昨年度に重大事態と認定された数は705件。枚方市立中学校でいじめにあったAさんは、現在は転校して両親と離れて暮らしている。このAさんのいじめに関しては、7か月間放置され、その後、経緯など調査が進められたという。一体何が起きていたのか。

部活で「仲間外れに」…両親が顧問教諭に相談

 その日は中学校の一学期の終業式だった。2020年、中学1年だった娘のAさんの帰宅が遅かったことを両親は鮮明に覚えている。

 (Aさんの母親)
 「何でこんなに遅かったんって聞いたら『もういいわ』っていう投げやりな感じがちょっとあった」
 (Aさんの父親)
 「『のけ者にされている』という話とか。『今回だけじゃなくて、今までもずっとこんなことが繰り返されている』と」
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 Aさんは枚方市の市立中学校の運動部に入っていた。この日、Aさんから「同級生に練習に混ぜてもらえず仲間外れにされている」と打ち明けられ、両親は部活の顧問教諭に相談した。

 (Aさんの父親)
 「顧問の先生は『いじめの中心になっている子がもし本当にそれをしているなら、この問題が解決するまでクラブには出させません』っておっしゃったんですね。でも実際、1週間後に試合を見に行ったら、その子だけが出ていて。試合とかで顔を合わせても、その顧問の先生から何か言ってきたってこともなかった」

何の報告もなく7か月後…抗議後には被害生徒に『まず謝れ』

 顧問から何の報告もなく7か月が経ったある日。

 (Aさんの父親)
 「娘が『辞めたい』と。『部活を辞めたい』と。『なんでなん?』と聞くと『いやもう何も聞かずに了承してほしい』っていうふうに言ってきた」
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 よくよく話を聞くと、部活での仲間外れは解決しておらず、むしろエスカレートしていた。両親が抗議すると、顧問は「1週間で解決する」と話したという。だが数日後、Aさんが登校すると…。

 (Aさんの父親)
 「(顧問が)『なぜみんながお前のことを嫌うのか。何でと思う?』って。『どうするべきか自分で考えたらわかるやろ』と。『みんな待っているから』と言って(教室に)連れて行かれて、そこで教壇に立たされて『まず謝れ』と」

 言われるがまま謝罪したAさん。その後、帰宅すると…。

 (Aさんの父親)
 「『学校も行きたくないし死にたい』と」
 (Aさんの母親)
 「見たことないぐらい沈んでいる感じで、自分の娘からまさかそんな言葉が出るとは思わなかったので、どう反応していいか正直わからなかったです」

 この出来事をきっかけに両親はクラスの担任にも相談。この時まで部活の顧問以外の教諭はいじめを知らされていなかったという。

顧問は情報共有せず…さらに学校側は「Aさんにも悪い部分がある」

 いじめ問題をめぐっては、2013年に「いじめ防止対策推進法」が成立。各学校でいじめを防ぐための基本方針を定めることが義務付けられている。
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 Aさんの中学校のいじめ防止基本方針には、学校がいじめを発見した時にとるべき対応が細かく書かれている。この学校では、いじめを認知した時「複数の教職員で対応することを原則とし、情報共有を随時行う」と定めている。しかし、実際は顧問は誰とも共有しておらず、1人で解決しようとしていたとみられている。

 結局、学校が把握した後も事態は改善されず、Aさんは不登校に。PTSD(心的外傷症候群)と診断された。
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 さらに不登校のAさんに向かって学校側は「Aさんにも悪い部分がある」と話したという。

 【Aさん側と学校側の話し合い時の音声より】
 (学校の教頭)
 「100:0じゃなくて50:50の着地点を探すしかないんですよ。(いじめを)止めてほしかったって思うのであれば、自分の中で良しとしない状況が周りの責任にあるというものの考え方、この部分がこれから超えないといけないところ、成長していくべきハードルになっていく、頑張っていかないといけないところだよ」
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 学校の対応に納得がいかず、両親はAさんを転校させることを決意。Aさんは両親と離れ、今も親族の家で暮らしている。

 いじめ問題に詳しく、今回Aさんらから相談を受けている松田真紀弁護士は学校の対応の不備を指摘する。

 (うるわ総合法律事務所 松田真紀弁護士)
 「初動っていうのをまず大きく間違えていたところが大きいですね。(いじめが)起こった時点でまず多くの人数で情報共有しましょうとなっているのに、まずそこができていない。最後まで被害生徒に沿った対応ができていなかった。それによって被害生徒は余計に傷つく、というようなことが今回は起こりましたね」

市教委は『重大事態』に認定

 顧問が相談を受けた際に真剣に対応していれば、転校するまでに至らなかったのではないか。今回のいじめ問題を「重大事態」と認定して調査を進めている枚方市教育委員会に話を聞いた。

 (枚方市教育委員会・児童生徒支援課 齋藤博課長)
 「『学校いじめ防止基本方針』に基づいた組織的な対応が、いじめ発生後すぐにできていなかったことについては課題だったと捉えているところです。(Q顧問が1人で対応したことについては?)現在、調査報告書を作成している段階でありまして、被害生徒と保護者とも最終調整をしている段階となりますので、詳細な対応についてはお答えできない」

 学校の対応の不備は認めたものの、詳細は調査中のため答えられないと話した。

顧問本人に取材

 では、いじめを他の教諭と共有しなかった部活の顧問はどう思っているのか。電話で取材すると次のように話した。

 (Aさんが所属していた部活の顧問)
 「私単独でお話させてもらえないので、学校もしくは教育委員会の方を通していただきたいんですけれども。(Q生徒がいじめで半年以上苦しい思いをした?)まあ、そうですね。はい。(Qそれに対してどう思うのか?)申し訳ないとは思っているんですけども、学校や委員会を通してもらってよろしいですか」

市は調査結果を公表へ 父親「絶対に再発防止に繋げてほしい」

 Aさんがいじめを顧問に相談してまもなく2年半。枚方市は近く調査報告書を公表する方針だ。

 (Aさんの父親)
 「報告書もおそらく上がってくると思いますけど、『おそらく黒塗りで出ますよ』と担当者にも言われましたし、じゃあ何の意味があるのかなって。きれいごとじゃなくて絶対に再発防止に繋げてほしい」

 娘のSOSがなぜ受け流されたのか。Aさんの両親は今も答えを探している。