インターネットで不特定多数から資金を集めるクラウドファンディングだが、ペットの治療費を集めるクラウドファンディングで問題が起きている。ペットの飼い主が呼びかけて集まったお金が、クラウドファンディングの事業者側から飼い主に渡されないというのだ。問題となっている事業者に迫った。

猫の治療費が200万円近く必要…クラファンで寄付募ることに

 保護した猫の里親を募集する譲渡型保護猫カフェ「ふにゃり」を静岡県で経営する金丸哲弥さん。
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 今年6月、猫のかずやくんが突然エサを食べなくなり、病院に連れて行ったという。
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 (保護猫カフェふにゃり・店主 金丸哲弥さん)
 「この子の場合は『体調悪いな』というところから始まりまして。病院で調べてもらったら『FIPになっているよ。陽性になっちゃっているよ』と。そのまま治療を始めてくださいということでお薬をいただいたりとか血液検査をやっていただいたりとか」
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 病院で診断されたのはFIP=猫伝染性腹膜炎。猫だけに感染するコロナウイルスが突然変異を起こすことで発症する病気だ。胃や肝臓などの腹膜が炎症を起こして神経麻痺などの症状が現れ、致死率は100%近くになるとも言われている。
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 (保護猫カフェふにゃり・店主 金丸哲弥さん)
 「お薬は1錠の金額がここ(病院)の場合5500円。数量が体重によって変わってくるので、36.75錠分。これで20万円ですね」

 FIPの治療には保険が適用されない高額な薬を投与する対症療法しかない。かずやくんの場合に想定される治療費は総額200万円近く。そこで金丸さんが頼ったのがクラウドファンディングだった。

 (保護猫カフェふにゃり・店主 金丸哲弥さん)
 「お金をかければ治ることがわかっていれば、やっぱりかけてしまうというのがどうしてもありますので。そこで皆さんにお願いするということでクラウドファンディングをやらせていただきました」

 かずやくんのために選んだのは2年ほど前にオープンした“日本初の動物専門”をうたうクラウドファンディングサイトA。動物専門ということもあってか、病気にかかったペットの治療費を募るプロジェクトが100件以上立ち上がっていた。
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 このサイトでは、飼い主らが立てた目標金額に対して、支援者はそれぞれ好きな金額を選んで寄付する。ホームページによると、サイトA側は集まった支援金から手数料10%を差し引いたものを飼い主に支払う仕組みのようだ。

“集めた治療費が届かない”訴える声が同サイト利用者から相次ぐ

 金丸さんはかずやくんの84日分の投薬費用や検査・通院費用などとして175万円を目標に設定した。しかし寄付を募ってまもなく、あるトラブルを耳にしたという。
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 【SNSの投稿より】
 『皆様から頂いた大切なご支援が未だに届いておりません…』
 『本日9月9日、振込予定ですがまだ入金はありません』

 SNS上でクラウドファンディングサイトAで集めた治療費が届かないと訴える声が相次いでいたのだ。
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 かずやくんのために集まった治療費15万円ほどについても、今も振り込まれないままだという。

 (保護猫カフェふにゃり・店主 金丸哲弥さん)
 「振り込みのリクエスト(申請)をやったのが8月4日ですね。2か月以上が経っていますけど、まだ振り込みはないですね」
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 一方で、サイトAのホームページ上には「運営者の体調不良により運営を停止している」と書かれている。サイトA側が説明を行ったのは“体調不良で対応できない”とする内容を記したこのページのみ。被害者らは何か月も連絡が取れない状態だという。

事務所を訪ねるも…そこには別の会社が

 一体なぜ支払いが滞っているのか?取材班は今年10月14日、サイトAを運営する法人に話を聞くべく、東京へと向かった。事務所として登録されている渋谷のオフィスビルを訪ねると…。

 (記者リポート)
 「事務所とされている住所に来ましたが、別の会社が入っていますね。ここには事務所がないようです」

 入居していた会社にサイトAについて尋ねてみた。

 (記者)「ここは御社の借りていらっしゃるところですか?」
 (入居していた会社の人)「そうですね」
 (記者)「ここにサイトAが入居されていたことはありますか?」
 (入居していた会社の人)「あんまりお客さんの情報というのは何も話せない。基本的には出せないです」

 ここはレンタルオフィスでサイトAは住所を借りているだけのようだ。

 取材班は続いて法人の代表S氏の自宅があるとされる千葉県へと向かった。

 (記者リポート)
 「やっぱりいないです。ただ住んではいるみたいで…」

 ここにもS氏はいなかった。管理人によるとS氏はしばらく出入りしていないという。

 取材班は後日、サイトAに問い合わせたが、指定した期日までに回答はなかった。

クラファンサイトA側が罪に問われる可能性は?

 泣き寝入りを強いられる飼い主たち。体調不良を訴えるサイトA側だが、支援金の未払いが続く現状で、罪に問われる可能性はないのか?詐欺に詳しい松尾善紀弁護士に話を聞いた。

 (松尾善紀弁護士)
 「最初から寄付を募ったお金を渡すつもりがないとかだと詐欺になるし、お金を預かって送金しなければいけないのにそれを行わずに別の目的に流用したということになれば場合によっては業務上横領罪。今回のケースが悪質だなと思うのは、寄付した人とプロジェクトを立ち上げた人、両方の信用信頼を裏切ったという点ですよね」

「お金が入ってこないと命が失われてしまう可能性がある」

 重度の感染症を発症していた猫・かずやくん。カフェの客などからの支援でなんとか治療費をやりくりして一命をとりとめた。
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 (保護猫カフェふにゃり・店主 金丸哲弥さん)
 「全く僕らのことを知らない、かずやのことを知らない方も、なかには支援してくれている方がいらっしゃると思うんですね。そういう方は善意でやってくれていることなので、それを全て無にするということは本当はやってはいけないことですし。(お金が)そこで入ってこないということは、この子たちの命が失われてしまう可能性がありますので。それも考えていただきたい」

 人々の善意で成り立つクラウドファンディングでのトラブル。飼い主らは今も説明を待っている。