2025年大阪・関西万博に向けて大阪市が目指しているのが『市内全域での路上喫煙禁止』だ。その切り札となるのが1か所1400万円かかる公衆喫煙所。予算も期間も限られている中で、本当に実現可能なのだろうか。取材を進めると見えてきた課題もあった。

路上喫煙禁止に向けて重要視される『喫煙所の整備』

 2025年に開催される大阪・関西万博の期間中には国内・海外から大勢の観光客が大阪の街を訪れると期待されている。そうした中、ホストタウンの大阪市が打ち出したのは市内全域の路上喫煙禁止だ。

 (大阪市 松井一郎市長 今年3月)
 「世界的に受動喫煙が大きな問題となっており、万博の開催理念に照らせば、全市域で路上喫煙を禁止することが時代の要請でもあります」
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 大阪市では現在、御堂筋・梅田・難波など市内6つのエリアを路上喫煙禁止地区に指定し、違反者から1000円の過料を徴収している。しかし今回、万博のテーマに「健康」を掲げていることから、2025年1月に市内全ての路上を喫煙禁止にしようというのだ。

 その対策として最も重要視されているのが喫煙所の整備だ。

 (大阪市環境局・まち美化担当 木村舞子課長 今年9月の大阪市路上喫煙対策委員会)
 「路上・公園・広場で(喫煙する)と回答された方について、そこで喫煙する理由を質問しました。回答として一番多いのは『近くに喫煙所がないからそこで吸っていた』というのが72.9%」

 現在、市が設置する喫煙所は6か所のみ。市内全域で路上喫煙を禁止する場合、喫煙所の整備は不可欠だ。

区内全域禁煙の東京都千代田区…喫煙所の9割超を民間が運営

 その整備方法について大阪市が参考にしている都市がある。官公庁や多くの企業がオフィスを構える東京都千代田区だ。

 (東京都千代田区・地域振興部安全生活課 乙部冬子さん)
 「(Q千代田区での路上喫煙は?)現在は皇居を除く全域が禁煙になっています」

 千代田区では、2002年に一部区域で路上喫煙を禁止したのを皮切りに約7年かけて範囲を広げ、2010年には区内全域を禁煙にした。
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 (東京都千代田区・地域振興部安全生活課 乙部冬子さん)
 「(Q今いる場所は大きな交差点ですが?)吸い終わったらペッと(捨てて)行っちゃうのが当たり前だったのが20年前。この辺もずっと吸い殻だらけでした」
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 千代田区には公衆の喫煙所が現在74か所あるが、実はその9割以上は区が民間にお金を出して運営してもらっている。
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 喫煙所を整備する初期費用については700万円を上限に区が全額を補助。さらに年間264万円を上限にテナント賃料の全額と清掃費用など諸経費の8割を負担している。

区の補助で店の一部を『喫煙所に改装』したカメラ店

 千代田区内に店を構えるカメラ店「ヒライ商会」でも店の一角に喫煙所が設置されていて、記者が訪れた時もタバコを吸う人が列をなしていた。
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 商品が並んだ先、店の奥に設けられた喫煙所は一度に6人ほどが入れる広さとなっている。
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 6年前に約400万円の補助を受けて店の一部を喫煙所に改装したという。

 (ヒライ商会 平位誠一さん)
 「(店を)直す前は壁面に全部カメラの商品とかがあった。(Q喫煙所設置のきっかけは?)下火になるじゃないですかカメラ業界が。『そろそろカメラ店も終わりかな』と思った時に勧められて」
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 現在は証明写真の撮影などカメラ店の業務をする一方、喫煙所利用者らへのタバコ販売も並行して行っているという。
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 (ヒライ商会 平位誠一さん)
 「メリットは金銭的なものが一番。普通は民間に貸そうとすると厳しいスペースの大きさだしなかなか貸しづらいけど、喫煙所にすることで店の半分のスペースの家賃をもらえるから、そういう意味で黒字」

人口で見ると大阪市は千代田区の3倍超…2年で整備は「難しいのでは」

 手厚い支援によって着実に喫煙所の数を増やしてきた千代田区だが、大阪市が同じ方法で成功するかというと疑問符がつく。2020年の国勢調査によると、千代田区(面積:約11.7平方キロメートル)で人が活動する昼間の人口は約117万人。対して大阪市24区(面積:約225平方キロメートル)は約365万人とその差は3倍以上。単純に人口比で考えれば、千代田区が10年以上かけて増やしてきた喫煙所の3倍の数を大阪市は2年で整備しなければならないこととなる。

 (東京都千代田区・地域振興部安全生活課 乙部冬子さん)
 「(Q2年間で地元の合意形成や設備を整えることは?)全域は…千代田区の何倍あるんですかという広さですので、正直難しいんじゃないかと思います。全域というのは」

1400万円かけて大阪市内に設置された喫煙所

 一方で喫煙者のマナーの問題もある。大阪市役所の目と鼻の先にある大阪市北区の堂島公園にはこれまで屋外型の喫煙所が設けられていた。しかし今年9月に公園内が路上喫煙禁止地区となったことに伴い、代わりに閉鎖型の喫煙所が設置された。設置費用は基礎工事と喫煙室の費用で約1400万円だ。
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 (記者リポート)
 「中は思ったよりも広い印象ですね。約6畳で定員は10人ほどということだそうです」
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 取材した日の正午過ぎ、昼休みのサラリーマンらが次々と喫煙所へやってきた。

 (記者リポート)
 「見ているだけでもかなり多くの人が入っていまして、外では順番待ちをしている人もいます」

 この時間、どれだけ混んでいても喫煙者たちはきちんと喫煙所内でタバコを吸っていた。

喫煙所があるのに外で喫煙する人も

 しかし日が傾いた午後5時すぎに状況は一変した。

 (記者リポート)
 「紙タバコですね。吸っていますね」
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 喫煙所がそばにあるにもかかわらず、禁止された公園内でタバコを吸う人がいた。記者が話しかけてみた。

 (公園内でタバコを吸っていた人)
 「(Qここは禁煙って知っていました?)すみません。(Q喫煙所が近くにあるのに外で吸う理由は?)ちょっと暑いから…」

 いたるところに喫煙禁止の貼り紙があるが、見向きもせず喫煙する人は後を絶たない。しばらくすると足元には吸い殻がいくつも残されていた。
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 なぜわざわざ外で吸うのか?ある男性は次のように話した。

 (外でタバコを吸っていた人)
 「あっち(喫煙所)で吸う時もあれば、あっちは人が多いので…。(Qきょう外で吸っていたのはなぜ?)涼しいですし、(喫煙所は)人が多かったりするので。あまり窮屈だとしんどい。息が詰まる。(Q路上で一切吸えなくなったら路上喫煙はゼロになると思う?)絶対にならないと思います」

松井市長「建設は短時間でやれるので十分間に合う」

 1400万円という莫大な費用をかけて喫煙所を設置しても、変わらない喫煙者のマナー意識。本当に2025年までに市内全域での路上喫煙禁止を実現できるのか?松井市長は次のように考えを述べた。

 (大阪市 松井一郎市長 11月9日)
 「場所さえ決まれば建設期間は非常に短時間でやれるので、(喫煙所整備は)十分間に合うと思っています。吸う人も吸わない人も共存できるエリアを目指していきたいと思っています」

 残された時間は2年あまり。財政も限られる中、市が思い描くタバコの煙のない街の実現はまだ手探りの状態だ。