多くの人が利用しているSNSだが、企業の採用現場では今、応募してきた人材のSNS投稿をチェックする動きがある。それらを請け負う専門業者は、匿名で投稿する“裏”のアカウント『裏アカ』も調査しているという。SNS投稿の“表と裏”をチェックする行為に法的問題はあるのか?また企業側が抱える切実な現状とは?SNSの調査現場に迫った。

『学生らのSNS調査サービス』とは?

 東京・飯田橋にある「企業調査センター」。社員ら約10人がパソコンの画面に向かう。
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 画面は2つあり、映し出されているのは、右の画面が就職用のエントリーシート。そして左がSNSのページだ。

 この会社では、企業から依頼を受けて学生たちのSNSを調査するサービスを提供している。
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 (企業調査センター 高田宗調査員)
 「1日10件~20件。月で300件~500件の調査をさせていただいている」

 今調べているのは、ある金融系企業の新卒採用に応募した学生たち。最終面接を控えた面々だ。

 (企業調査センター 高田宗調査員)
 「本名で検索して単純に出てくることもありますし、学校の入学年度から同級生を探して、その友達の中からそれっぽいアカウントを見つけていく」

『ツイッター裏アカ』きっかけに『インスタ裏アカ』を発見

 企業から提供されたエントリーシートを基に出身地・出身校・誕生日などが一致するアカウントを探す。すぐに調査対象の男子学生が匿名で公開しているアカウント、いわゆる『裏アカウント』を見つけた。

 (企業調査センター 高田宗調査員)
 「匿名のアカウントですけど誕生日も一致する。裏アカ的な形ですよね。調べていくとどんどんツイッターのIDがわかって、インスタでIDを使いまわしていてわかって、とか」

 ツイッターをきっかけにインスタグラムなどでも男子学生の裏アカを発見。投稿数は合わせて数千あったが全て確認したという。

 (企業調査センター 高田宗調査員)
 「お友達と仲良くコミュニケーションを取られていて、極端に何か悪いことを言っていることもないようなので。このアカウントからわかることに関しては、しっかりとした生活を送っている、ちゃんとした方なのかなと」

投稿内容を調べて4~5段階で判定

 この会社では2020年から学生らのSNSを調べるサービスを始めた。料金は1人につき1万6500円(税込)。アカウントの特定と、投稿内容を調べた後に「懸念なし」「懸念される情報あり」「重大な懸念あり」など4~5段階で判定をする。
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 (企業調査センター 角田博事業部長)
 「これは新卒採用の方なんですが、判定としてはひとつ悪い判定になっています」

 これは以前の調査で実際に見つかった「確固たる証拠はないが懸念有」と判定された学生だ。
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 (企業調査センター 角田博事業部長)
 「インスタグラムの中でポーカーとか賭博行為を行っている可能性というのが」
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 また別の候補者の裏アカには、アルバイト先の居酒屋で閉店後に全裸になっている様子が投稿されていた。

 (企業調査センター 角田博事業部長)
 「こういう投稿をする方って社会人になってからもそういう悪ふざけの癖ってなかなか抜けないと思うんですよね。こういった悪ふざけの投稿を仕事中とかにしてしまうと、会社の信用度が下がってきてしまう。そういうところを懸念として企業さんは見ていると思います」

居住地を訪れて『近隣住民に聞き込み』することも

 さらに企業の要望に応じて採用候補者の居住地などへ調査に赴くこともある。

 (企業調査センター 角田博事業部長)
 「よくわかってくるのが、例えば副業やっていますとか、会社やっていますとか。あと騒音トラブルとか、住民との間でいざこざがありますよとか、そういうのを聞けることがありますね」

 取材した日に訪れたのは関西のとある場所。ある企業の中途採用に応募した30代の人が住むマンションに聞き込みに来た。
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 (角田さん)「すみません、ちょっとお伺いしたいんですけども、住人の方に変わった人とか?」
 (近隣住民)「そんな人いませんよ」
 (角田さん)「面倒くさそうな人とかいないですか?」
 (近隣住民)「みんなおとなしい」
 (角田さん)「(部屋番号)の方ってお名前わかります?」
 (近隣住民)「知らない」
 (角田さん)「誰も知らない?」

 (角田さん)「隣の音とかうるさかったりはないですか?」
 (近隣住民)「私は聞かないですね」

 調査対象に気付かれないよう、1時間ほどかけて近隣住民に聞き込みをしたが、特に不審な情報は得られなかった。

 (企業調査センター 角田博事業部長)
 「(情報が)出てきちゃったりすると、何かしら目立った行動とか問題行動とかがある可能性が高い。隣近所の人もその方のことを知らないし、言ってみればひっそりと問題なく生活をしているのかなというところですね」

コロナ禍で裏アカ調査の需要が「爆発的に増えた」

 この会社が裏アカ調査のサービスを始めたきっかけは新型コロナウイルスのまん延だった。

 (企業調査センター 角田博事業部長)
 「WEBで面接すると『その方のことが対面の時よりよくわからなくなってしまった』というのが一番よく聞く話ですね。じゃあ他にわかる手段は何かないかって探していたら、SNSがあるんじゃないかということで。SNSを見てみたいという企業さんが爆発的に増えた」

 2020年9月にサービスを開始して以来、これまで100社以上から依頼があり、その多くが大手企業だ。
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 必要性が高まる一方で、個人情報の提供を受けることやSNSから情報を収集することに問題はないのか。

 (企業調査センター 角田博事業部長)
 「個人情報に関しては全て管理は徹底していますし、取り扱いに関する同意も(企業が)候補者の方からいただいていますので、全く問題がないですね。誰もが見られる公知情報を私たちは収集して、収集や分析の仕方にノウハウがあるので、そこを皆さんに情報として提供しています」

企業側「面接の姿が真実の姿だと思って面接していない」

 一方で、企業は採用選考で面接や筆記試験などを実施しているのに、なぜこうした裏アカ調査サービスを利用するのか。来年4月に新卒社員10人の採用を予定している企業の担当者が匿名を条件に電話取材に応じた。

 (関東地方の小売業の採用担当者)
 「現金商売をしていますので、内部不正ですとか、過去にも従業員の不正があったので、利用しました。プライベートの生活、ギャンブルですとかそういったことをしているのか、あと交友関係を気にして見ていますね」

 社員が現金を直接扱う小売業のため不正のリスクを減らすのが目的だという。

 (関東地方の小売業の採用担当者)
 「(学生は)採用してほしいと思って来ていると思いますので、学生さんたちは自分を良く見せたいと思っていますので、その面接の姿が本当に真実の姿だと思って面接はしていない」

厚生労働省「就職差別に繋がる恐れ…しかし不正とまでは言い切れない」

 企業の採用活動で重宝される裏アカ調査。一方で就職差別への懸念もあるのではないか。職業安定法では、家族の職業や本人の資産、思想信条に関わる情報などの収集を原則認めていない。また、企業に「公正な採用選考」の指針を示している厚生労働省も、身元調査については「就職差別につながる恐れがある」としている。
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 SNSの裏アカ調査に問題はないのか?就職活動を所管する厚生労働省に話を聞いた。

 (厚生労働省職業安定局・就労支援室 矢野誇須樹室長補佐)
 「例えば出生地だとか親の職業だとか、そういうところの把握につながる恐れが非常に高いものですから、そういう意味ではアカウント調査をやることは基本的には好ましくないと思っています」
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 一方で企業側にも採用の自由が認められていて現時点で規制まではできないという。

 (厚生労働省職業安定局・就労支援室 矢野誇須樹室長補佐)
 「調査自体が明らかに違法だとか不正だとか、そこまでは言い切れない部分もあります。会社側としてはいろんな情報を知りたいというところで、我々としてダメと言っていいのかというと、そこは正直難しい面があると思っています」

 匿名の裏アカから社員としての適正を判断される現実。リスクをできる限り回避したい企業の事情もわかるが、プライベートの情報をどこまで調べるのか、その線引きが求められている。