奈良県平群町にある町営プール「平群町ウォーターパーク」。ピーク時には約3万人が利用していたが、去年12月に『多額の改修費』を理由に廃止が決定した。町が住民に説明した改修費は約5億4000万円。これ対して住民らは『改修費の算定がずさんだ』などとしてプールの存続を求めて監査請求を行う事態に発展している。

町営プールが突然廃止に…背景に“約5億4000万円の改修費”

 のどかな風景が広がる奈良県平群町。人口約1万8000人の小さな町が今“ある問題”で揺れている。

 (平群町に住む須藤啓二さん)
 「ここが去年、平群町議会で廃止が決められた『平群町ウォーターパーク』。子どもらが今だったら楽しんでいるはずの施設なんですね」

 平群町に住む須藤啓二さん(70)。問題となっているのは1993年にオープンした町営の『平群町ウォーターパーク』だという。
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 3種類のウォータースライダーに流水プール。ピーク時には3万人が利用する、まさに町民の憩いの場だった。
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 しかし、去年12月の町議会で突然、廃止が決まったのだ。その根拠とされたのが多額の改修費だ。町は「老朽化した施設を改修するには約5億4000万円かかる」と説明したという。

 (須藤啓二さん)
 「そこに入っている金額を住民から見ると5億円~6億円の金額がかかるのであれば廃止もやむを得ないと判断された方も多いと思うんですけど」

老朽化は進んでいるものの新調済み補修済みの部分も

 問題のプールはどれくらい老朽化が進んでいるのか。町の許可を得て取材班は施設の中に入ることができた。

 (平群町の担当者)
 「(階段は)ご覧いただいた通り非常に劣化が激しくて、特に小さいお子さまも歩かれますので、安全対策上で十分な維持補修が行き届いていない状況でございます」
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 プールサイドのシートは至るところで剥がれ落ち、ウォータースライダーはツタに覆われて鬱蒼としている。新型コロナウイルスの影響で2年間営業できなかったこともあり劣化が進んだようだ。ところが…。
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 (記者リポート)
 「こちらの『ろ過ポンプ』ですけれども、3年前に取り換えられたばかりということで見た目はかなりきれいです」

 水を浄化する「ろ過ポンプ」はなんと最後に営業した2019年に新調されたという。幼児用プールも5年前に全面補修をしたばかりだった。
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 (平群町の担当者)
 「こちらが流水プールとなっております、水の入れ替えをしておりませんので今は見えませんが、プール槽にささくれや塗装の剥離などが見られます。(Qコロナ以降、水を抜いたことはあった?)今のところございませんでした」

 プールの底は損傷が激しいというが、水を抜いて確認したのは3年前だという。

他のプールと比べると?

 営業開始から28年で本当に改修は必要なのか。取材班は廃止の決定が妥当かどうか調べることにした。

 最近に奈良県内で廃止された公営プールは3つ。このうち、奈良県営のプールは34年間、香芝市のプールは36年間、桜井市では49年間も営業していたことがわかった。いずれも平群町の28年よりも長い。
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 営業中のほかの公営プールはどうなのか。

 (記者リポート)
 「こちらは平群町の隣町・三郷町のウォーターパークなんですけれども、すでに平群町を超える31年も営業を続けています」

 今年で営業開始から31年目を迎えた町営プール『三郷町ウォーターパーク』。この10年間の改修費は1億円ほどだという。これと比べると平群町の改修費5億4000万円はかなり高いようだ。一体なぜなのか。

見積書は5年前の“大規模リニューアル計画”のものだった

 (須藤啓二さん)
 「最終的に出てきたのがこの資料なんですね。これが(改修費の)唯一の根拠だということで」

 改修費の内訳について町側が住民に示した資料がある。複数のプール槽で補修が必要だとされ費用の大部分を占めている。
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 しかし情報公開請求で入手した改修費の根拠である見積り書には目を疑う説明があった。「解体撤去」や「プール工事」など、劣化した箇所の補修ではなく、実際はプールの設備自体を一から作り直す計画になっていたのだ。
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 (須藤啓二さん)
 「プールを解体して新しくするという記述が一切入っていないんですね。これは住民に『入れ替えだから(改修費が)高いというのではなく補修をすると高いんだよ』とすり替えられているような気がします」

 取材を進めると、この見積り書は廃止が決まる5年前に「大規模リニューアル」の計画が持ち上がった際に作ったものと判明。町側は今回の改修費の作成にあたっては新たな調査を一度もしていないという。
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 大規模な改修が本当に必要か。公営のプールを数多く製造してきたA社に尋ねると次のよう答えた。

 (大手プール製造会社A社の担当者)
 「(平群町のプールの材質は)塗り替えの必要がないので維持管理費が安いというところと、腐らない腐食しないので長く使っていただけるという特徴があるプールですね。(Qプール設備を一から作り直す必要はない?)それはないですね。よっぽどなことだと思うので」

 A社の担当者は「プール槽を入れ替える必要はなく改修費も十分の一ほどで済む」と証言した。
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 この問題は議会でも取り上げられていた。

 (平群町議会 山口昌亮議員 今年3月)
 「入れ替えと補修が一緒なはずないでしょう。『一部入れ替え』ってこれ全部やんかプール槽。そんな重大なことを説明していないのよ」
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 (平群町教育委員会 教育長)
 「修繕の見積もりにつきましては非常に概算過ぎるところがございます。安全安心を担保した上でウォーターパークの運営を続けていくということは財政的に非常に困難である」

プールの存続を求めて住民らが監査請求

 プールの改修費の算定はずさんだったのではないか。町に話を聞くと次のように答えた。

 (平群町教育委員会 川西貴通教育部長)
 「当時の見積もりが概算ですけれどもあったということでそれを参考にした。(改修費が)きっちり5億4000万円じゃないというチェックは甘いかもしれません。(Q住民で改修費が違うならプールがあった方が良い人もいるかもしれないが?)それはおられるかもわからない。(Q説明は適切だった?)難しいところですね。判断が変わるかというと、それなりの金額が必要ではないかなというのが今の思いなんです」
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 そして8月31日、須藤さんら住民グループは「必要ない工事費が計上されるなど改修費の算定はずさんだ」などとして、プールの存続を求める住民監査請求を行った。

 (須藤啓二さん)
 「(営業年数は)今でもまだ28年しか経っていないんですね。そういう意味ではまだまだ私は使える施設だと思いますので、ぜひ存続して欲しいと願っています」

 町のずさんな対応により姿を消そうとしている町民の憩いの場。行政の説明責任が問われている。