インターネット上で販売されていた“食べると痩せる”というゼリー。1箱15本入りで、箱に同封されている紙にはベトナム語で「5kg~15kg痩せる」ということが書かれていた。しかし、ゼリーを食べた人からは健康被害を訴える声が続出。取材班が調査を進めていくと、ゼリーには“日本では承認されていない医薬品成分”が入っていることがわかった。

“食べたら痩せるゼリー”…しかし口にすると「動悸や息切れ」などの被害

 兵庫県西宮市に住む34歳のAさん。今年2月、ある動画配信サイトに登場する女性の姿に目が釘付けになったという。

 (Aさん)
 「元々少しぽっちゃりしている方だったんですけど、すごく激やせしていて。『こんな痩せてなんでなんやろ?』と」
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 Aさんが見た動画に登場する女性が販売していたのが“食べると痩せる”というゼリー。

 (動画内でゼリーを紹介する女性)
 「こちらになっております。こちらのダイエットゼリーを食べて私も40日間で10kg落ちました~。ほらこれだけ細くなって半分もなくなっちゃったの。見てこれわかりますか?やばいでしょ?」
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 (Aさん)
 「私は子どもがいて出産しているので、昔より体重がものすごく増えたんです。なのでもう一回きれいになりたいなと思って」

 ゼリーは1箱15本入りで、2箱で8800円。『これで痩せられるなら…』とすがる思いでAさんはすぐに購入した。
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 (Aさん)
 「セロリ味とブラックカカオ蜂蜜入りなんですけど、両方とも少し苦味はあります。味は違うんですけどカカオのほうが甘い」

 ゼリーの味はダイエット食品の定番のカカオやセロリで、「天然由来成分から作られた」と書かれている。同封されている紙は保証書で、ベトナム語で「5kg~15kg痩せる」とうたっている。
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 女性から毎朝1本食べるよう勧められ、Aさんはゼリーを受け取った翌朝、早速1本食べた。すると夕方になって突然、体に異変を感じたという。

 (Aさん)
 「(外出先の)コンビニで立てなくなってしまって。冷や汗がすごくて、息もできないくらいの動悸や息苦しさがあって。たぶん20分くらいはそこにしゃがみ込んでいた感じです」
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 その後もゼリーを食べた日に限って体調を崩したという。ネット上にはこのゼリーを食べて同じように体調を崩したという声が複数上がっていた。

 (ゼリーを食べた人のネット上の声)
 「13.5kg減りましたが、動悸がなかなか収まりません」
 「今日は微熱もあり、1か月近く体調不良ばかり」

成分調査の結果“日本では承認されていない医薬品成分”を検出

 ゼリーを食べた複数の女性が健康被害を訴える事態。一体、何が含まれているのか。取材班はゼリーの成分を専門家に詳しく調べてもらうことにした。すると…
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 (日本分析化学専門学校 渡邉快記教務部長)
 「この赤い線がゼリーの成分ですね。ピークと言って含まれているものが出てきます。拡大しますと『シブトラミン』の合成品の出てくる検出時間がゼリーの成分の検出時間と同じですので、これらは同じ成分であるということで」
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 検出されたのは『シブトラミン』という日本では承認されていない医薬品成分。食欲を抑制する作用がある一方で、血圧の上昇や心拍数の増加などの副作用があると言われている。アメリカではいわゆる“痩せ薬”として一時は肥満治療に使われたが、54人が死亡するなどの健康被害が報告され、欧米などでは現在は販売が中止されている。
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 さらにゼリーには他の成分も入っていた。

 (日本分析化学専門学校 渡邉快記教務部長)
 「おっ、すごいですね。結構色が変わりましたね。『フェノールフタレイン』が反応してこういった色になったと考えられます」

 かつて下剤として使われたものの、発がん性のおそれがあるとして販売が中止された『フェノールフタレイン』も含まれていたのだ。

動画配信をしていた女性『だまされていたんですよ』

 天然由来成分をうたうゼリーに一体なぜシブトラミンなどの成分が含まれているのか。Aさんにゼリーを販売した配信者の30代女性に話を聞くため、取材班は福岡県へと向かった。

 動画配信中の女性の部屋に入ると片隅にあのゼリーが大量に積みあがっていた。

 (ゼリーを販売した女性)
 「私、今回わかったことがあって。たぶんだまされていたんですよ。ベトナムから」

 女性は会うなり「自分もだまされた」と訴えてきた。去年10月に知り合いのベトナム人から紹介されてゼリーを販売するようになったという。
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 (ゼリーを販売した女性)
 「最初は『いい商品がある。めちゃくちゃ痩せる』と言われて、(ゼリーを)食べたら全然入らないし、(ベトナムの)フォーが。あれ、おかしいなと思って、『これめちゃくちゃいいですね』と言って」

 ゼリーを食べると食欲がなくなり、女性はわずか2か月で12kg痩せたという。その後、女性の配信動画を見た人たちにゼリー500箱ほどを販売。さらに1000箱仕入れた時にシブトラミンが検出されたと保健所から連絡があったという。
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 シブトラミンは日本では承認されていないためゼリーの販売は罪に問われる可能性があるが、女性は「シブトラミンが入っていたことは知らなかった」と話した。

 (ゼリーを販売した女性)
 「日本に入ってきている製品が決して悪い製品だとは思わないから。もし本当に(シブトラミンが)入っていたら本当に危ないものだから、どれだけ欲しくてもだめだと言っていこうと思います」

被害があったゼリーは“模倣品”と説明…精巧な作りで『見分ける方法はない』

 女性によると、ゼリーの仕入れ先は名古屋市にある“輸入品販売会社X”。真相を確かめるため取材班は今年6月に名古屋に向かった。

 (記者リポート)
 「この建物ですね。シャッターが閉まっていて誰も居るような気配は今はありません」

 しかし会社はもぬけの殻だった。近所の人の話では去年12月ごろに入居し、ここで衣服などを販売していたが、1か月ほどで閉鎖したという。
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 その後、X社の代理人弁護士が取材に応じた。意外にもX社も「シブトラミンに心当たりがない」という。

 (X社の代理人弁護士)
 「成分結果通知というものが発行されておりまして、それに『シブトラミンが検出されていない』という成分結果があるので、安心して仕入れていると。ベトナムではこの模倣品が出回っているという噂があると。なので偽物じゃないかということを言っている」
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 代理人弁護士によると、シブトラミンが検出されたゼリーはベトナムで出回っている“模倣品”なのだという。提供してもらった正規品のゼリーと模倣品を比べてみると、パッケージは全く同じ。印字された製造番号や製造日まで同じという精巧さだ。

 (X社の代理人弁護士)
 「(模倣品と見分ける方法は?)私も聞いたんですが…ない。結論的にはないだろうと思います。どれが正規品でどれが模倣品なのかをどう特定するのか、私自身も検討中であります」

 健康被害を引き起こすおそれがある“偽物の痩せるゼリー”。被害を訴える声は全国で上がっていて、保健所などは購入を控えるよう注意喚起する方針だ。