兵庫県西宮市の小学校で『いじめの隠ぺい』ともとれる事態が発覚した。今回、いじめを受けた児童の両親が取材に応じた。両親は教育委員会と学校の対応に疑問を持っている。
西宮市立小学校で「集団によるいじめ」が発覚
今年3月、兵庫県西宮市の教育委員会が、ある会見を行った。
(西宮市教育委員会・学校保健安全課 濱本新課長)
「市立小学校において集団によるいじめ事案が発生し、現在、当該校と教育委員会が連携し、いじめの全容を把握するための調査…」
市教委などによると、去年10月に西宮市立小学校で、6年生の男子児童がクラスの28人中26人から悪口を言われたり無視されたりするなどのいじめを繰り返し受けていたことが発覚したのだ。
把握から1か月経ってもアンケート調査などの対応なし
今回、被害児童の両親が「学校や市教委の対応について話したい」と取材に応じた。
(被害児童の母親)
「知った時は本当にショックでしたし、普段の息子の姿を学校と情報交換できていたらもっと早く気付いてやれたんじゃないかなとか、自分をまずめちゃくちゃ責めました」
両親は担任からの電話でいじめの事実を把握。息子から話を聞く中で、何も気付いてやれなかったことを後悔したという。
(被害児童の母親)
「(Qその後の学校の対応は?)最初から最後まですべて口頭です。紙ベースのものは一切作らず、残してもらえず、(保護者らへの)周知もしてくれなかったんです。今思えば、きっと全部隠ぺいしたいから学校から発信されなかったんだろうなと思うんですけど」
いじめを把握した学校側は、1か月経ってもアンケート調査や学年集会など通常考えられる対応はしなかったという。
西宮市教委に電話…学校側には知らせないよう約束したのに『市教委は学校に連絡』
不信感を抱いた両親は市教委のいじめ相談ダイヤルに電話をかけた。
(被害児童の母親)
「いじめとして受け止めていただいているのかなって不安で、苦しくて苦しくて、こちらの相談ダイヤルにかけたんです。『絶対に学校には電話したことを言わないでほしい』と約束していただいて、私と息子の名前を伝えたんです」
電話はあくまで市教委が学校の対応を把握していたかどうかを確認したかっただけで、問い合わせたことは学校側には知らせないよう約束していた。しかし…。
(被害児童の母親)
「電話していた方とは違う方が電話をかけてこられて、意気揚々とした感じで、『学校の方にもちゃんと連絡を入れてどんないじめだったか把握できました』と報告されて。『え?ちょっと待ってください』と」
あろうことか市教委はすぐに学校に問い合わせをしたという。
(被害児童の母親)
「『こちらのミスです』と。『あせってしまって、きちっと意向を確認もせずに学校に電話してしまいました』とおっしゃっていました。(Q学校側に漏れたことで影響はあった?)学校が情報をとにかく伏せるようになった。聞き取りした内容も、2回目の聞き取りの時はこちらから聞かないと、学校は聞き取りしたことすらも伏せていましたし。こっちのことを信用してもらえていないなという感じ」
すぐに市教委に抗議したというが、市教委からは「引継ぎミスだった」などと説明を受けたという。いじめを受けていた息子は、不眠や幻聴を訴えるようになり、学校には通えなくなった。
報告書を持参した西宮市教委『SNSで拡散とか対外的に開示しないようにお願いしたい』
市教委や学校への不信感が高まる中、去年12月には、校長・教頭・担任らで構成された「いじめ調査委員会」が中間報告書を持ってきたという。その際のやり取りが録音されていた。
【市教委の担当者 録音されたやり取り】
「お渡しするにあたってお約束していただきたいことがいくつかありまして。内容を他人に見せたりとか、SNSで拡散とか、対外的に開示しないようにお願いしたいと思っています」
学校側は『第三者に内容を口外しないでほしい』と求めてきた。さらに…。
【市教委の担当者 録音されたやり取り】
「損害賠償請求等の資料として使わないということも、そういう目的のために調査をしているんではないというのはご理解いただいて、お願いしたいと思っています」
中間報告の段階で『裁判では使うな』ともとれる発言をしていた。
(被害児童の父親)
「まだ中身も見てへんし、内容の確認もまったくできてない状態で、得体のしれない書類に対して約束しろと言われても」
最終報告書の提出後に『児童が日記帳にSOSを書いていた』と判明
そして、今年3月14日、最終報告書が両親に提出された。報告書によると「集団で執拗かつ継続的に行われた極めて重大ないじめ行為」と認定された。しかし、その一方で「異変に気付くことはできなかった」と記されている。
【最終報告書の内容】
「日記や作文等も定期的に実施していましたが、本事案についての内容が書かれたことはなく、いずれも早期発見にはつながりませんでした」
この報告書が提出された4日後の3月18日。校長と担任が自宅を訪れ、こんなことを伝えてきたという。
(被害児童の母親)
「『実は学校で日記帳と作文帳を保管していたんです』と。『SOSを実は書いてたんです』と言って担任の先生が泣きながら…」
被害児童が書いた日記帳。担任が預かっていて、その存在を忘れていたという。1学期のある日、こんな記載があった。
【日記帳に書かれた内容】
「僕は今日、調子や機嫌が良くないです。今、話をしようと思える人は、友達のAさんくらいです。なぜかわかりませんが、機嫌が悪いです」
何かを訴えようとしていたともとれる内容。日記帳には、日々の出来事に対して担任の返事が書かれているが、この日は担任からのコメントはなかった。
(被害児童の父親)
「ちゃんとSOSを出してたんやなと」
(被害児童の母親)
「(報告書では)日記には何も書いていなかったと言い切っていたので。本当は日記と作文帳を隠ぺいして、書いていたことすらなかったことにしようと思ったのかとか」
いじめ問題に詳しい弁護士「最悪の対応」
今回の西宮市教育委員会と学校の対応は、適切だったと言えるのか。いじめ問題で第三者委員会の委員などを務めたことがある野口善國弁護士は次のように話した。
(いじめ問題に詳しい野口善國弁護士)
「一口に言えば、最悪の対応であると思いますね。中間報告書を手渡す際に『訴訟に使わないんであれば渡す』みたいな条件を強要していますけど、そんな条件を勝手につけることはできないですね。(Q日記の存在が後からわかったと主張しているが?)調査漏れならまだいいんですけれど、普通そんなところ(日記など)を見ないというのはありえないことで。これは事実の隠ぺいと取られても仕方がない。保護者から求めがあれば当然、第三者委員会を設置しなければいけないんですけれども、もしそれをしないということになるとですね、とんでもない法律違反になると思いますね」
野口弁護士は、一連の行為は隠ぺいと取られても仕方がない、と指摘した。
西宮市教委『今後も第三者による調査は行わない』
今回の対応について、市教委はどう釈明するのか。
(西宮市教育委員会・学校保健安全課 濱本新課長)
「(Q中間報告書を渡す際に約束を迫った理由は?)約束を迫ったというような認識は実はございません。仮に約束できませんとおっしゃられてもお渡ししようということで臨んでおりましたので」
最終報告書を提出した後に日記帳などが出てきたことについてはこのように話した。
(西宮市教育委員会・学校保健安全課 濱本新課長)
「見直してみたら書かれていたということですね。ただ担任はそこにコメントを返していないということで、残念ながら読めていなかったようです。(Qわかっていたが隠していたということはない?)そういうことではありません。知らなかった事実が本当に後から出てきたということで、大変申し訳ないという思いでいっぱいなんですけども」
今回のいじめ問題は学校が主体となって調査を行っている。本当に被害者に寄り添ったものだったと言えるのか。西宮市教育委員会は『今後も第三者による調査は行わない』としている。