殺人・殺人未遂・傷害致死・傷害・強制わいせつなど“生命または身体を害する罪に当たる行為(過失を除く)”によって死亡・重傷病・障害を負った時、被害者らに対する国の『犯罪被害給付制度』がある。被害者本人には最大4000万円、被害者遺族には最大3000万円が給付される。しかし実は、満額給付されるケースはほとんどなく、中には被害者にもかかわらず給付の対象外となるケースもある。犯罪被害者への補償の実態に迫った。

犯罪被害者への補償制度拡充のために再結成された「あすの会」

 今年3月、現職の国会議員や法務大臣経験者らが出席する中、ある団体が再結成された。全国の犯罪被害者らで作る「あすの会」。
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 (「あすの会」発起人代表 岡村勲弁護士(92))
 「(国は)被害者には年間10億円しか使わないのに、刑務所に入れている人のためには年間2643億円も使う。おかしいではないでしょうか」
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 あすの会は2000年に結成され、犯罪被害者の支援などに取り組み、刑事裁判への被害者参加制度の導入や凶悪事件の時効撤廃などを実現させた。そして4年前の2018年、“被害者の権利がある程度確立された”として一旦活動に終止符を打った。一体なぜ活動を再開させたのか?

 (「あすの会」発起人代表 岡村勲弁護士)
 「(国は)財源がないとよく言う。なんで被害者には出ないんでしょうか。出そうという気がないから出ないと私は思っています」

 犯罪被害者への補償制度を拡充させるために再結成されたのだ。突然事件の被害者になった時、実は国から十分な補償を受けられるわけではないという。

元夫からDVを受け顎に後遺症…病院代や元夫の借金で「生活は本当に苦しい」

 関東在住のハルさん(仮名・50代)。元夫から7年間にわたってDVを受け続けてきたという。

 (ハルさん(仮名))
 「暴力とか暴言で抑圧というか押さえられて、虐待と一緒なんでしょうけど、洗脳されていたのかなと思っています」

 酒に酔った夫から物を投げられたり殴られたり暴行を受け続けた結婚生活。事件が起きたのは3年前のことだった。
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 (ハルさん(仮名))
 「顎を殴られて。複雑骨折して計3回くらい手術したんですけど。麻痺も残っちゃっているし、(顎に)感覚がないんですよ、押しても。例えばお水とか飲んで、(水が口から)もし出ても、顎の先に行くまで気付かないんですよ」
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 ハルさんの元夫は現行犯逮捕され傷害罪で10か月間服役。ハルさんはこの間に民事訴訟を起こして離婚した。事件から3年以上が経った今も、顎の後遺症とPTSDに苦しみ続けていて、かつてのように働くことは難しいという。

 (ハルさん(仮名))
 「病院代とか離婚の弁護士代とか、(元夫は)すごくギャンブルをする人だったのでその時の借金とかもかさんでいて、生活は本当に苦しいです」

DVの被害者は『犯罪被害給付制度』の対象外「本当に不条理」

 犯罪被害者らには国から最大で4000万円ほどが支給される『犯罪被害給付制度』がある。しかしDVの被害者は原則対象外とされている。給付金が支給された場合に加害者に渡る可能性があるからだという。
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 結局ハルさんに支給されたのは自治体からの30万円だけだった。ハルさんは、元夫に対して裁判で350万円の慰謝料を勝ち取っているが、まだ一銭も支払われていない。少しでも家賃を抑えようと、過去に殺人事件が起きた事故物件で暮らしている。
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 (ハルさん(仮名))
 「加害者は保護されて、話を聞いてもらえて、『罪を償った』と言ってもらえる。(刑務所の)中で励ましとかがあったりする。ないんですよ、私には全然。本当に不条理だと思う。何で私だけがしんどいんだろうってすごく思います」

子2人を亡くした遺族…『犯行現場となった自宅のローン』に苦しむ生活

 犯罪被害者が訴える不条理な実態。家族を殺害された遺族はさらに厳しい現実の中にいた。長野県坂城町の自営業(事件当時)の市川武範さん(57)。
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 2年前、職場から帰宅すると、長女の杏菜さん(事件当時22)と次男の直人さん(事件当時16)が自宅の中で倒れているのを見つけたという。2人は自宅に押し入った見知らぬ暴力団組員の男に拳銃で撃たれ死亡した。男もその場で自殺している。

 (市川武範さん)
 「息を引き取るまでの間に『もう頑張らなくていいよ』なんて思ったり。でも、生きようとしている、その杏菜に『もう頑張らなくていいよ』なんて、『そんな薄情な父親でいいのか』なんて自分を責める気持ちがわいたり」
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 突然2人の子どもを亡くし途方に暮れる中、市川さんはさらに窮地に追い込まれたという。

 (市川武範さん)
 「住んでいた家が犯行現場となってしまい、私たちは自宅に戻ることができなかった。町営住宅を提供してほしいという依頼をしたんですが断られてしまった」

 暴力団組員が絡んだ事件だったことから、自治体から公営住宅の提供を拒否されたというのだ。

 事件直後は警察が用意した宿泊施設に身を寄せ、新たな住まいが決まったのは事件から2週間後だった。そして、また問題が浮上した。生活の困窮だ。自営業だった市川さんは、事件後から無収入の状態が続いている。
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 そんな中、住むことができなくなった自宅のローンが重くのしかかっているのだ。

 (市川武範さん)
 「今も金利のみ支払っています。ですから元本が全然減っていないので、総支払額はかなり増えてしまう。犯人が死んでいる以上、損害賠償請求をする相手がいない。一体どうしたらいいんだろうと」

『支給されたのはわずか680万円』殺された子どもの収入や年齢を考慮か

 市川さんには「犯罪被害給付制度」が適用された。しかし、子ども2人を亡くした市川さんに支給された遺族給付金は、わずか680万円ほどだった。子ども2人に大きな収入がなかったことや年齢などが考慮されたとみられる。

 (市川武範さん)
 「うちの子、300万円程度の命なのかというような、悲しく悔しい気持ちにもなりましたね」
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 市川さんは給付金を切り崩しながら生活しているが、残高はもうすぐ底をつくという。

 (市川武範さん)
 「自分で立ち上がって、自分でしっかり生きていきなさい、と言われているような気がします」

坂城町では事件後「犯罪被害者等支援条例」が作られる

 犯罪遺族の市川さんへの対応は適切に行われたと言えるのか?取材班は、対応に当たった坂城町の町長に直接、話を聞いた。

 (長野県坂城町 山村弘町長)
 「暴力団組員がらみの事件でありましたので、その舎弟がもしかしたらまた襲うことがあるかもしれないと。(警察に)県営住宅をどこかあっせんしてくれないかという話をしました。(市川さんに)それが『街から断られた』というふうに伝わってしまった。(Q二次被害のリスクは県営住宅でも同様に考えられるのでは?)ある程度、距離の離れたところならいいんじゃないかなと思いました」
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 事件後、坂城町では犯罪被害者を支援する条例「犯罪被害者等支援条例」を作り、市川さんには計60万円を見舞金として支給したという。

「お金を加害者に出すなら被害者にももう少し出して」

 犯罪被害者や遺族たちが直面する厳しい現実。再結成された「あすの会」のメンバーで、1997年に起きた連続児童殺傷事件の遺族でもある土師守さんが、5月16日に取材に応じた。

 (土師守さん)
 「私たちの子どもの事件の時っていうのは、被害者は刑事訴訟法では忘れられた人、単なる証拠品扱い。犯罪被害者等給付金法は“見舞金”という性格ですので、本当の意味での経済補償ではない。再犯防止にかかる予算を削れとは思わないですし、大事なことは(お金を)加害者に出すのであれば、被害者にももう少し出してくれと」

 加害者の多くは刑務所での服役を終えるとまた新たな人生が始まる。しかし被害者はいつまでも事件を引きずって生きていく。当事者たちは「この現実を知ってほしい」と訴えている。