5月3日時点で新型コロナウイルスに感染した国内の陽性者数は約793万人。その一方で、コロナ患者の増加によって今後も増えてくると考えられるのが「コロナ後遺症」だ。比較的症状が軽いといわれているオミクロン株でも、後遺症になると全身のけん怠感や頭痛などで学校や職場に行けなくなってしまう人が大勢いる。今回、コロナ後遺症に対する確立された治療法がない中で、一筋の光を探る医療現場の実情を取材した。
コロナ後遺症に悩む中学生”起きられず”学校に『行きたいけど行けない』
東京・渋谷区にあるコロナ後遺症の専門外来「ヒラハタクリニック」。いま、日本で最も忙しいクリニックと言っても過言ではない。
(平畑院長)「いま一番困っていることは何かありますか?」
(Aさん)「学校に行けない、寝ちゃうと起きられないから。午後くらいからは少しけん怠感」
中学2年生のAさん(14)は今年2月にオミクロン株に感染。微熱やのどの痛みなど、症状は軽かったという。しかし…
(コロナ後遺症患者のAさん)
「(療養解除から)2、3週間は大丈夫だったんですけど、その後にけん怠感などの症状が出始めました。睡眠時間がものすごく長くなって、後遺症が出始めてから16時間~17時間とかにのびて。(Qいままで長時間寝ることは?)全然なかったです」
感染時の症状は軽かったというが、けん怠感など後遺症の影響で1日17時間も眠る日があり、学校に通えない状況が続いている。
(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
「学校に行けないのを『うつ』と間違える人がいるんですよ。『うつ病じゃないの?』みたいなことを言われるんですが、行きたいけど行けないのがこの病気なんですよね」
Aさんの身体で起きる「コロナ後遺症」。未だに確立された治療法はない。
(Aさんの母親)「葛根湯が1回出て、それを飲んだら今度は眠れなくなっちゃって」
(平畑院長)「うちの漢方を出したのは初回だけか。肩こりの薬は効きました?」
(Aさん)「あんまりわからない」
Aさんのような患者は今年に入り、オミクロン株の感染拡大で急増している。今年1月にオミクロン株に感染したBさんも、Aさんと同じ症状に悩まされていた。
(コロナ後遺症患者のBさん)
「起き上がれなかったですね。低血糖なのかなと思って甘いものとかも食べてみたんですけど、ちょっと違いました。良くならなかったです。復職はもうちょっと先になりそうですか?」
Bさんは2月上旬から仕事を休職しているが、コロナ後遺症はなかなか理解が得られず、職場からは早く復帰するように言われているという。
(Bさん)「最初に受診したときよりはだいぶ楽になって。あのまま仕事を続けていたらどうなっていただろう」
(平畑院長)「絶対寝たきりですよ」
(Bさん)「そんな気がします」
(平畑院長)「『よくなったからまた働いちゃえ』と働いて悪くしてというのを繰り返して、寝たきりになっている人も沢山いるので。そのことが全然知られていないというのが大きな問題なんですよね」
朝から深夜4時まで全国の患者を診察する“後遺症専門外来”
「ヒラハタクリニック」では、多い日で1日100人近くのコロナ後遺症患者を診察している。この日の診察は、午前10時~翌日の午前4時まで。患者の診察を続けていたため昼食は午後11時。さらに、診察は続く。
(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
「(Q深夜まで診察するのは?)患者さんが来ているのに診れないというのは辛いですよね。だからやれるだけのことはやろうと思っていますね。(診察を)お断りした人が数日後に亡くなってしまったということが現実にあったので。たぶん、自殺なんですけど。大体3時、4時までやって寝袋で仮眠して、朝5時に帰って風呂だけ入ってまた出てくるみたいな。そういう生活をずいぶん長いことしていますね」
午前2時すぎ。眠らない街・渋谷も人はまばらに…。待合室にいた後遺症患者はいなくなった。しかし、まだ診察は終わらない。
【平畑院長がオンラインでコロナ後遺症患者を診療している様子】
(平畑院長)「地元の病院に行ったときは?」
(後遺症患者)「地元の病院は特に何もしてくれることはなく。『後遺症でもコロナにつける薬ないから』みたいな感じで言われて」
電話で話していたのは、京都府内に住むコロナ後遺症の女性患者(30代)。地元の病院では診てもらえない全国の患者たちにオンライン診療も行っているのだ。
(京都府内のコロナ後遺症患者)
「常に何かが乗っている感じで、最初はすごくきつかったです」
女性は今年2月にオミクロン株に感染。後遺症で一時、寝たきりに近い状態になっていた。
【平畑院長がオンラインでコロナ後遺症患者を診療している様子】
(平畑院長)「寝たきりに近い状態だったからね。まだ通勤練習はしていないですか?」
(後遺症患者)「大丈夫でした、行くのは行けました。しんどくもならなかったので」
『オミクロン株は後遺症の段階になると非常にきつい』
後遺症患者と向き合ってきた2年間。平畑院長は症状の検証を続けてきた。これまで診察したオミクロン株の後遺症患者305人のうち、94%がけん怠感を訴え、85%が思考力の低下、咳などの症状は68%にみられた。
(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
「『オミクロンは軽い』とみんなに言われるんですけど、実際に後遺症の段階になってしまうと、いままでと同じように辛い、非常にきつい。咳についてはオミクロン後遺症の方が多いですね」
こうした検証と共に“ある治療法”が7割近くに効果があったという。
(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
「『上咽頭擦過療法』があんまり効かないというのは脱毛だけなんですね。あとは全部の症状に効く可能性があるんです」
「上咽頭擦過療法」とは、鼻腔の奥にある上咽頭に薬液を付けた綿棒などを擦りつけて炎症を抑える治療だ。これにより、頭痛や目まいが改善するとみられている。
(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
「脳の一番近いところの炎症を取るということなんですよ。それをやらないと治らないですね。最初だけ鼻の奥をグリグリするので痛いんですけど、どんどん楽になっていきますから」
治療法を模索する関西の"コロナ後遺症外来"
コロナ後遺症の専門外来を行う病院は関西にもある。大阪の「北野病院」では後遺症外来の予約は1年先まで埋まっている。
(今年2月にオミクロン株に感染したコロナ後遺症患者)
「ちょっと歩いて帰ってくるだけで息切れみたいなのをしてしんどくなったきたので。それからまた家から出られなくなって」
(北野病院・コロナ後遺症外来担当 丸毛聡医師)
「原因となっているひとつね、これかなと思うのが副腎のホルモンですね。この数値が非常に低いです。『副腎不全』という状態ですね。それでだるいのかなと思います」
「北野病院」の丸毛聡医師も、コロナ後遺症の治療法や対処法を探っている1人だ。特有のけん怠感は感染時の治療で使われた薬の影響で、「副腎不全」を起こしているケースがあるとみている。
(北野病院・コロナ後遺症外来担当 丸毛聡医師)
「『補充治療』といって、ホルモンの補充を始めようかなと思っています」
コロナ後遺症を研究する医師は多くはない。今年4月に京都で学術講演会が開催され、丸毛医師の臨床データの発表に多くの医師らが注目していた。
(北野病院・コロナ後遺症外来担当 丸毛聡医師)
「意外と多いのは副腎不全です。けん怠感で来たら副腎不全で主に嗅覚障害に対する点鼻ステロイドをしすぎた薬剤性の副腎不全の方が多いです。(Q後遺症が続いている人にワクチン接種を勧めるべき?)ワクチン接種で6割がよくなって2割が悪くなったというデータもあって、お勧めするかどうかは、『そういうデータです。リスクもありますけれども、どうしましょうか?』という形で相談して決めています」
コロナ禍でこういった情報交換の場はほとんどなかったというが、コロナ後遺症の治療は少しずつ確立されようとしている。
1年以上続く「けん怠感」で休職中の患者『職場からの圧力も』
これまで取材班は1年以上に亘ってこの病気の取材を続けてきた。去年出会ったCさん(40代)は、1年以上けん怠感が続いていて、いまも休職が続いている。
(コロナ後遺症患者のCさん)
「『(職場から)辞めろ』みたいな圧力もありますし、戻ってもクビになるんだろうなと。後遺症が残ったままで果たして再就職できるのだろうか、元に戻れるんだろうかという不安しかないです」
コロナ後遺症の患者はその症状だけではなく、周囲の理解が得られないという二重の苦しみの中に置かれている。