被害が急増している『国際ロマンス詐欺』。SNSなどで知り合った外国人男性が甘い言葉で女性を誘惑して金をだまし取るという手口だ。毎日放送の取材班は去年からこの問題を追い続けてきた。そして今回、カナダ人の“ノア”と名乗る男性は、ある日本人男性の写真を勝手に悪用して、女性をだましていたことがわかった。被害者の女性がその男性と接触した。

甘い言葉で女性から金をだまし取る『国際ロマンス詐欺』

去年10月に大阪弁護士会が開いた、SNSやアプリ等を経由した海外投資詐欺に関する相談会では、電話が鳴り響いていた。

(電話対応する弁護士)
「マッチングアプリということでしたけれども、そのサイト名は分かりますか?」
「200万円をコインチェックで」
「資金移動はどういった形でしたんですか?指示で…。スマホでこうやったら口座に移せるから、ということで指示が出るんですね」

SNSなどによる詐欺被害の相談。とりわけ女性の被害が深刻で、その手口は『国際ロマンス詐欺』というものだった。
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取材班はこれまで国際ロマンス詐欺の実態を追い続けてきた。
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去年8月には、マッチングアプリなどで知り合った屈強な外国人風の男が“マット”と名乗り、甘い言葉で恋愛感情を抱かせ、女性から金をだまし取る手口を取材した。
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【マットから被害者に送られてきたメッセージ】
「あなたは私の白雪姫です。私たちは一緒に真っ赤なカーペットの上を歩きます」
「あなたがサボテンなら、私はあなたを抱きしめるためにすべての痛みに耐えることをいとわない」

マッチングアプリで出会ったカナダ人男性“ノア”

青森県内に住むAさん(40代)。去年6月、マッチングアプリで出会った男性に恋をしたという。

(Aさん)
「名前は“ノア”です。めちゃくちゃタイプだったんですよ私の。ど真ん中、顔がです。どハマりでしたね」
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相手はカナダ人男性のノア・アンデルソン(36)。AさんはLINEでこの男と毎日40回以上やり取りを重ねていたという。
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【Aさんとノアとのやり取り】
 (ノア)「自分の魅力があなたを征服できると信じています」
(Aさん)「私もできると思います」
 (ノア)「あなたはよく笑いますね」
(Aさん)「楽しい方がいいですもん」
 (ノア)「かわいいです。私が今渇望しているのは愛です。素敵な未来について話したい」

こんなやりとりを出会って1週間続けた。
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すると突然、「将来のために」と誘われて、Aさんは投資サイトに登録させられたという。

(Aさん)
「彼に言われた通りに操作をして、彼に言われた通りにクリックしただけ。それで2万円増えました」
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投資サイトに表示されたAさんの残高画面。ノアの指示に従うだけで利益がどんどん増え、気づけば約440万円になっていた。

被害者は“ノア”の要求に応えるため総額1200万円を振り込んでしまう

「2人の将来のために」とノアの要求はさらにエスカレートしていく。

【ノアからAさんに送られてきたメッセージ】
「銀行カードには元金がいくらありますか」
「他の定期預金や預金はありますか」

(Aさん)
「(断れば)嫌われるんじゃないかという気持ちもあったんだと思います。彼の言いなりじゃないですけど、入金し続けました」
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不安に感じたAさんは、「一度、出金したい」とノアに伝えた。するとノアからは「100万円一緒に税金を納めて」とメッセージが送られてきた。

(Aさん)
「お金が必要なの?って思いました最初は。でも100万円を払えば手に入るんだって」

Aさんは必死でかき集めて100万円を支払ったという。しかし…。
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【Aさんとノアとのやり取り】
 (ノア)「300万円を先に払う必要があります」
(Aさん)「もうお金ないです、払えないです」
 (ノア)「ひどいですよ、もう連絡しないでください。今のあなたは昔の姿ではありません」

Aさんは結局、消費者金融や友人、親族などから金を借り、総額1200万円を投資名目で振り込んだ。

(Aさん)
「今、冷静になると、馬鹿だなと思います。結局会えず、そのまま警察に行きました」

「“ノア”に自分の写真を悪用された」と話す男性が現れる

取材班は去年10月、このAさんの被害の実態を放送した。すると『ノアは自分だ』と名乗る男性から連絡が入った。
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早速、神奈川県内のホテルの一室で会うことにした。現れたのは日本人の男性だった。確かに顔はノアによく似ている。
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(ノアに画像を悪用された男性)
「(Q国際ロマンス詐欺を聞いたことはありましたか?)ないです。私の以前投稿した写真が『テレビに放送されているよ』と知人に言われて。内容も信じがたい内容なので正直ショックでしたね。自分がこういうことに巻き込まれたというのが」

男性は「SNSにあげていた画像を何者かに悪用された」と話した。
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(男性)「これですね、広島に行った時の」
(記者)「これはインスタですか?」
(男性)「インスタです。あとさっきのこれも…」

詐欺師のノアはこの日本人男性の画像を勝手に悪用していたのだ。

(ノアに画像を悪用された男性)
「怖くなりますね。ショックだし、Aさんに対しても申し訳ない気持ちはあります。自分はやっていなかったとしても、そういう気持ちにはなりますよね。最悪なんで、逃げ切れると思うなよ、という気持ちです」

男性は「被害の実態を知りたい」とも話し、取材班はAさんと直接会う場を設けることにした。

『ノアにだまされた女性』と『ノアに仕立てあげられた男性』

Aさんが住む青森県を訪れた男性。ノアを摘発するためにAさんと男性は会うことに。

(ノアに画像を悪用された男性)
「やっぱり許せないので、(ノアへの)刑事告訴は視野に入れています。Aさんから詳細を聞けたらと思っています」
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被害額は1200万円。自分の写真がどう悪用されたのか。男性も「被害者の1人としてノアの摘発に協力したい」と話した。

ノアにだまされたAさんと、ノアに仕立てあげられた男性。もちろん2人は会ったことも話したこともない。
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 (男性)「こんにちは。はじめまして」
(Aさん)「はじめまして」
 (男性)「神奈川県在住のノアではなく○○と申します」
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 (記者)「もしよければ、ちょっとだけマスクをとってお顔を見せていただけますか」
 (男性)「はい。私でしたか?」
(Aさん)「そうですね。私が憧れていたそのものですね。ノアですね」
 (男性)「ノアではないです…。ノアというはどういう人なんですか?」
(Aさん)「カナダ人で、バツイチで子どもが1人いて、3年前に離婚をして…」
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 (男性)「僕が見た画像は3枚なんですけど、それだけなんですかね?」
(Aさん)「これって違いますよね?」
 (男性)「それは違いますね」
(Aさん)「そうですよね、筋肉の付き方が違うなと思ったんですよね」
 (男性)「すごいランダムなんですね。ほかの人の筋肉…」
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1時間にも及ぶ面会の結果、ノアはほかの人物の写真も悪用していたことが分かった。

Aさんは本物のノアと会い、「今後はだまされない」と誓った。
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(ノアに画像を悪用された男性)
「(Q会われていかがですか?)お互い話をすることができて、少しは嫌な気持ちが減ったんじゃないのかなと思います。ノアのLINEのアカウントもまだ存在しているみたいなので、そこから追跡できたらと思います」

コロナ禍で巧妙化する国際ロマンス詐欺。組織の多くが海外に拠点を置き、摘発は困難とされる。甘い誘いには乗らない。お金ありきの恋愛には必ず罠がある。