いま、空前のブームになっている「ライブ配信」。そこには、配信者いわゆる『ライバー』を応援する「投げ銭」という課金システムがある。この「投げ銭」システムを悪用していた”ライバーの男”を取材班が1年にわたって追跡取材した。元々、黒髪だった男が『青やピンク』に髪色を変えながら悪用していた実態とは。取材班はその男を直撃した。

市場規模は『500億円』コロナ禍で盛り上がる「ライブ配信」

美しい音色でフルートを奏でる大野綾音さん(26)。目の前にあるスマートフォンの向こうには多くの客がいる。
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大野さんが演奏を始めると、画面には「カニ」や「コロッケ」などのアニメーションが表示され、リスナーからは次々とコメントが寄せられた。

(ライバー 大野綾音さん)
「ちょっと待って、みなさん飛ばしすぎじゃない?」
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画面に現れるキャラクターやハートマークは、リスナーがアプリ上で購入したもので、それを使うと「ライバー」を応援することができる。派手な演出ほど高価で、アニメーションが表示されるほど大野さんの収入につながる。これがいわゆる「投げ銭」だ。

この日の配信は1時間半。投げ銭の総額は約13万円分に及んだ。運営側からマージンを取られ、大野さんに入るのは半分以下だというが、月100万円ほどが振り込まれたこともあったという。
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大野さんは音楽療法士として働く傍ら、2年前からライバーとして活動しているという。

(ライバー 大野綾音さん)
「(稼ぎは)ライブ配信が一番多いです。でも私はお金が目的でライブ配信をしているわけではないから、音楽療法が自分にとっては一番大事だと思っているので。コロナでリモートワークとかになってしまって、人との関りがなくなって。ひとつの居場所みたいな、そこに音楽があってっていうのがいいなあって」

コロナ禍で盛り上がる「ライブ配信」。その市場規模は500億円にも上るとされる。

豪華景品が大量当選も届かず…「投げ銭」サービス悪用する『ライバーL』

新たなSNSとして脚光を浴びる中、このサービスを悪用する男がいた。

(ライバーL)
「○○ちゃんいらっしゃい。裏ベイビーちゃん、ボーイズベイビー、ガールズベイビーちゃんいただきました。あざすぅ。ポーク失礼します」

軽快な口調で話すピンク髪の男、「L」というライバーだ。いま、この男に「騙された」と訴える被害が相次いでいる。
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(被害を訴えるTさん)
「『自分が経営する会社の倉庫にたまっている、廃棄処分しないといけない商品を大量に出します』と。どんどん投げていって、ルーレットを回して当たればもらえるという」

Tさんによると「L」の配信は、8000円分の「投げ銭」をするとルーレットを10回分回すことができて、豪華景品が当たるという。
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実際に「L」が去年8月ごろに配信していたときの映像には、ルーレットを回す様子が撮影されていた。

(ライバーL)
「5回目行きます。○○ちゃん調子悪い、ぴえん。□□さん太鼓ナイス。ごめん、5回目ハズレ。きた!あたりあたり!9回目きたよ。ということで@@ちゃん、10回チャレンジで3台。おめでとうございまーす。3台3台」

8000円分の投げ銭で人気ゲーム機が3台も当たった。
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Tさんもルーレットを何度も回し、豪華景品が大量に当たったという。

(被害を訴えるTさん)
「『JCBの商品券5万円分』、『JTBの旅行券5万円分』、『シュプリームとナイキのコラボスニーカー』、『キャノンの一眼レフカメラ』、『ブラビアの75インチテレビ』、『USJのチケット』、『ディズニーのペアチケット2セット』、『ディズニーのペアチケット付きスイートホテル宿泊券』、『うまい棒300本』が当たりました。(Q景品は届きました?)全く届いていないです。僕はまだコインを買ったっていっても2万円以下くらいなんですけど、ひどい人でしたら数十万円」

これまでの配信で200人ほどが「L」に投げ銭し、ルーレットで当選したにもかかわらず景品が届かないというのだ。
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動画の中では、リスナーと次のようなやりとりをする姿も撮影されていた。

(ライバーL)
「『先月のプライズ(景品)の発送はまだ時間がかかりそうですか?お忙しいですよね』というコメント。今週末の土曜日に発送手続きができます」

それでも景品は届かなかった。

ピンク髪のライバーLは『スカウト詐欺の被害』を訴えられていた「A氏」だった

ライバー「L」とは一体、何者なのか。Tさんにさらに話を聞くと記者があることに気が付いた。

(Tさん)「(L)の会社はね、『Kコーポレーション』」
 (記者)「え?『Kコーポレーション』って…」
(Tさん)「ご存じですか?」
 (記者)「(Lの本名)はA氏という人じゃないですか?」
(Tさん)「そうです。A氏です」
 (記者)「ですよね。そうですか…」
(Tさん)「お付き合いあったんですか?」
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ライバー「L」の正体。それは、取材班が2年前から追っていた「A氏」だった。
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(A氏からの被害を訴えるマキさん おととし11月)
「この人についていったら、もしかしたら芸能の世界に届くかもしれないと思った」

マキさんが被害を訴えていたのは「スカウト詐欺」。女優志望のマキさんは「芸能界に人脈がある」と接触してきたA氏に騙されたという。
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(A氏からの被害を訴えるマキさん おととし11月)
「『(大手ハウスメーカー)のCMが決まった』って連絡がきました」

A氏は大企業10社以上のCM出演などの契約を持ち掛け、トラブルがあった際の“保証金”として金銭を要求し、100万円以上を振り込んでいた。しかし、CM出演の話などは一切なく、取材班が企業に問い合わせると「そんな話はない」と回答された。

(A氏からの被害を訴えるマキさん おととし11月)
「バカだったなって。企業が出てきたから信じちゃった」
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同じ手口で被害を訴えていたのは10人以上で、被害総額は約1300万円以上。取材班は何度もA氏への接触を試みたが、電話は繋がらず、去年2月に訪れた大阪市内の事務所も“もぬけの殻”だった。その後、自宅を割り出して3か月間張り込んだものの、結局A氏は現れなかった。
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そして今回、黒髪だったA氏が髪の色を“青色”や“ピンク色”に変えて、ライバー「L」として活動していたことが分かった。

ライバーLと名乗る『A氏』を直撃「景品は必ず送る」と主張も未だ届かず

A氏の関係先を辿る中、「2か月前に宮崎県で会社を始めた」という情報が入った。
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去年11月に取材班がたどり着いた先は、宮崎市内にあるマンスリーアパートだった。

(記者リポート)
「単身者向けの集合住宅で、会社の表記はどこにも見当たりません」

ライバーLとして活動する「A氏」はいるのか。1日中張り込んだものの、この日は姿を現さなかった。
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しかし翌朝、事態は動いた。現れたのはピンク髪の男。顔も間違いなくA氏だった。記者が直撃した。
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(記者)「毎日放送なんですけど、A氏ですよね」
(A氏)「はい」
(記者)「(L)というアカウントでライブ配信をやってましたよね?」
(A氏)「昔やってましたね」
(記者)「景品ってまだ送っていないですよね?」
(A氏)「まだ送れてないです。手続きをいま頼んでいるんで。たぶん今月、来月くらいには」
(記者)「頼んでいるのは絶対ですね?来月には絶対届くんですね?」
(A氏)「はい」

取材に対してA氏は、「景品は必ず送る」と主張。
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スカウト詐欺の被害を訴えていることなどについては次のように話した。

(A氏)「それは裁判でするんで」
(記者)「裁判するんですか?」
(A氏)「それ(被害を受けている)を言うならね」
(記者)「訴えられたら応じる?」
(A氏)「応じます、応じます」
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結局、2か月が経ったいまも景品は届いていない。すでにライバーとしての「L」のアカウントは凍結されていて、被害者らは警察に相談している。