去年、教育委員会などが主導して大阪府富田林市内の幼稚園・小中学校に「オゾン発生器」が設置された。新型コロナウイルスなど感染症対策として導入されたが、医師会からは「子どもの生活環境で使うべきではない」と異論が噴出している。一体、何が起きているのか?問題の真相に迫った。
富田林市の学校に設置された「オゾン発生器」
大阪府富田林市内の小学校。黒板の真上に見慣れないものが設置されている。
(富田林市教育委員会 石田利伸教育総務部長)
「黒板の上にオゾン脱臭器を設置しています。全体に行き届くような高さに測っていただいて設置をしている。オゾンが発生して教室全体に充満して、付着しているウイルスや菌を除去していく。感染対策で考えています」
設置された機器はオゾンを発生させるもので、菌やウイルスを除去するという。この学校ではほとんどの教室や音楽室にも設置されていた。そもそも「オゾン」とは一体何なのか?
ウイルスを不活化させる効果があるとされる「オゾン」
オゾンは自然界にある物質で、空気中の有害物質と酸化反応を起こす。例えば、悪臭の原因となる物質を変化させて臭いをなくしたり、菌やウイルスに作用することでウイルスを不活化させる効果があるとされている。
富田林市では計666台の「オゾン発生器」などが、ある民間企業から寄贈された。公立の幼稚園や小中学校全てに導入し、去年の秋ごろから稼働しているという。
(富田林市教育委員会 石田利伸教育総務部長)
「最初ね、僕らもコロナ対策で活用できればということで、入れさせてもらったのが事実なんですけど、いろんなご意見をいただく中で『今のところは研究段階』と把握したので、感染の対策ということ」
「一番大事なことは換気」オゾン発生器の設置に異を唱える医師
当初「新型コロナ対策」として教育現場に導入したというオゾン発生器。しかし、この方針に異を唱える人がいる。
富田林医師会で感染症対策の理事を務める藤岡雅司医師。学校医も担っているが、市から医師会には何の相談もないままオゾン発生器が設置されたという。
(富田林医師会・感染症対策担当理事 藤岡雅司医師)
「こういったものを子どもたちの生活環境の場に置くこと自体が無意味なものであって、かつ事故になる可能性もあります。新型コロナウイルス感染症対策で一番大事なことは換気です。空気を入れ替えることが感染予防に一番大事だと考えています。オゾンを発生させて一定濃度でウイルスと接触させようと思えば換気と相反するわけです」
学校では設置当初、児童が教室にいる状況でオゾン発生器を稼働させていた。医師会は「文科省のマニュアルの内容に反する」などとして去年9月に機器を回収するよう市に要望書を提出した。しかし…。
(富田林医師会・感染症対策担当理事 藤岡雅司医師)
「(富田林市は)子どもたちが帰宅、あるいは夜間の無人下で使うと。子どもたちがいるところでは使わないということにはなりましたが、医師会としては『本来医学的に意味のないものを子どもたちの教育環境・生活環境に置くこと自体に問題がある』と考えております」
ウイルスを除去できるオゾン濃度は『人体へ悪影響与える』との指摘も
オゾンとコロナウイルスを巡っては、藤田医科大学の村田貴之教授が、低濃度とされる0.1ppmなどでも除染効果があると発表している。
ただ、取材によると、研究は密閉状態であればの話で、教室などの状況は想定していないという。学校の教室に設置する必要はあるのだろうか?
京都大学地球環境学堂の高野裕久教授に話を聞くと、ウイルスなどを除去できるオゾンの濃度は人体にも悪影響を与えると指摘した。
(京都大学地球環境学堂 高野裕久教授)
「オゾンというのは大気汚染物質のひとつ。濃いともちろんウイルスを殺せます。人に影響がないような濃度でウイルスが死ぬとは少し考えにくいなとは思いますけどね。一般的には環境基準値は0.08ppmと決められているんですけれども、それより高い濃度が身の回りに存在すると影響が出ることがあるということで決められていると。どういう根拠でそれを使いだしたんでしょうかね、富田林市」
市議会でも議題に…教育長「感染対策の一助」
去年12月9日、富田林市議会では学校に設置された「オゾン発生器」が議題になった。
【市議会でのやりとり】
(富田林市議会 中山佑子議員)
「まず本市教育委員会がオゾン発生器の寄贈を受けるに至った経緯を教えてください」
(富田林市教育委員会 石田利伸教育総務部長)
「2021年5月初旬に市長宛に寄贈の希望が伝えられました。学校現場からの意見も踏まえて(2021年)5月中旬に組織的に決裁を行い決定いたしました」
(富田林市議会 中山佑子議員)
「市長が新型コロナウイルス感染症対策のためと明記して寄贈企業に感謝状を送った理由をお答えください」
(富田林市教育委員会 山口道彦教育長)
「感染対策の一助。当時は大変な状況でございましたので、その感染対策を十分にしながら助けになればという思いで期待している部分もあったと思います。寄贈を受けた機器につきましては国事業において購入する機器と同様のもので問題はないと考えております」
オゾン発生器を寄贈した企業の社長「コロナ対策とは言えない」
市によると、そもそも民間企業から寄贈したいという話があり、去年6月に1億3000万円以上相当のオゾン発生器が無償で提供されたという。
オゾン発生器を寄贈した三友商事のホームページを見ると、「富田林モデル」として設置実績が掲載されていた。
安全性についてどのように考えているのか?取材を申し込むと、三友商事の大門正義社長がインタビューに応じた。
(記者)「この機器を導入してコロナ対策となるのでしょうか?」
(大門正義社長)「コロナ対策とは言えません。なぜならこのエアバスター(オゾン発生器)は雑貨品扱いとなっていて、医薬品医療機器法というのがございますので、それを謳うことはできません。然るべき大学病院とか大学の中で、オゾン単体で一定の条件下において新型コロナ不活化という実験結果は出ております」
(記者)「どれぐらいの濃度が出るのでしょうか?」
(大門正義社長)「濃度は答えられないです。オゾンは高濃度になると危険でありますので、そういう使い方にならないようにしっかりと対面販売をさせていただいて、低濃度であっても効果が出るような形、例えば設置であったりエビデンス取得にまい進しています」
(記者)「人体への影響はないと言い切れますか?」
(大門正義社長)「我々の設置に対する提案に関しては、万全の状態でご提案させていただいているということになります。感染症は足し算の対策になりますので絶対量を少しでも菌やウイルスを減らすことを期待してご利用いただきたいという思いです」
企業側は「適切に使用すれば安全性に問題はない」としている。
富田林市は「夜間の運用」で今後もオゾン発生器の使用継続
富田林市には、一部の保護者から「適切な説明がない」と困惑する声も寄せられている。市は今後、どうしていくのか?市長に直接話を聞くと…。
(富田林市 吉村善美市長 去年12月20日)
「子どもたちの安全のために、子どもたちも今厳しい中で踏ん張ってくれているので、夜間の運用にしたということでございます。(Q医師会の指摘を受けて使わないことにはならない?)除菌・消臭に効果がありますので、そういう意味で寄贈いただきましたので夜間運用をしていきたい」
一時は24時間、教室内で稼働していたオゾン発生器。市は、今後も子どもたちが下校した放課後に稼働させて役立てていきたいとしている。