「阪神・淡路大震災」からまもなく27年。あの未曾有の災害をもう二度と経験したくはないと思う一方で、日本列島では今も各地で地震が相次いでいる。こうした中、「地震予知はできない」と言われながらも、これまでにない手法で地震の発生予測に果敢に取り組む学者がいる。その研究の最前線を取材した。

2021年には『震度5クラスの地震』が相次いで発生

2021年12月3日の午前9時半ごろ、和歌山県北部を震源とするM5.4の地震が起きた。最大震度は5弱の強い揺れで、御坊市役所では窓ガラス37枚が割れるなどの被害が出た。
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この約3時間前には、400kmほど離れた山梨県東部で最大震度5弱を観測する地震が起きていた。
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これまで多くの地震の発生メカニズムなどを分析してきた「京都大学防災研究所」の西村卓也准教授は和歌山県北部で起きた地震について次のように話した。

(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授)
「和歌山県のあたりは普段から非常に地震活動が活発なんですけれども、特に和歌山市付近が一番活発なんですが、そのあたりで起こっている地震とは若干タイプが異なります」

『GPSの位置情報』利用し地震発生を予測

西村卓也准教授は、新たな手法で地震の発生を予測する研究を進めている。

(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授)
「GPSのデータを使って、地面が精密にどう動いているのかを調べます。それで地殻変動の様子がわかるのですが、地殻変動から地下で起こっている地震のメカニズムや、断層でどのように『ひずみ』がたまっているのかというようなことを調べています」
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「GPS」はスマートフォンや車のナビゲーションなどにも利用されていて、人工衛星からの信号で位置情報が分かるシステムだ。西村准教授はミリ単位で正確に位置情報を調査できることに注目した。
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私たちの住む日本列島は、「フィリピン海プレート」や「太平洋プレート」など4枚のプレートの上にあり、海側から常に押される力がかかり地盤にひずみがたまっている。そして、そのひずみに地盤が耐えきれなくなると地震を起こすのだ。
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国はこうした地盤の動きを監視するために、全国約1300か所に「電子基準点」と呼ばれるGPSアンテナなどを装備した機器を設置した。
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西村准教授はGPSの位置情報を利用することで地盤の動きをとらえ、地震発生の研究に役立てようとしているのだ。

(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授)
「赤い矢印は、『各観測点の位置が1年あたりにどれだけ動いているのか』を示した図です。動きが顕著なのが南海トラフ沿い、太平洋側ですね。大きく北西方向に動いていて、それは南海トラフからくる海のプレートが北西方向に押している影響で、四国とか紀伊半島が大きく動いている」
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こうしたデータを基に作られたのが『日本列島のひずみ分布図』で、GPSデータを解析すると近畿や九州がオレンジ色になっていて、よりひずみがたまっていることを示している。

(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授)
「これは西日本、中部地方から九州にかけての地図にひずみのたまりやすさを書き表した図になっています。色が白、緑、黄色、オレンジ、赤にいくにしたがって、どんどんひずみのたまりやすさが速くたまる場所というのを表しています」

「能登半島」で確認された『謎の地殻変動』

そして去年、西村准教授は研究を進める中で衝撃的なデータを得た。大地震につながるかもしれない変化だった。

(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授)
「25年間のGPSのデータの中では、なかなか前例のないようなことが起こっているのではないかと思います」
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前例のないデータがもたらされた場所、それは「能登半島」だった。能登半島最北端に位置する石川県珠洲市。このあたりの地盤がおととし12月ごろから3cmほど隆起する「謎の地殻変動」を察知したという。

(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授 去年11月)
「国土地理院のGPSの観測点で、おととしの12月からこの観測点を中心に変動が観測されていまして。だいたい3cmくらい、おととしの12月から去年の11月くらいまで隆起が観測されている場所です」
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西村准教授によると「3cm」という地盤の動きは火山周辺ではみられるが、能登半島のような火山のない地域では、通常では考えられない数値だという。こうした動きに合わせるかのように、珠洲市周辺では去年1年間に群発地震が相次いでいる。震度1以上の有感地震がこれまでに80回近くも観測されているのだ。

(珠洲市の住人)
「かなり頻繁に起きていますよね。3日か4日、長いときは1か月くらいもっとあいているかな。結構こわいね、大きな地震が来ないといいなと思うんだけど」
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地殻変動の原因などは分かっていないが、西村准教授らの研究グループはこうした動きをさらに詳細に探ろうと、地震の震源近くにある珠洲市の2か所に独自のGPSの機器を設置。大地震が起きないか、現在も注意深く調査を続けている。
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(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授)
「いま起こっている群発地震の震源域が大きく分けて4つに分かれているんですけれど、その中でも一番活動的な震源域がちょうど、この海岸線の東側の辺りにあって。ちょうどその間を周りを囲むように観測点を設置しています」

近畿地方は活断層が集中『直下型地震』への警戒が必要

そして、GPSのデータ解析でひずみがたまっているとされる近畿地方。能登半島と同様に警戒すべき場所なのだ。

27年前に阪神・淡路大震災を引き起こしたのは、兵庫県の淡路島から阪神間に伸びる「野島断層」という1本の活断層だった。近畿地方には「地震の巣」と呼ばれるほど活断層が集まっていて、地盤のひずみがいま、こうした活断層などを動かそうとしているのだ。
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海側のプレートが陸側のプレートを引き込み、たまったひずみが解放されたときに発生する南海トラフ地震。発生が近づくいま、特に西日本は活断層などが動くことで起きる「直下型地震」への警戒が必要だという。

(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授)
「近畿の地震というのは南海トラフ地震の前50年から、あと10年くらいに増えるという。そういう傾向がありますので。まさにこれからが活動期に入ってきている、そういう状況なんだろうと思います」
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1946年12月に発生した『昭和の南海地震』の際も、その前後に西日本では直下型地震が相次いで発生した。

1925年5月には兵庫県北部を震源とした「但馬地震」が発生。また、1927年3月には京都府北部を震源とした「北丹後地震」が発生。さらに、1943年9月に鳥取県西部を震源とした「鳥取地震」などが起きていた。
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そして近畿地方の地盤にも、いま新たにひずみがたまってきている証拠があるという。それは4年前の2018年に起きた「大阪北部地震」だ。

(京都大学・防災研究所 西村卓也准教授)
「2018年の前のデータでみても、やっぱりひずみのたまり方が周辺よりも高い場所でしたので。ああいう地震が起こるというのは、ある程度ひずみがたまりやすい場所で起こったということがいえるんじゃないかなと思います。主要な断層は当然、近畿の場合もいっぱいあるのですが、そういう主要な所以外のちょっとしたところでも、M6クラスであれば起こりえますので。ある意味どこで起こってもおかしくない」

発生までにすでにカウントダウンに入ったといわれる「南海トラフ地震」。その備えとともに、私たちは活断層による直下型地震への準備も決して怠ってはならない。