大阪府内では去年、大麻取締法違反で130人以上の少年が摘発されていて、摘発された少年の人数が過去最多となった。未成年者に広まる大麻の問題。警察も摘発を強化する中、SNS上では密売人らが暗躍している。さらに大麻所持などで摘発された少年らが語った『後悔』とは…。その実態を取材した。
『大麻部屋』で密売目的で所持していた少年グループを摘発
去年11月、大阪府警の捜査員らが、教育委員会など8つの機関と共にあるチームを発足させた。
(大阪府警少年課 吉井一課長補佐 去年11月)
「複数の中学生が『実際に大麻を吸引した』『吸引現場に居合わせた』と供述していることがわかり、早急にこの環境を何とかしなければいけない」
手元には「大麻対策」と書かれたファイルが置かれていた。
去年9月、大阪府内の集合住宅の一室で大麻を密売目的で所持していたとして、少年グループが摘発された。密売の拠点としていた部屋は「大麻部屋」と呼ばれ、少年20人ほどが出入りしていたとみられている。大麻が若年層に広がっているおそれがある。
事件きっかけに発足した警察など『大麻まん延阻止チーム』が補導活動
発足したチームの役割は、少年らへの大麻まん延を阻止することだ。取材した去年12月、「大麻部屋」があった地域の周辺で補導活動が行われていた。
【捜査員らと中学生らとのやり取り】
(捜査員)「こんばんは。ようけおるなー。みんな中学生グループ?みんな何してるの?」
(中学生)「遊んでる」
(捜査員)「まだ帰らなくていいの?」
(中学生)「いま来たとこ」
時間は午後6時半すぎ。この時間に中学生らが集まり出していた。
(捜査員)「聞いたことあると思うけど、大麻知ってるやんな?」
(中学生)「ニュースで見た。俺はそんな悪いことせん」
(捜査員)「ネットとかの情報とか鵜呑みにしたらあかんで。大丈夫とか言うてる人もいるけど、絶対違うから。その辺ちゃんと理解している?」
(中学生)「はい」
不審に思った場合は所持品などを確認することも。現場にいた中学3年の女子生徒のかばんを確認すると…。
(捜査員)
「タバコですか?タバコ持ってる。タバコはあかんで、中3やし」
(捜査員)
「そしたら中学生グループは解散してください。それぞれお家帰ってご飯食べて」
タバコを所持していた女子生徒は補導され、親から事情を聞くなどした。
(大阪府警少年課 吉井一課長補佐)
「1人喫煙で補導した。あとの子については特に違反行為がなかったので、帰宅指示ということで帰らせております。大麻、子どもたちの間でまん延していると言わざるを得ない状況が続いているので」
「隠語を用いて」SNS上で展開される違法薬物の売買
大阪府では去年、大麻取締法違反で摘発された少年が130人以上で前年を大きく上回り、過去最悪となっている。その背景にあるものとは…。
いま、違法薬物の売買がSNS上で展開されている。「野菜」は大麻、「手押し」は手渡しの隠語で、こうした実態を警察も把握していて、摘発を強めている。
一度やりとりが消去されると警察でも復元が難しい「消えるSNS」
大麻の密売人はどんな人物なのか?取材班が複数のアカウントに接触してみた。
【メッセージのやりとり】
(記者)「手押しの場所は大阪ですか?」
(密売人)「大阪市生野区です」
(記者)「室内ですか?」
(密売人)「パーキングですね!」
ここで記者だと伝えると…。
メッセージが全て消去された。
こうしたやりとりで使われるのは、「Telegram」というメッセージアプリで、一度、やりとりが消去されると警察でも復元することが難しく、「消えるSNS」とも呼ばれている。
19歳の密売人「怖い」と話すも「いまはやめるつもりはない」
取材班がメッセージのやりとりをしていたアカウント「S」。やりとりの中で『バナナクッシュ』『ガールズスカウトクッキー』などの隠語が使われていた。『バナナクッシュ』も『ガールズスカウトクッキー』も、大麻の種類を指していると思われる。
メッセージのやりとりをした後、電話で話を聞くことができた。
【電話でのやりとり】
(売人S)「もしもし、お疲れ様です」
(記者) 「バナナとクッキー?どういう感じで違うんですか?」
(売人S)「吸った感じですと、バナナの方がよくわからないくらい飛びますね。一般的な大麻、その成分と一緒なので」
やはり、大麻の密売人だった。ここで記者だと明かすと…。
【電話でのやりとり】
(記者)「毎日放送の記者のものなんですけど」
(売人S)「あー、はい」
(記者)「これは違法じゃないですか?」
(売人S)「これは…ちゃんと違法ですね」
(記者)「いまいくつですか?」
(売人S)「僕は19ですね。いっぱいいますよ、若い人。僕らの年代だとやっている人多いと思います」
(記者)「警察怖くないんですか?」
(売人S)「めちゃくちゃ怖いですよ。僕も(いま)19歳で来年20歳なので。前科がついちゃうからやめるかな」
19歳の売人は「怖い」と話しながらも、いまは「やめるつもりはない」と話した。
記者と伝えても悪びれる様子がない密売人「自分は悪いことしてないと思う」
さらに、別の大麻密売人「X」からも直接連絡が入った。
(売人X)
「僕weed(乾燥大麻)自体は1個5000円で出してるんですよ」
すぐに記者だと伝えても、売人「X」は悪びれる様子はない。
【電話でのやりとり】
(記者)「年齢は?」
(売人X)「35になります。これってお仕事でやられているんですか?」
(記者)「そうです。仕事(取材)です」
(売人X)「大変ですね。正直どう思います?大麻については。全く興味ないですか?放送してもらって大丈夫です。大麻は悪くないものなので」
(記者)「売人っていう感覚は自身であるんですか?」
(売人X)「自分が悪いことしていないと思ってるのに捕まるのってめちゃくちゃだるくないですか?」
ここで電話は突然、切れた。こうしたSNS上での取り引きが未成年者に大麻を近づけていると警察はみている。
『大麻』で摘発された少年ら「母親の目の前で捕まえられ申し訳なくて」
大阪・茨木市にある「浪速少年院」。いまここに入る少年のうち、「大麻」で摘発された人は、窃盗や傷害に次いで3番目に多いという。少年院では大麻などの薬物で入院する少年を対象に、薬物をやめるための薬物再乱用防止プログラムが組まれている。少年らは薬物を使っていた当時の生活を振り返った。
【薬物再乱用防止プログラムでのやり取り】
(教官)
「(当時1日の)スケジュールを立てられていたよっていう人は?」
(大麻所持で逮捕された少年A)
「いや、立ててないです。11時、12時くらいまで寝て、起きて(大麻で)一服。遊びに行って、そこからずっと薬物」
(大麻所持で逮捕された少年B(19))
「薬物を使うと夕方に起きるとかが普通にあって、元気なくなったっす。寝てばっかり」
取材班が2人の少年に話を聞くと、口をついて出るのは「後悔」だった。
(大麻所持で逮捕された少年C(20))
「全然薬物に対して悪いと思っていなかった。タバコと何が違うんやろっていう感覚で。(吸っていた時は)いまが楽しければいい、っていうのが一番やったと思います。(Q捕まった時はどう思った?)『終わったな』みたいな感覚はありました。(少年院で)1年奪われるって特に10代ってでかいと思うし、もったいないことをしたな、釣り合わへんなって」
(大麻所持で逮捕された少年B(19))
「自分で買ってました。SNSでも手に入れられるし。(Q吸っていたときはやめられると?)思っていました。(実際は)環境とかをずっと変えないと、周りでやられていたらずっとやりたくなる。あんまり簡単にはやめられない。お母さんの目の前で捕まえられて、目は合わせられなかった。お母さんに申し訳なくて。(少年院を)出た後は筋トレして自分の体を大事にすることが第一かなと」
身近に忍び寄る、違法な薬物。SNS上に並ぶ言葉は、薬物にいざなうための誤った情報が多く、警察は安易に手を出さないよう呼び掛けている。