「救える命があれば救えない命もある」これは今回取材した救命救急医の言葉だ。大阪府などでは新型コロナウイルスの新規感染者数が減少しているが、一体、医療現場では何が起きているのか?冬には「第6波」が来るとも言われている中、救命救急の最前線を取材した。

コロナ患者や重篤な患者ら『年間7500件』搬送される救命救急センター

9月上旬、京都・上京区にある「京都第二赤十字病院」の救命救急センターへの取材が許された。そこは、厳しい現実と闘っていた。
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入院している70代のコロナ患者は、基礎疾患があり、深刻な事態に陥っていた。
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(京都第二赤十字病院・救急科副部長 成宮博理医師)
「この方がね、酸素濃度が上がらないんですよね。もうちょっと手が出ない。呼吸がやっぱりもたないです。ご本人とご家族と相談してもらって、本人の力でいけるところまでということで」

取材をした日、救命救急センターでは4人の医師と看護師らが勤務していた。患者の搬送件数は年間7500件。コロナ患者や一刻を争う重篤な患者も搬送されてくる。
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午前9時ごろ、自宅の階段の踊り場から10段ほど転落し、頭部に外傷を負った自宅療養中のコロナ患者が運ばれてきた。すぐに脳などに異常がないかを調べて、手当を施していく。

(成宮博理医師)
「ゴーグルをつけたりフェイスシールドしたりしますので、かなり曇るんですよ。心理的なプレッシャーはかかりますし、時間は普段よりかかりますね」

容体悪化の患者受け入れには『医師が自ら出向きECMО装着』

京都第二赤十字病院のコロナ病床は14床だが、取材をした日には既に18人が入院していた。
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入院していた30代の男性患者は(取材をした日の)10日ほど前に別の病院で容体が悪化したため、成宮医師が病院まで出向き、ECMO(人工肺)を施して転院させてきた。
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(成宮博理医師)
「30代後半の男性で。ECMOを装着させるということは、命をかけてやるということなので、助かる人ももちろんいますけれど、助からない人もいますので、半分挑戦ですからね。良くなったのでECMOも離脱して、人工呼吸器も離脱できたので、元の病院に帰っていただく。ノウハウのある病院では(受け入れを)増やさざるを得ないし、(重症患者を)受け入れざるを得ない」

次々に来る患者の受け入れ要請「1年半…もうずっとこれですから」

第5波では、次々と患者の受け入れ要請がくる。

(成宮博理医師)
「1年半これなんでね。もうずっとこれですから。もう慣れちゃいましたけどね」

午前11時、別の病院に入院している40代のコロナ患者の容体が悪化して、受け入れ要請がきたという。
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(40代のコロナ患者が入院する病院との電話でのやりとり 成宮博理医師)
「いま酸素状態はどんな感じですか?なるほど。安静時92。今はぐったりですね。こっちで診させてもらいますんで」

3時間後の午後2時に、患者が転院して来ることになった。
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新たな患者を受け入れるには、病床を確保しなければならない。一時ECMOを着けていた30代の男性が、元の病院へと帰っていく。

(30代の男性患者)「一番苦しかった時に(心が)折れそうでしたけれども」
    (成宮医師)「(回復して)よかった。僕らもほんまによく頑張ってくれたと思って感謝しているのよ」
(30代の男性患者)「ありがとうございます」
    (成宮医師)「みんな待っているから。お父さんも喜びはるわ。だいぶ心配してはったから。頑張って帰らなあかんで」
(30代の男性患者)「はい。お世話になりました」
    (成宮医師)「頑張ってよ」

搬送されてくるのはコロナ患者だけではない

救命救急センターにやってくるのは、コロナ患者だけではない。別の病院から受け入れをする40代のコロナ患者の到着が遅れていたため、受け入れをする脳梗塞の疑いがある患者と搬送される時間が重なる可能性があった。

午後2時すぎ、コロナ患者が到着した。
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慎重にベッドに移されるコロナ患者。その直後、脳梗塞疑いの患者を乗せた救急車も到着した。コロナ患者は、搬送されるとすぐにCT検査が行われ、肺の状態などの確認が行われる。コロナ患者は速やかに検査が行われ、治療方針が決められる。
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(成宮博理医師)
「人工呼吸器を入れなくてもいけるんじゃないかなと。きょう、あす、あさってで、悪くなってくるようであれば、気管挿管をして、人工呼吸器も使いますし、それでももたなければ、ECMOをもちろん使うこともあります」

コロナ疑いの患者の診察にあたる研修医

病院では、またコロナ疑いの患者が搬送されてきた。症状は「熱中症」。コロナのワクチンを2回打っている患者だった。

診察にあたる研修医に、成宮医師は…。
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 (研修医)「熱射病(熱中症)やったみたいですけれども…」
(成宮医師)「いや熱中症といっても…。自分で診て調べたこと以外は、全く信じる価値はない。しっかり話を聞いて診察して。COVID-19(コロナ)の可能性はゼロじゃないからな、この人。慎重にやってよ。慎重に」
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「熱中症」の症状がある患者に、研修医が聞き取りを始めた。

(研修医)「1週間前にも来られてますよね?この病院」
 (患者)「そうです」
(研修医)「その時は?」
 (患者)「熱中症と言われたけれども…」
(研修医)「しんどい以外に症状はありますか?」

診察を行った研修医は点滴の処置などを施して「コロナには感染していない」と判断した。

(研修医)
「コロナ疑いではなさそうです。そういう方針でいこうかなと思っています」

“ほぼ限界”まで対応する医療従事者たち

未就学の女の子が、高熱の症状で搬送されてきた。

(成宮博理医師)
「もし万が一コロナだと、うちの病院だと(子どもの)入院システムが動いていないので、また入院調整かけてもらわないといけない」

高熱のため処置室で泣き叫ぶ女の子。最初に処置を受けた病院では、コロナ陰性と判断されていた。

(成宮博理医師)
「わからんのよね。子どもは特に、軽症が多いから。軽症というか発熱だけやからね。だからPCR検査取ってしまって、あすには(結果が)出るから。開業医さんが陰性と言ってる根拠がね」

女の子はこの日、隔離した上で入院することになった。翌日、PCR検査の結果、女の子は陰性だとわかった。
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(成宮博理医師)
「ほぼ限界の数、対応しています。この体制をできるだけ維持すると。他の京都市内、京都府内の病院も一体となって、なんとか踏みとどまって、できるだけ多くの患者さんを診ていきたいと思っています」

感染者が爆発的に増える中、医療崩壊を食い止める医療従事者たち。この1年半、常に最前線で極限の判断を迫られ続けている。