新型コロナウイルスの第5波における『救急搬送』について。大阪では第4波の際には重症病床使用率が100%を超え、その結果、搬送先が見つからずに患者が救急車の中で10時間以上待機するケースもあった。第5波では、若い世代に感染が広がる中で、救急搬送の現場にも変化が起きていた。
コロナ患者の搬送を担う民間救急
9月6日、大阪府で新規感染者が1000人を超える日が続く中、大阪市内を青色の救急車が走り回っていた。そして救急車が到着した場所にいたのは新型コロナウイルスに感染して自宅療養中だった20代の男性患者。救急車に乗るのを母親が心配そうに見送る。
(母親)「LINEちょうだいね、安心したねよかった」
(救急救命士)「では、失礼します」
(母親)「お願いします」
患者が救急車に乗り込むと、救急救命士は症状の聞き取りなどを始め、体温を測る。
(救急救命士)「ご自宅で結構しんどい状況でした?」
(20代患者)「そうですね、寝るたびに汗まみれで」
(救急救命士)「熱は38.6℃。きょう解熱剤2回飲んだって言っていました?」
(20代患者)「朝の9時とさっきなんで午後5時半くらい」
1週間ほど前に感染が確認され、3日前から発熱が続いていたという。民間の救急車で自宅から病院へ搬送されることになった。
(救急救命士)「今は働いているんですか?」
(20代患者)「今は大学生です。学校ももう少しで始まるんで」
(救急救命士)「1週間ぐらいで帰れたら何とか間に合うかなって感じですね。いい感じで出来ていますか?就活」
(20代患者)「いやー…」
患者の容体を観察しながら、緊張を和らげるために時には会話を弾ませながら、病院まで送り届けているのだ。
「関西メディカル民間救急(大阪市)」は本来、緊急性の低い患者の転院や退院などの移送を請け負っていたが、コロナ禍では消防の救急車では手が回らず、大阪府などから委託を受けてコロナ患者の搬送も担っている。
第4波では搬送先を見つけることが困難だった
重症病床使用率が100%を超えた第4波では、民間救急は極めて困難な事態に直面していた。
今年4月の取材時には、酸素投与が必要な高齢患者を自宅から病院まで搬送する予定だったが、受け入れてくれる病院が見つからず、結局、搬送に8時間を要した。
(高齢患者)「苦しいです」
(救急救命士)「苦しいですか?ちょっと今移動したんでお体に負担かかっていたかもしれないです」
(高齢患者)「まだ入れる病院はない?」
(救急救命士)「そうですね。ちょっとまだ病院の方が決まっていないので」
第5波に対応するための新車両とは
では、感染の第5波はどうなのか。9月9日に取材をすると、民間救急では新たな車両を導入していた。
(救急救命士 彦坂拓さん)
「こういう形で10人乗りになっています。例えば家庭内クラスターとかで家族全員が同じ病院になった時とか、あとはご夫婦と子どもの3人をホテルに搬送するとかも」
第4波と比べると搬送件数は増加傾向だが、重篤な患者が減ったため、『軽症者用の車両』を導入していた。車内にベッドがある通常の救急車タイプと違い、後部座席があるワゴン車だ。さらに運転席と後部座席の間が隔たれていて、患者には後部座席に自ら乗り込んでもらうため、運転者は患者に接触することがなく防護服なども必要ない。どんな人が利用しているのか。
(運転しながら電話で話す救急救命士・彦坂拓さん)
「13時40分ごろに到着できると思います。ドアの開閉はこちらで運転席からできますので。ドアこちらで開けましたら乗ってもらって、また乗ってもらったら閉めますので」
現場に到着すると、母親と1歳ほどの男の子が後部座席に乗り込んだ。母親は感染しておらず男の子だけが感染したという。泣き叫ぶ男の子を乗せた車は出発し、5分後に病院に到着した。男の子は母親に抱えられたまま小児科病棟へ入っていった。こうした児童の搬送が第5波では増えているという。
(救急救命士 彦坂拓さん)
「小学生くらいの子だと1人で乗って病院に行くことも結構あるので、逆に親御さんが付き添いで乗ってくる方が珍しいくらいです。(一番若い患者は)生後3か月の子を搬送しましたね。まだ首が座ってなかったですね」
ワクチンの影響か…高齢者でも症状軽い人が多い
一方、通常の救急車タイプでの民間救急による搬送も、第5波は少し様子が違う。ストレッチャーで救急車に運び込まれた高齢の女性は、コロナに感染していて基礎疾患があるため高齢者施設から病院へと搬送される。
(70代患者)「おたくらも大変やね。下向いたらあかん、上向いて上向いて、私はそういう主義やから。こんな元気やったら帰ってくださいって言われる」
(救急救命士)「言われるかもしれないですよ本当に」
第5波は、ワクチンを打っているためか、高齢者であっても比較的症状が軽い人が多いという。
さらにこんなケースも。患者の自宅前に到着すると、多くの人が行き交う中で、患者がマスクをせずに歩いてきた。
(救急救命士)
「お兄さんマスクしてない。マスクしてもらわないとあかんわ」
(救急救命士)「今、結構息苦しいですか?」
(40代患者)「そうですね」
午後7時を過ぎても新たな搬送依頼が
午後7時すぎ、この日、6件の搬送を終えて事務所に一度戻ったが、新たな搬送依頼が入った。
(救急救命士)
「もう1件行くことになりました」
この日、最後の搬送は自宅療養していた20代の女性。歩いて車両に乗り込んだが、一時は危険な状態だったという。
(救急救命士)「体調が悪くなって病院に行ったとかですか?」
(20代患者)「呼吸が…」
(救急救命士)「呼吸がしにくくなりました?」
(20代患者)「酸素飽和度が89まで下がって」
(救急救命士)「結構ですね。だいぶしんどかったんじゃないですか?ご飯とかは届きました?」
(20代患者)「自分で…」
(救急救命士)「逆に今は病院は入れてよかったなという感じですか。若い人で(酸素飽和度が)80くらいいく人は滅多にいないので」
酸素飽和度が90を下回ると十分な酸素を全身の臓器に送れなくなることもある。この20代患者は1人暮らしの自宅で10日間も持ちこたえていたという。20代患者を病院に搬送した後、救命救急士は車内でつぶやいた。
(救急救命士)「よく1人で耐えていたな。不安でしゃあないやろ」
『コロナをなめないでほしい』
この日、全ての搬送が終わったのは午後11時過ぎだった。
(救急救命士 彦坂拓さん)
「(第5波で)僕が今まで運んだ患者さんで『コロナなめてた』というフレーズを結構聞くんです。やはり皆さん心のどこかで“自分はかかっても無症状じゃないか”とか“重症化することはないんじゃないか”と心のどこかで絶対思っていると思うんですけど。かかった方は本当にしんどそうにされているので、なめないでほしいなと」
第5波はピークアウトしたとみられているが、民間救急は依然として非常事態が続いている。