コロナ禍で需要が急増しているフードデリバリー。そのフードデリバリーの配達においては交通ルールを守ることが大前提だが、一方でドライバーらの危険な運転が相次いで問題となっている。その背景とは…。

バイクが一時停止せず事故誘発か…6歳男児が重傷 運転手はフードデリバリー

今年6月、京都市内にある飲食店の前である事故が起きた。
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(青地功さん(47))
「子どもがここで痛いって言ってるんで、追いかけることもできず。とりあえず腹が立つくらいしかなかったですね。(自転車に乗った)息子はバイクが突然、横からやってきて前輪と前輪、タイヤとタイヤが当たってぶつかってこけたと言っていました」
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青地さんによると、事故当時、青地さんが自転車で走行する後ろに6歳の息子が自転車で走行していた。
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青地さんが飲食店を通り過ぎる際に店から1台のバイクが出てきたという。
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一時停止のラインでバイクは止まることなく進もうとしたため、後ろにいた息子に「止まるよう」に呼び掛けたが、間に合わずに息子は転倒。

バイクと接触はなかったとみられているが、転倒した息子を救護することなくバイクはそのまま走り去ったというのだ。
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これは事故の瞬間を撮影した防犯カメラの映像。青地さんの自転車が通過して、バイクが出てきた。その直後に自転車が転倒しているように見える。
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しかし、バイクはすぐに立ち去った。防犯カメラの映像にはバイクが店から歩道に出る際、一時停止しているようにはみられない。時間などを確認したところフードデリバリーサービスのドライバーだったことが判明したという。
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転倒した6歳の息子は右足の甲を剥離骨折する重傷を負った。
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(青地さんの息子(6))
「ここに止まれって書いてあるのに止まらずに行って、それでお父さんの顔見たらもう逃げた(Qバイクの人は何も言わずに行っちゃった?)うん。怖かった」

青地さんは警察に通報し、飲食店側の協力もありドライバーを特定することができたという。しかし、フードデリバリー会社側からは何の連絡もないという。
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(青地功さん(47))
「(フードデリバリー会社の)本社にかけても個人事業主なので関係がありませんっていう回答をもらったとか、事故が起きてもそういうことが起きんねやって本当にびっくりしました」
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その後、ドライバーと直接会うことができたが、ドライバー側は「一時停止はした。転倒とは関係ない」などと主張しているという。

需要が増加するフードデリバリー 指摘される配達員の「危険な運転」

ウーバーイーツなどのフードデリバリーサービスは新型コロナの感染拡大で需要が急増。今年の市場規模は5678億円に上るとみられている。(ICT総研予測より)

そんな中、指摘されているのが「危険な運転」。今年1月に愛知県名古屋市中区でバイクに乗ったウーバーイーツのドライバーが一時停止を無視したとして警察官から職務質問を受けていた際に逃走し、乗用車と正面衝突する事故も起きている。

一体なぜ、危険な運転が横行しているのか?取材班は8月2日に京都市内の交差点で様子を伺ってみることにした。
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すると、フードデリバリーのドライバーが乗った自転車が『一時停止せずに走る様子』や
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『横断歩道が赤信号の中、自転車が走っていく様子』もみられた。

急ぐ背景に報酬アップの「クエスト」

なぜ、そこまで配達を急ぐのか?配達の依頼待ちをしていたドライバーたちに取材班が話を聞いてみた。

(フードデリバリーのドライバー)
「1日30件京都やったらいけたらいい方かなと。雨の時とかは『クエスト』があって、時間制限内に何件いけたらプラス何円みたいな時があるので、それで飛ばしたりとか焦ったり早くクリアせなあかんなっていうことは自分もありますね」
「1週間に何回配達したらプラスで何円もらえますみたいな感じです。それクリアしたいなってやっています」
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ドライバーが話す「クエスト」とはウーバーイーツなどが採用するシステムだ。雨の日など天候の悪い日に配達をすると追加報酬が出る「雨の日クエスト」や、金曜~日曜の間に目標の配達件数をクリアすると追加報酬が出る「週末クエスト」など、特定の条件をクリアしたドライバーに追加報酬が支払われる仕組みだという。

ゲーム感覚で「クエスト」に挑戦するドライバーもいて、交通ルールを守らない一因にもなっているようだ。こうした現状についてウーバーイーツ側に問い合わせると…。
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【取材へのウーバーイーツ側の回答】
「より早く配達することを目的としたインセンティブはありません。配送件数に応じて追加で報酬が支払われる仕組みです。交通安全啓発につきましては取り組みを強化していく方針です」
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ウーバーイーツ側はクエストは「危険な運転にはつながらない」などと回答している。

運営側は講習など対策も 配達員ら「適切な指導を受けていない」

業界最大手のウーバーイーツではこれまで警察と協力してドライバーに講習を行うなどの取り組みを行っている。しかし、ドライバーたちはメールなどが来るだけで交通ルールについて適切な指導は受けていないと話す。

(フードデリバリードライバー)
「定期的に交通安全のメールとかはくるだけでそれだけですね。(Q始めるときにルール指導は?)なかったですね。全部自分でネットで調べてやってるって感じです」
「たぶん自分から講習に行かないといけないんですけど、強制参加じゃないんで行ってないです」

ドライバーは“個人事業主” 専門家「雇用形態も危険運転の要因」

さらに配達員からは「事故をした時に保険とかが出るのかなど運営会社から全然説明がない」とも話す。

ウーバー側は「全ドライバーが保険には加入している(配達中の場合)」としているが、それを知らないドライバーも少なくない。

フードデリバリーのドライバーの多くは運営会社と雇用関係にない個人事業主となり、最低賃金の規定や社会保障などの制度が適用されない。
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労働問題に詳しい清水亮宏弁護士はこうした雇用形態も危険運転の要因だと指摘する。

(清水亮宏弁護士)
「自分がこの配達をすればいくら払われるのかが明確でなかったら、やはり不安はあると思うんですよね。果たしてこれだけ配達しているのに食べていけるのかというのもあると思うので。フードデリバリーの配達員の人はもう労働者と認めて(最低賃金や有給休暇など)労働者と同様の保護を行うという対策もあり得ると」

安定しない収入に不安を抱えながら日々料理を配達するドライバーたち。コロナ禍で需要が高まる今だからこそ、新たなルール作りが必要ではないだろうか。

(2021年8月11日 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特命取材班スクープ』より)