芸能界での活躍を夢見る女性をだますオーディション詐欺。芸能界を志していたある女性は、会社経営者を名乗る人物に出会う。その後、この人物から有名企業のCMが決まったと連絡が入るが、ある時から金銭を要求されるようになる。「モデルになれる」「タレントになれる」と言葉巧みに金をだまし取るその手口とは?
A氏と出会い次々と大手企業の仕事が決まっていく
大阪市内に住むマキさん(仮名・20代)。かつて芸能界を志していた。
(マキさん)
「この人について行ったら、もしかしたら芸能の世界に届くかもしれないと思った。テレビに出たいという思いがずっとあって、東京に何回もオーディションに行ったけれども叶わずで、諦めたのが大学4年生。そこから就職したけれど、純粋な夢があって。就職していた会社も退職して、再び芸能活動をやろうかなと思っていた時にAさんと出会ったという感じです」
2020年、知人を介して出会ったというのが会社経営者を名乗るA氏だった。A氏はマキさんに“ある提案”を持ちかけてきたという。
(マキさん)
「1年間の僕の会社のPRモデルを探しに大阪に来たって言われて、(マキちゃんを)使いたいって言われて。うれしくて、いいんですかみたいな」
A氏はマキさんに会社のPRモデルの仕事を依頼。その後、芸能関係の紹介話をしてきたという。マキさんがA氏とやりとりしたLINEの画面。
【A氏とマキさんのLINEのやりとり】
(A氏)「今、水着とかキワキワの写真を雑誌が力入れてるみたいなんやけど誰かいないか?ってきていて」
(マキさん)「有名タレントも出るんですね」
(A氏)「表紙ではないと思うけど全国紙やからね。多少のセクシーはいけるん?」
(マキさん)「すごいです!水着とかですよね?」
その後、マキさんはA氏に自身の写真を送り、仕事を依頼している。すると数日後、「仕事が決まった」と連絡が入ったという。
(マキさん)
「(大手ハウスメーカーの)CMが決まったって連絡がありました。(QCMが決まったと言われた時はどうでしたか?)え、すご、みたいな。Aさんってそういうのを持ってこられる会社なんやと思いました。ぜひ挑戦させてくださいって。そこから急にヒートアップして、大手ビールメーカー、IT企業、大手食品メーカー、大手飲料メーカー、急に電話が入って『取ってきたマキちゃん』みたいな。(Q疑わなかった?)信じていて、主演ではなくてサブのビールを飲んでいる隣に座っているとか。マキちゃん次第やし、チャレンジしてもいいんじゃないと言われました」
その当時のやり取りは…
【A氏とマキさんのLINEのやりとり】
(A氏)「大手ビールメーカーはいけそう。また今日話しておくけど」
(マキさん)「ありがとうございます!」
(A氏)「梅田で飲みましょか。撮影のことで打ち合わせなきゃいけなくて。演技指導終わりまして梅田向かってます」
「合宿費」「トラブルの際の保証金」A氏の口座に100万円以上振り込む
芸能関係者を装うA氏。やり取りを始めて1か月。決まっていたはずのモデルの仕事やCMの仕事は具体的な話が進まない中、こんな話をしてきたという。
(マキさん)
「TGC(東京ガールズコレクション)に出たいって私が言っていて。『じゃあ僕もそこに協力できるように頑張るね』みたいな感じで。でも『合宿費用が10万円かかる』と言われて。『きょうかあす中には10万円振り込んで』って」
ファッションショーの出演をあっせんする代わりに金銭を要求してきた。マキさんは夢を叶えるためにA氏の銀行口座に10万円を振り込んだ。さらに…。
(マキさん)
「ここからが一番周りに被害があったやつなんですけれど、保証金と年間契約金が書かれている資料が送られてきて」
A氏がマキさんに送ってきた書面。そこには大手電気メーカー3万円、化粧品メーカー5万円、大手通信会社10万円などと記されていて、「トラブルがあった際の保証金」だと説明を受け、マキさんはA氏に計30万円を支払ったという。
(マキさん)
「企業が出てきたから信じちゃった。ばかだったなと。たまに来る圧。『これまであったCMの話は白紙に戻るから、一旦お前の行動を整理せい』みたいなのが毎日ぐらいあって。アメとムチじゃないですけれどマインドコントロール」
結局、マキさんはA氏の口座に100万円以上を振り込んだ。
企業約20社に確認「そんな話はない」
ではA氏は本当にCMなどの出演をあっせんする立場にあったのか?取材班はCM出演の話を紹介された企業約20社に確認した。
(大手薬品メーカー)「一般の方に直接連絡を取ったりスカウティングをしたりする事は一切ありません」
(大手自動車メーカー)「該当する企業、個人に心当たりがございません」
(大手化粧品メーカー)「全く存じ上げません」
全社が「そんな話はない」と回答した。
東京本社・大阪支社とされる場所を訪ねると…
さらに取材班はA氏の名刺を入手。そこに書かれていた“東京の本社”を訪れてみた。
(記者)「事務所のある6階にはテナントが入っておらず、エレベーターのボタンを押すことすらできません」
また“大阪支社”とされる場所にも訪れた。
(記者)「本来、男性の事務所はこちらのビルの4階にあるはずなのですが、4階にはテナントは入っていません」
さらに名刺に書かれた携帯番号に電話をかけると「現在使われておりません」と自動音声が流れた。
取材班はその後、大阪府内にあるA氏の自宅を突き止め、3か月にわたって張り込んだものの、結局、A氏は姿を見せなかった。
専門家「脅しに屈しないで誰かに相談して」
その後の取材で、A氏による被害はマキさんだけではなく複数人に及んでいることがわかった。タレントの労働問題に詳しい深井剛志弁護士は警鐘を鳴らしている。
(深井剛志弁護士)
「冷静に考えればそんな契約おかしいだろうと気づけるのではないかなと思うのですが、“ここで契約しないとほかで出られるかどうかわからないし、せっかくつかんだチャンスなんだし”ということで、夢を叶えたいという気持ちに付け込んだところは非常に共通しているのかなと。ちょっと変だなと思った時にはすぐに誰かに相談するように。このお金なんて払う必要ないんじゃないのかなと思ったら、脅しに屈しないで誰かに相談してほしい」
また、深井弁護士は「依頼を受けた出演者側が金銭を支払うことはほぼ無い、そこは芸能界も一般社会と同じルール」と話している。
被害者30人・被害総額約1300万円…警察が“詐欺容疑”視野に捜査
マキさんらは去年12月に警察に被害届を提出した。被害者は総勢30人、被害総額は約1300万円に上っているという。
(マキさん)
「お金が返ってくるかわからないんですけれども、もしかしたらほかにも被害が出ているかもしれないので、止めてもらいたいなと思います」
警察は被害届を受理し、A氏に対して詐欺容疑も視野に捜査を進めている。
(4月14日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特命取材班スクープ』より)