今年2月以降、SNS上で投稿が相次いだ「#協力金バブル」。1日6万円の協力金で助かる店もあれば、規模によっては厳しい店もある。取材班は50店舗以上に声をかけ、匿名を条件に話を聞いた。

飲食店へ1日6万円の協力金 「#協力金バブル」

今年4月5日から始まった「まん延防止等重点措置」。大阪市や神戸市などが対象で、飲食店への夜8時までの時短要請などが柱となっている。これまで緊急事態宣言下では国は時短要請に応じた店に一律で1日6万円を支給してきた。しかし、今回の要請で国は方針を変更。売り上げの減少などに応じて支給額を4万円~20万円と幅を持たせた。なぜ政府は方針を変えたのか?そのきっかけとなったのが「#協力金バブル」だ。

今年2月以降、SNS上でこんな投稿が相次いだ。

【SNSの投稿より一部抜粋】
『家賃もない、夫婦二人で細々やってるような食堂がランチ出して8時に店閉めて6万円もらえて温泉三昧。元々売り上げ一日6万円もないよ』
『協力金バブル万歳!1日6万円!どうだ?羨ましいか?普段の営業22時ごろまでなのに20時に店閉めてテイクアウトとデリバリーで更に稼ぐよ』

こうした投稿に対しては厳しい声も飛び交っている。

【SNSの投稿より一部抜粋】
『もう外食するのやめよう、協力金バブル腹が立つ』
『コロナと付ければ政府が湯水のごとく何億何兆とお金を使うのはおかしい!』
『一律を見直してください。心が折れている事業者が沢山います』

取材班が調べると、これまで休業要請などに応じた飲食店に対する国や大阪府などの協力金は最大で1店舗あたり865万円に上っている(大阪市内の一部の店舗・4月4日までの分)。これを安いと取るのか高いと取るのか、その評価は店によって違う。

協力金“足りない”飲食店

大阪・ミナミに店を構える居酒屋「銀平」。家賃は100万円以上で従業員は20人ほど。コロナ前の売り上げは1日60万円以上で、1日6万円の協力金では経営を維持するのは難しいと話す。
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(銀平心斎橋店 稲田真太郎店長)
「補償というふうに考えると全然足りてはいないですね。ロスをどれだけ減らすかというのも徹底していますし、何か新しいことを始めるというよりは、今できることを最低限で抑えて、結構シビアになっています」

今は時短要請に応じているものの、去年12月の4度目となる時短要請に対しては「従業員の雇用が守れない」として要請に応じない決断を下したこともあった。

(銀平心斎橋店 稲田真太郎店長)
「時短営業せずに協力金なしで営業しているお店に対しては悪いふうにも思わないですし、それも一つの手段だとも思います。(Q協力金バブルだといわれるようなお店もあるが?)納めている税の額だとか、そういうのもやっぱり全く違ってくると思いますし、それなりにかかる経費が全然違いますので、不公平感は持ちますね」

北新地にある「和牛割烹穐山」も、売り上げが半減する中、1日6万円の協力金では全く足りないと話す。

(和牛割烹穐山 穐山武史オーナー)
「(この店は)ある程度小規模ですけれども、北新地ではやっぱり立地的には厳しいですね。完全休業されているところもありますけれども、うちはずっと時短で営業を続けて少しでも売り上げを上げていこうというふうにやっていますけれどね」

“1日6万円も売り上げがない”飲食店

時短要請で厳しい経営を強いられる店が多い中、『協力金バブル』に踊る店は実際にあるのか?取材班はその実態を調べるため、飲食店を尋ね歩いた。

(記者)「すいません、協力金について調べていまして」
(店側)「オーナーじゃないとわかんないな」

50店舗以上に声をかけたところ匿名を条件にある店が取材に応じた。
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大阪市内で居酒屋を営む男性。1日6万円の協力金を申請した。

(居酒屋店主)
「やらしい話やけど、くれるっちゅうんやから申請するわな。助かりすぎやからな、うちなんか。絶対助かりすぎ。(Q協力金バブルというような人もいる?)そらおるよ。利益で1日6万円上げようと思ったら、うちなんぼ売らなあかんか。極端な話やで、半分でも食べていけるからな。協力金のな。それが本音やな」

営業は午後5時半から時短要請の時間までで、緊急事態宣言下では客は1日数人程度。1日6万円の協力金は通常営業での利益よりも多いという。

(居酒屋店主)
「(Q後ろめたい気持ちは?)どうやろ、ちょっとなんかある。貰われへん人いっぱいおるんやから。うちらはそれで贅沢しようとか何か買おうとかは一切ない。(お客が)もし戻ってこなかった時に、助けてもらった分で頑張って補おうと思っている」

さらに、大阪市内の別の居酒屋にも話を聞いた。こちらの店の売り上げはコロナ前のいい時でも1日5万円程度だったという。

(居酒屋店主)
「びっくりしました。え、なんでそんなに出るのって。うちみたいな規模だと1日6万円というのはほんとに高いと思います。私と同じくらいの規模でとにかく浮かれまくっている人もいっぱいいます。『ハワイ旅行に行く』とか言っている人がいて、距離を置こうかなと思うようになりますし」

売り上げ以上の「協力金」。もらう側にもワケがありました。

(居酒屋店主)
「うちくらいの店はもう前には戻らないと思うので、それでも維持していくためにはありがたくいただいて、維持していくために使おうかなと思っています。これでどうにか穴埋めしてやっていく実情なので、じゃあ協力金がなかったらどうなるのと言ったら、もしかしたら潰れたかもしれない」
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協力金は原則一律給付だが、中にはこんなラーメン店もありました。この店は1日1万5000円だけ協力金をもらえないか自治体に要望しているという。

(ラーメン店店主)
「正直に言ったら、うちなんか1万5000円か2万円の売り上げがあったらいいところやから。(Q6万円満額は申請していない?)しないですね。ほんまに困っているところはもっとあるんやからね」

「第3波の前に制度設計をすべきだった」

コロナ禍では、厳しい経営を強いられる店もあれば、儲かる店もあるという実態。国の施策に詳しい専門家である近畿大学の上崎哉教授は「第3波の前に制度設計をすべきだった」と指摘している。

(近畿大学 上崎哉教授)
「(去年)秋になったらまた大きな波が来るというのは以前から言われていたので、『4万円とか6万円では足りない』とおっしゃっているお店があるのであれば、そちらの方に手厚く支給ができるような仕組みを作っていただく方がよかったかなと思います。多めにもらっている方もお店の方たちが悪いわけではなくて、制度を作った方の責任なのかなとは思います」

“迅速に支給するため”として一律給付とされた協力金だが、未だに全額支給されていない店も多い。制度設計が適切だったのか検証が必要ではないだろうか。

(4月7日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特命取材班スクープ』より)