新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大を受けて、日本では去年11月から外国人の新規入国を停止。今年3月から1日7000人を条件に制限を解除しましたが、長く続いた入国制限は“コロナ鎖国”とも揶揄されています。その影響を受けているのは『外国人技能実習生』『留学生』たちです。日本に行きたいけど、行けない。さらに日本企業などにも影響が出てきています。

母国の家族のために日本で働くベトナム人技能実習生

 慣れた手つきで糸をつなぐ女性。約1年間、大阪府岸和田市にある山忠紡績の工場で勤務しているベトナム人技能実習生のヴ・ティ・チャンさん(32)です。

 (ベトナム人技能実習生 ヴ・ティ・チャンさん)
 「(Q今なにをしている?)巻きつけをしています。これは糸をつなぐ(作業)です」
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 山忠紡績では、ジーンズなどに使われる糸を製造していて、従業員39人のうち5人が外国人技能実習生です。チャンさんは出来上がった糸を管理する仕事を任されています。
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 (ベトナム人技能実習生 ヴ・ティ・チャンさん)
 「もう1年くらい経ちました。仕事は面白いです。それでOKです。(Q給料は何に使うか決めていますか?)毎月家族に送っています」
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 チャンさんが日本にやってきたのは、去年2月。ベトナムで思うような仕事が見つからず、家族のために日本で働き、母国に帰っても職に就けるようにと技能実習生になりました。
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ベトナムには夫と娘を残し、日本で得た収入を仕送りしています。
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コロナ禍で8か月遅れではありましたが、来日できたチャンさん。しかし、後輩たちの多くはベトナムに留まっていて、不安な日々を送っているといいます。

(ベトナム人技能実習生 ヴ・ティ・チャンさん)
「日本に来られるかどうかわからない、不安です。もうすぐ入国できます。後輩に言いたいことがあります。みなさん、チャンスは来ています。健康に気をつけて一生懸命勉強しましょう。頑張って!」

今年1月時点で「在留資格があっても入国できない技能実習生」は約13万人

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年2月、日本政府は入国制限を強め、緩和と制限を繰り返した後、去年11月末にオミクロン株の出現を受けて全世界からの入国を停止しました。世界的に見ても厳しい制限で、“鎖国”とも揶揄されました。
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 そして、今年2月17日、岸田文雄首相は次のように述べました。

 (岸田文雄首相)
 「観光目的以外の新規入国者に限って認めることといたします」

 3月からビジネス関係者や技能実習生らの入国を条件付きで認め、1日の入国者の上限は3500人から7000人に引き上げられています。しかし、今年1月時点で、在留資格を持ちながら入国できていない技能実習生は約13万人、留学生は15万人ほどいて、すぐには入国できない状況は続きそうです。

日本人雇用が難しくなり「実習生に早く来てほしいと願うばかり」

 技能実習生の足止めは、日本企業にも大きな影響を与えています。チャンさんが働く製糸工場では、未だに入国の目途が立たない実習生がいるといいます。

 (山忠紡績 武田淳社長)
 「本当なら去年10月にあと4人入国する予定だったんです。いまだにその4人が入って来られずにいる。(Q4人が来られないとなった時には?)もうまともに操業できるのかなと」
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 こうした中小零細企業が外国人技能実習生を必要とするのには訳がありました。

 (山忠紡績 武田淳社長)
 「日本人雇用がすごく難しくなってきているんですよ。ずっとハローワークには求人を出しているんですけど、1年間で1人、もしくは2人紹介があればいい方ですよね。(外国人技能実習生に)できるだけ早く来てほしいと願うばかりです」

日本語学校では生徒らが「入国待ち」のためオンライン授業に

 日本の“鎖国”に影響を受けているのは、企業だけではありません。大阪府羽曳野市にある日本語学校「アオヤマホープアカデミー」。2020年4月に取材した際には、生徒の前に教師が立つ当たり前の光景がありました。
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 しかし、今年3月9日に訪れると、教室に生徒の姿はありません。
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 今年入学した生徒たちは約1年間入国を待っていて、全員が母国のベトナムからオンラインで授業を受けています。

 【オンライン授業の様子】
 (先生)「難しい漢字です。『催促する』は読めますか?」
 (生徒)「さいそく」
 (先生)「そうですね」

入国制限に加えてコロナ禍を理由に留学希望の生徒が減少

 コロナ前、アオヤマホープアカデミーには50人~100人ほど生徒が日本語を学んでいたということです。

 (アオヤマホープアカデミー 阿部卓史副校長)
 「(Q今、生徒さんは何人くらい?)今年5人です。飲食店とかよりも(経営が)多分きついんじゃないんでしょうか。支援とかがない分、どこも青息吐息というのが本音だと思います」

 コロナ禍を理由に、留学を希望する生徒自体も減っているといいます。

 (アオヤマホープアカデミー 阿部卓史副校長)
 「コロナによる入国制限により、そもそも日本に行こうという意欲が減退しています。その上に入国制限のために来られない。そんな状態です」

オンラインで勉強する生徒「入国禁止の情報に慣れた」

 入国を待ちながらオンラインで勉強している生徒たちにも話を聞きました。

 (アオヤマホープアカデミーの生徒 グエン・ヒュエン・チャンさん)
 「1年間オンラインの授業を受けているので、大変なこともあります。インターネットの問題や長い時間小さい画面を見ているので、目の痛みや腰の痛みも問題になりました」
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 スマホの画面越しに週5日、1日8時間の授業を受けているというグエン・ヒュエン・チャンさん。入国が禁止されていた今年1月の日誌には、次のような内容が書かれています。

 【今年1月の日誌に書かれた内容】
 「残念だなってもう感じられなくなった。入国禁止の情報に慣れた。でも日本に行くことを決心したので最後まで頑張ろうと思っている」
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 入国を心待ちにしているチャンさん。日本でやりたいことを聞くと…。

 (アオヤマホープアカデミーの生徒 グエン・ヒュエン・チャンさん)
 「知識をできるだけたくさん身につけて資格を取得することです。それから日本で長い期間働くことです。(Qどんな資格を取りたい?)介護福祉士という資格です」

 約1年間、リモートで語学を学んだ後、日本で介護福祉士の資格を取得し介護施設で働くことを目指しています。
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 副校長の阿部さんは入国の日程が決まらない日々にもどかしさを感じています。

 (アオヤマホープアカデミー 阿部卓史副校長)
 「飛行機のチケットの争奪戦であったり、その前にまず大使館の前に留学生の長い列があって、ビザがそもそも発行してもらえないですとか、読めない状況です。卒業前にせめて顔を見て(介護の現場に)行ってもらいたいなと思っています」

 今後も厳しい入国制限が続けば、技能実習先として日本から他国へ変える動きも懸念されていて、長く続く“コロナ鎖国”には様々な声が上がり始めています。