近年、銀行で紙幣から硬貨への両替が有料化されたため、お釣り用にたくさんの小銭を用意する商店主らにとっては「両替手数料」が大きな負担になることがあります。さらに最近は、硬貨の預け入れまで有料化され、さい銭などが集まる各地の神社にとっても頭を悩ませる事態になっています。そんな中、大阪府内のある神社が、お互いにとってWin-Winの関係と言える、まさに“神対応”な取り組みを始めました。

ある書店の『手数料』負担は…鬼滅の刃全巻2セット分

大阪府高槻市にある「ダイハン書房高槻店」。レジ前にあるポップが目を引きます。
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【レジ前にあるポップ】
「小銭大歓迎!両替金手数料値上げでツライです。どうぞ小銭を使ってやって下さい」
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岡本歩店長によりますと、4年ほど前から大手銀行で釣り銭の両替手数料が導入されて、多い時で月5000円程度もかかるようになってしまったといいます。

(ダイハン書房高槻店 岡本歩店長)
「うちは書店ですので本の利益ってすごく少ないんですよ。5000円の手数料というのは、わかりやすく言うと、『鬼滅の刃』全23巻を2セット売った利益がそのまま手数料で取られちゃう。そう考えると一冊一冊を売っている身としては結構厳しいものがありますね」
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一方で、3年ほど前から小銭を銀行に預けたい人にも手数料がかかるようになり、大手銀行の中で最後までATMも窓口も無料だった「ゆうちょ銀行」も今年1月から手数料がかかるようになりました。

そこで岡本店長が思いついたのがこのポップだったのです。

(ダイハン書房高槻店 岡本歩店長)
「小銭貯金をされていて『1回の入金で50枚くらいしか(無料で)できないのをすごく困っている』というお客さまが1回来られて、そのときに手元に持っていた小銭を両替させてもらって。個人商店の方とか小さいお店をされている方というのは、やっぱり同じように悩まれている方がたくさんいらっしゃると思います」

有料化について銀行は「価値提供に見合う手数料をいただく」

全国の銀行で進む硬貨入金の際の有料化。ゆうちょ銀行の場合は以下のようになっています。

【ゆうちょ銀行のATMでの硬貨を伴う入金手数料】
    1~25枚:110円
   26~50枚:220円
 51枚~100枚:330円
(1回につき100枚まで)

【ゆうちょ銀行の窓口での硬貨取り扱い手数料】
    1~50枚:無料
  51~100枚:550円
 101~500枚:825円
501~1000枚:1100円
  1001枚以上:500枚ごとに550円加算
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大阪府内に本店や支店がある銀行で構成する「大阪銀行協会」の半沢淳一会長は、「硬貨の取り扱いにはコストや手間がかかる」として理解を求めます。

(大阪銀行協会 半沢淳一会長)
「サービスに費やすコストや価値提供に見合う手数料をいただくと。サービスを維持していくためにどういう風に手数料体系、数字を考えればいいのかということを各社が考えている」

神社が考え出した『お互いを助け合う一石二鳥の両替サービス』

入金手数料の有料化に特に頭を悩ませているのが各地の神社です。

600年以上の歴史があり、安産のご利益などがあるとして地元で親しまれる大阪府交野市の「住吉神社」。
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さい銭やおみくじ代などで数多くの硬貨が集まるため、銀行口座に入金するには多額の手数料がかかります。
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そこで考え出したのが『コインチェンジ』というサービスでした。
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商店主がお釣りに困ったときに、紙幣を神社に持って行くと、神社はさい銭などで集まった小銭と紙幣を無料で両替してくれます。商店主にとっては両替手数料がかからないだけでなく、神社にとっても小銭の入金手数料を抑えることができます。お互い助け合う“一石二鳥”のサービスです。
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この神社を取りまとめる総代長の祢冝悟さんはこのサービスについて次のように話します。

(住吉神社総代長 祢冝悟さん)
「神社のほうにとっては預入手数料ですね、業者の方にとっては両替手数料が要らないということで。Win-Winの関係かなと思います」
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この取り組みを知った地元の美容室「Jade temps」は是非利用したいと話します。この美容室ではクレジットカードや電子マネーなども導入していますが、古くからの常連も多く、まだまだ現金払いのニーズが高いことから釣り銭は欠かせません。

(Jade temps 萱沼裕実店長)
「すごくありがたいと思います。しかも日曜日にやってくれるから、銀行はどうしても日曜日はやっていないので。ぜひ、利用させてもらえたらありがたいです」

両替に訪れる商店主ら「大変ありがたい」「すごく助かる」

そして迎えた『コインチェンジ』の初日。住吉神社にはさっそく両替に訪れる地元の商店主らの姿がありました。
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(コンビニエンスストアの店長)
「100円が1万円分と、50円が1万円分と…。ほなこれでお願いしますわ」

訪れたのはコンビニエンスストアの店長。持ってきた紙幣などの枚数と、欲しい小銭の枚数を紙に記入します。この日は2万4300円を1000枚の硬貨に両替しました。
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仮にゆうちょ銀行の窓口で行った場合、お店も神社もそれぞれ硬貨取り扱い手数料1100円がかかる計算です。
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(コンビニエンスストアの店長)
「大変ありがたいなと。自動レジになってから、みんな1000円とか5000円とか入れるので、釣り銭がたくさんいる」

店にとってはまさに“神対応”です。
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続いては食料品を扱う女性が訪れました。店の釣り銭用に7万円分の両替です。

(食料品を扱う女性)
「現金商売ですのでどうしても小銭が必要で。すごく助かりました」
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そして、さきほどの美容室では、両替するお金を店長がレジから準備します。営業中で店長は店を空けられないため、スタッフが代わりに神社に向かいます。

5000円札を100円玉50枚に、500円玉を10円玉50枚に無料で両替できました。

『両替ついでの参拝』で神社と地元との“ご縁”も結ぶ

その後、何気なく隣にある本殿に向かってお参りしました。実は“両替ついでの参拝”も神社の狙いのひとつ。かつてに比べて地元との関わりが薄らぐ中で、どうしたら神社に足を運んでもらえるかを考えた結果だったのです。
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(住吉神社総代長 祢冝悟さん)
「地域に根付いた神社ですので、地元の商売人が気軽に両替に来ていただければ、参拝にもつながるんじゃないかということで。新しい方がこの神社を知っていただいたということ自体が、目的のひとつが達せられたのではないかと考えております」

神社が考え出した新たな両替サービスは、地元との“ご縁”を結ぶきっかけにもなっているようです。