2月25日に厚生労働省が発表した「去年1年間に生まれた子どもの数」は84万2897人で、前年から約3万人減り、過去最少となりました。新型コロナウイルスの影響とみられています。感染の第6波の収束が未だ見えない中で生まれる命。その瞬間と向き合う命の現場を取材しました。

重い肺炎の妊婦が帝王切開で出産 生まれた赤ちゃんにはPCR検査

大阪府泉佐野市の「りんくう総合医療センター」。コロナ患者のお産をこれまで36例受け入れてきました。この日も1人の妊婦が手術室に運ばれてきました。新型コロナに感染し、咳き込む女性。重い肺炎で呼吸管理が必要になり、急きょ帝王切開で赤ちゃんを産むことになりました。りんくう総合医療センターが撮影した映像があります。

(医療スタッフ)
「しっかり深呼吸してね。咳き込むね、ごめんごめん」
「よく頑張りました。あとは産むだけだから」
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麻酔をかけて、お腹から赤ちゃんを取り出します。

(医療スタッフ)
「おめでとうございます」
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通常のお産だと、赤ちゃんは生まれてすぐにお母さんのもとへ運ばれますが、感染者の場合はすぐに赤ちゃんのPCR検査です。手術室はいわゆるレッドゾーン。部屋にいるのは産婦人科や麻酔科のスタッフのみです。
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お母さんのお腹を閉じる手術の最中に赤ちゃんはレッドゾーンを離れます。保育器に入れられてイエローゾーンに移された赤ちゃん。このように厳重な管理の中で出産が行われています。
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第5波以降、感染対策を整えてこうしたコロナの妊婦を受け入れる施設が増えているといいます。

(大阪産婦人科医会・理事 吉松淳医師)
「基本的には妊婦の安全が一番重要です。ほかの患者さんもいるので、そちらへの感染も予防する。医療者が媒介しないことが重要。(増加の背景には)自分の施設にかかってくれていた妊婦さんのお産を最後までやりたいという先生方のお気持ちもあるのだろうと思います」

産んだばかりの我が子に触れられず

今年1月。新しい年が明けてすぐ、りんくう総合医療センターに臨月の女性が運ばれてきました。前日に高熱が出てコロナと判明し、明け方に救急搬送されたのです。レッドゾーン内に作られた急ごしらえの分娩室で経過が落ち着くのを待っていましたが、破水し、陣痛が始まりました。
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女性の口元には医療用のマスク。病院で初のオミクロン株に感染した妊婦のお産とあって緊張が走ります。医師たちは女性の呼吸状態から帝王切開ではなく自然分娩が可能と判断しました。

(医療スタッフ)
「苦しくなったら中断してね」
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破水して約8時間。元気な女の子が生まれました。

(医療スタッフ)
「おめでとう」
「(赤ちゃんに)触れないのよ」
「マスクして。赤ちゃんにウイルスいっちゃう」
「写真撮った?」
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赤ちゃんは生まれた時点で濃厚接触者。お母さんは触れることができません。そのまま保育器に寝かされ、ひとけのないタイミングを見計らって別室に運ばれていきました。
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お母さんが我が子に会えたのはお産の11日後で、PCR検査で2回の陰性が確認されてからでした。

(出産した女性)
「一番つらかったです、その時期が。(胸が)張ってくるので、それを全部自分で搾乳して捨てての繰り返しでした。(Q初めて抱っこしたときの気持ちは?)会える前から涙が出て、今から会えると思って」

“立ち会い”ができる病院を選択 その日を待つ家族

感染者が爆発的に増える第6波での出産の現場は難しい判断が続いています。兵庫県西宮市に住む北中禎子さんは今、4人目を妊娠しています。
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この日、西宮市の病院「サンタクルス夙川」へ健診に訪れました。次男の成喜くん(5)が付き添います。
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今、多くの病院では家族であっても出産の立ち会いができない状況が続いていますが、西宮市のこの病院では家族の立ち会いを認めています。

(サンタクルス 吉田昌弘理事長)
「賛否両論があると思うんです。感染予防という観点からいくと、当然立会いはできるだけ少ない方がいいだろうというのが当たり前だと思うんですけれども、患者にとって当然『立ち会い』『家族で出産してみたい』は当たり前の要求だと思うんですね」
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北中さんは「家族全員で見守ってほしい」という思いから立ち会いができるこの病院を選びました。

(北中さんの夫・成和さん)
「最初に親としてその場にいたいという気持ちが1つあるのと、妻が命懸けで出産してくれるので、その時に夫として一緒にいてあげたい」
(北中禎子さん)
「(コロナに)誰もかからずに私もかからずに出産を迎えられたらなと」

家族で臨む出産。子どもたちもその日を待ちます。

   (成和さん)「赤ちゃん生まれてくるの楽しみですか?」
(長男・良和くん)「楽しみ!めっちゃ楽しみ」

「きょうだい愛みたいなものが見られたのでよかった」

2月16日深夜。ついに陣痛がきました。夫・成和さんが出産の様子を撮影しました。

(北中禎子さん)
「お腹痛い。腰が痛い。いきみたい」
(助産師)
「いいところまで来ているよ」

分娩室にはその時を待つ子どもたちもいます。ただ、すぐに赤ちゃん誕生とはいかず、緊張の糸が緩んでいました。
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しかし、陣痛が進むにつれ、押し寄せる痛み。いつもと違うお母さんの様子を子どもたちが真剣に見つめます。3歳の彩笑ちゃんはついに泣き出してしまいました。
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そして翌日の朝、3524gの元気な男の子が生まれました。

(成和さん)「ありがとうね、禎子さん」
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最後まで立ち会ったお兄ちゃんお姉ちゃんたち。

(成和さん)「ずっとかわいい、かわいいって」
(禎子さん)「それを見ると立ち会いさせてよかったね」
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家族に加わった新しい命。出産を終えたお母さんに思いを聞きました。

(北中禎子さん)
「弟が産まれて、きょうだい愛みたいなものが見られたのでよかったなと思って。退院してからも安心して帰れるなと思いました」

コロナで変わるお産の形。家族にとってその瞬間をどう迎えるべきなのか。大切な経験だからこそ現場の模索が続いています。