大阪税関によりますと、コロナ禍で入国者が減っていることもあって不正薬物の密輸の摘発件数は減っています。その一方で、去年1年間の違法薬物の押収量は約133kgで、前年比39%増と激増しました。こうした違法薬物の密輸を水際で防ぐのが、麻薬探知犬です。今回、“新米”麻薬探知犬の訓練の様子を取材しました。

「ハンドラー」とペアを組み違法薬物を捜し出す「麻薬探知犬」

去年12月17日、伊丹空港に2頭の犬が降り立ちました。
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どちらも1歳のラブラドールレトリバーで、メスの「ウラニ」とオスの「マンゴー」。東京税関の施設で4か月間の訓練を受け、適性試験に合格したばかりの麻薬探知犬です。
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1979年に日本に導入された麻薬探知犬。「ハンドラー」と呼ばれる税関職員とペアを組んで活動します。人間の数万倍ともいわれる鋭い嗅覚を生かし、旅行客の荷物や国際郵便などに隠された違法な薬物を捜し出します。
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メスのウラニとペアを組むのは、大阪税関の上野桃香さん(20)。初めて麻薬探知犬の育成を任されたハンドラーです。

(ウラニ号のハンドラー 上野桃香さん)
「初めて(ウラニに)会った時は隅っこの方に座っていたので『おとなしい犬なのかな』と思ってたんですけど、全然そんなことなく、キャピキャピしているので良かったかなと思います」
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オスのマンゴーとペアを組むのは森本真央さん(20)。上野さんとは同期で、育成を担うのは初めてです。

(マンゴー号のハンドラー 森本真央さん)
「自分にできるのかなという不安がすごくありました。でもあまり経験できないチャンスをもらえたので頑張りたいなと」

新米「麻薬探知犬」と新人「ハンドラー」。現場に出るための最後の1か月半、“最終テスト”に向けた訓練が行われます。

遊んでいるようにも見える訓練 「ダミー」と呼ばれるタオルを使用

去年12月20日、大阪での訓練初日を迎えました。

(上野さんと森本さんに話す大阪税関・田場隆将監視官)
「集中切れても、ちゃんと追ってよ。追ってしっかり遊んでね」
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施設の広場に出てきたウラニ。すぐに訓練が始まりました。
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ウラニは白いタオルをくわえて走り出します。上野さんも声をかけながらウラニを追いかけます。一見、遊んでいるようにも見えますが、これが1人前の麻薬探知犬に育てるための訓練です。
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ウラニがくわえるタオルは「ダミー」と呼ばれていて、このダミーを見つけると「遊んでもらえる」と繰り返し意識づけをしているのです。

(ウラニ号のハンドラー 上野桃香さん)
「テンションもすごく高かった。よく走ってくれたのでいい訓練ができたかなと思います。私の限界が先に来てしまったんですけど」
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マンゴーもウラニと同じようにダミーをくわえて、ハンドラーの森本さんと楽しそうに走り回ります。
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(上野さんと森本さんに話す大阪税関・田場隆将監視官)
「犬めっちゃいいなあ。楽しそうやもんね、何にも臆してない。ウラニはめちゃめちゃ人に来るからいいね。せっかく来るなら自分がもっと動いて広く使った方がいいよね」

“麻薬の匂い”と“ダミー”を関連付ける訓練も

この日は麻薬を嗅ぎ分ける訓練も行われました。用意されたのは、大麻草の匂いを染み込ませた布で、紐でダミーとつながっています。
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(大阪税関 田場隆将監視官)
「こうすることによって、犬はダミーをくわえながら麻薬の匂いを常に感じることができる。そうするとダミーと麻薬の匂いとを関連付けることができる」
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訓練が行われる部屋には、箱がずらりと並べられました。このうち1つだけに大麻草の匂いがする布とダミーが入っています。
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部屋に入ってきたウラニは1つ1つを確認し、すぐにダミーを見つけました。
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そして、マンゴーもダミーを発見することができました。

こうして、麻薬の匂いがするところに大好きなダミーがあることを徹底的に覚えさせるのです。

(ウラニ号のハンドラー 上野桃香さん)
「ダミーを見たら『遊びたい遊びたい!』というのが強くて、周りを気にする様子がなかったのが一番良かったと思います。意欲はすごく高いので、その意欲を捜査や嗅ぎ方に生かしていけたらと思っています」
(マンゴー号のハンドラー 森本真央さん)
「遊びの時間が長くなるとすぐ飽きてきちゃうので、飽きないようにメリハリをつけることが課題です」

箱の中に入った麻薬の匂いだけを嗅ぎ分ける訓練

最終テストまで1か月を切った今年1月13日。初めて、実際のコンテナ倉庫で訓練が行われました。今回は箱の中に入った麻薬の匂いだけを嗅ぎ分けます。
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まずはマンゴーが行います。訓練を始めると、すぐに匂いがする箱を嗅ぎ分けました。麻薬を見つけると、ごほうびのダミーが与えられます。
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そして、ウラニの番です。麻薬の匂いがする箱の前を一瞬通りすぎましたが、何とか嗅ぎ分けました。
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(田場監視官)「迷ってた?すぐに座れた?」
 (上野さん)「いや、すぐには座れなかったです」
(田場監視官)「ちょっと振り返ったよね?犬がね」
 (上野さん)「スタートまでの連れていき方が今後の課題かなと思っています。『訓練スタート』という意識がウラニの中でつけられなかったので」

ハンドラーの動き1つが、麻薬を見つけられるかどうかを左右することもあるのです。

最終テストを1週間後に控え…ハンドラーたちは緊張

難易度が上がっていく中でも、ウラニもマンゴーもほぼ完璧に麻薬のありかを見つけ出していきます。しかし、訓練を共にするハンドラーは相棒との微妙な感覚の違いに気付いていました。
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(森本さんと話す上野さん)
「最近、旅行客の(関西空港)場内の訓練はそんなに乗り気じゃない気がする。『もうちょっとできるんちゃう』って思うんやけど…」

最終テストは1週間後。新人ハンドラーにとっては“緊張の瞬間”が近づいています。

(森本さん)「マンゴーはさ、成田(東京税関)の最終評価をした時、めっちゃ元気なかった」
(上野さん)「人の感情を読み取ってるんかなって思う」
(森本さん)「私多分めっちゃ緊張するから、いつも通りじゃなくなりそうな気がする。緊張する?」
(上野さん)「めっちゃ緊張する」
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ハンドラーの気持ちを知ってか知らずか、ウラニとマンゴーは元気いっぱい。お風呂でさっぱりとして最終テストに備えます。

迎えた最終テスト…旅行客や箱の中から麻薬を見つけ出す

そして迎えた2月4日、最終テスト当日。

(ウラニ号のハンドラー 上野桃香さん)
「すごく緊張しているんですけど、ウラニは全然余裕そうなので一緒に頑張りたいと思います」
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まずは、ウラニと上野さんが空港内でのテストに挑みます。客の中に1人だけ薬物を持ち込もうとする人がいる想定で行われ、到着ロビーで荷物を待つ旅行客を1人ずつチェックしていきます。一度、間違えてしまいますが、その後すぐに麻薬を持っている人を嗅ぎ分けました。
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今度は、国際貨物を想定し、複数の箱の中から麻薬を見つけ出すテストです。こちらのテストは、ウラニは一発で嗅ぎ分けました。
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そしてマンゴーもすぐに麻薬を見つけることができました。

2頭とも現場へ…別々のチームに配属

最終テストの結果は…。

(大阪税関麻薬探知犬管理室 池野優司室長)
「本日の見極めは、マンゴー号・ウラニ号ともに合格です」

100点満点とはいきませんでしたが、2頭とも現場に出ることが決まりました。約半年間一緒に訓練をしてきた2人は、別々のチームに配属されます。
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(ウラニ号のハンドラー 上野桃香さん)
「お互いの担当犬も自分の担当犬みたいに思ってお互いの訓練を見てきたので、一緒に合格できてすごくお互い喜び合っています」
(マンゴー号のハンドラー 森本真央さん)
「来週から別々のユニットで検査に行くのがちょっと寂しいなと思います」
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違法薬物の摘発に欠かすことができない麻薬探知犬。厳しい訓練を重ね、確かな技術と阿吽の呼吸で今日も捜査にあたっています。