2月21日時点で大阪府で自宅療養をする人は約7万人います。そんな患者たちを夜間も支えているのがファストドクターの「夜間往診」です。ファストドクターは、保健所からの往診の依頼を受けて、コールセンターを経由して、その時間に勤務している医師に連絡がいく仕組み。そして医師はファストドクターの車で患者の元に向かいます。かつてない広がりを見せる「第6波」の中、患者の自宅を回る医師を取材しました。

真冬の夜も患者支えるファストドクター

2月15日午後7時、ファストドクターの夜間の往診が始まりました。
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普段は大阪府内の総合病院で救命救急医として働く畠山淳司医師。今年1月からファストドクターで夜間の往診を担当しています。

(ファストドクター 畠山淳司医師)
「実はまだ4回目なんですよ。(Qファストドクターに登録したきっかけは?)きっかけは、うちの病院って重症患者しか見ていないんですよ。実際、どういう患者さんがどのくらいいるのか、その現場が分からないのでやってみようかなと」

この日、1件目の依頼。患者の情報は保健所などから、ファストドクターのコールセンターを経て、医師のスマートフォンに届きます。
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(ファストドクター 畠山淳司医師)
「67歳女性でコロナ陽性患者さんですけれども、胸の痛み、胸痛です。胸痛で痛み止めを飲んでも苦しくて何もできない」

畠山医師がこれから診療する患者は67歳のコロナ自宅療養者です。感染確認から10日が経過し、発熱などの症状は治まっているものの、その後も原因不明の痛みが続き、療養解除は延期に。痛みがコロナによるものなのか不安を感じ、往診を依頼しました。
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車で現場に到着して往診へ。そして約30分後、患者の往診を終えて戻って来た畠山医師は、診療のたびに防護服を着替えます。そして全身にアルコールを吹きかけて感染対策を行っていますが、この日の最低気温は1.9℃。

(ファストドクター 畠山淳司医師)
「寒いんですよこれ。アルコールかかって…」
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患者の症状はどうだったのでしょうか。

(ファストドクター 畠山淳司医師)
「幸いなことに、おそらく心臓の病気とか大きな血管の病気による症状ではないのかなというところで。ご高齢なので圧迫骨折とか、コロナでどうしても寝込んでいる時期があれば、ちょっと無理な体勢で寝ていてというのがあるので、そういうところからの腰痛悪化、そういったことも考えられる」

発熱に肺炎…それでも入院先が見つからず自宅療養を強いられる現状

畠山医師は休む間もなく次の患者のもとへ向かいました。2件目はコロナで自宅療養中の90歳の女性患者です。患者の症状に合わせた薬を持って行きます。
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同じく陽性となった娘が、90歳女性の自宅療養を支えていました。
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(患者の娘)「今ね、先生がもしもししてくれるから」
(畠山医師)「右側のね、呼吸の音がちょっと荒いんですよ。(酸素飽和度)94%ですね」

コロナの重症度を測る酸素飽和度の数値は、ほぼ問題ありません。女性は発症後、しばらく症状がなかったということですが、感染から1週間経ち、発熱しました。

(患者の娘)
「『肺炎でも起こしてるんじゃないか』って、ちょっとそこを疑って(大阪府の)自宅待機SOSに電話したんですけれども、『肺炎は急にはなりませんよ』という話だったので」
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その1週間後、病院に搬送された時にはすでに肺炎になっていました。しかし…

(患者の娘)
「『コロナ肺炎なので(入院は)だめです』と。尽力いただいて探したんですけれども、入院先や搬送先はなかったので」
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90歳のコロナ患者。現状の医療体制では高齢の患者は敬遠される傾向があり、この女性も自宅療養を続けることになりました。

(畠山医師)「今まで経過を見てぐったりしてきています?」
(患者の娘)「そうなんですよ」
(畠山医師)「普段歩けたんですよね、コロナの前は」
(患者の娘)「そうなんです。熱はそんなにないのに全く食べられなくなりまして。24時間ずっと14日間寝ていてぐったりしていたんですね」

日に日に弱る女性の様子に、家族の不安は募ります。
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(畠山医師)「分かる?ごめんなさいね、ベロ出してみて」
(患者の娘)「ベロ出して」
(畠山医師)「受け答えもまだね、全く反応がないわけじゃないんで。点滴1本するだけで多分だいぶ変わってくるかなと」

入院先が見つかるまで、少しでも体力が回復するよう、急遽、脱水症状を和らげる点滴を投与することになりました。ドライバーが車から部屋の前まで急いで届けます。
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その時、患者の娘に保健所から電話がありました。

(保健所と電話で話す患者の娘)
「こんなに遅くまでご尽力いただいてありがとうございます」

(患者の娘)
「入院可能になりました。明日の9時30分に救急車が来ることになりました」

それでも搬送は朝まで待たねばなりません。今晩は点滴でしのぎます。
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(畠山医師)「明日まではなんとか大丈夫かなと思いますので」
(患者の娘)「ありがとうございます」
(畠山医師)「お大事になさってくださいね。おやすみなさい」
  (患者)「ありがとうございます。すみません。ありがとう」

第6波の特徴は「増加するスピード」

去年5月の「第4波」では、ファストドクターでは入院が必要な自宅療養者に自宅で酸素を投与する状況が続いていました。

去年9月の「第5波」の時は、目立ったのはワクチンを接種していない人や若い世代の感染です。
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そして、今回の「第6波」はどのような特徴なのか。関西地区を担当するファストドクターの百枝嵩裕さんに話を聞きました。

(ファストドクター・関西エリアマネージャー 百枝嵩裕さん)
「増えてくるスピード感が全く違うというのと、僕たちのチームの中にも陽性とか濃厚接触者というのが発生した。医療のリソースが確保できなさそうになるということも何度も経験しています」
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患者に使用する酸素濃縮器の在庫もギリギリの状態が続いています。

(ファストドクター・関西エリアマネージャー 百枝嵩裕さん)
「今の状況が続けば、もって1週間ぐらいで全部はけてしまうので。1つの家庭で2台必要ということもありますので、いつまたひっ迫するかが心配だなと」
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様々なものが不足している「第6波」。

(ファストドクター 畠山淳司医師)
「ちょっと異常ですよね。高齢者の肺炎、本来は入院して加療、もしくは何かしらのサービスを充実させるべきところが、できていない」

夜間往診が終わり…再び本来の職場に戻る医師

この夜の3件目は、高齢者施設の中で療養を続ける80代のコロナ患者でした。
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日付をまたいだころ、この日の夜の往診が終わりました。車は畠山医師の働く病院へと向かいます。

(ファストドクター 畠山淳司医師)
「(Q今晩は病院の中に泊まる?)いいえ、ちょっと患者さんを見に行って、家に帰りますよ。ちょっと気になる患者がいるので。20代に比べれば体力はきついですけれども、できなくはないかな」
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畠山医師は再び本来の救急の場に戻りました。終わらないコロナの波。今夜もまた医師たちの闘いは続きます。