コロナ禍の影響なのでしょうか。若者層の自殺が増えています。警察庁の統計によると2020年の小中高生の自殺者は499人で、1980年以来過去最多となりました。子どもたちのSOSをどう把握すればいいのか。試行錯誤が続く学校現場を取材しました。

絵本を通じて“命の大切さ”を訴える

今年1月、兵庫県芦屋市の市立潮見中学校で行われた、心の健康のための教育『命の授業』。
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教壇に立つのは絵本作家・夢ら丘実果さんです。自ら手掛けた絵本を通して15年前から“命の大切さ”を訴えています。
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絵本のタイトルは「カーくんと森のなかまたち」。自分には何も長所がなく生きる価値がないと悩んでいた主人公のホシガラス。しかし仲間から自分の良さを教えてもらうことで元気を取り戻していきます。

(生徒たちに話す絵本作家・夢ら丘実果さん)
「みんなに良いところが必ずあるんですよ」

かつてうつ病を経験し、生きる気力を失っていた時期もある夢ら丘さん。娘の言葉で前に進むことができたといいます。

(生徒たちに話す絵本作家・夢ら丘実果さん)
「『お母さんがいるだけでうれしいんだよ』って言ってくれたんです。背中をさすってくれたりして。なんかね、すごくうれしかったんですよね。誰かに必要とされていると感じることは、本当に大きな生きる力になるんだなあって」

授業を受けた生徒たちは次のように話しました。

(授業を受けた生徒)
「私たち自身にも良いところは必ずあるんだなと、少し心が和らいだというか」
「僕もたまに落ち込むこととかあるんですけど、友達の相談に乗ってあげるとかして支えになれたらなと思いました」

その若者たちの中では今、長引くコロナ禍で将来への不安が増しています。

(絵本作家 夢ら丘実果さん)
「コロナのわずか1年の間に、子どもの自殺が31%も増加してしまっている異常事態になっておりますので。今やっぱり心の健康のための教育は待ったなしだと思うんです」

電話相談を行っているNPOでは若者からの相談が増加

生き辛さを抱える人々の電話相談を行っているNPO「国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター」では、実際に若者からの相談が増えています。
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(国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター 北條達人理事長)
「思春期の不安定な葛藤の中で、さらに社会全体が揺れてしまっている。(子どもたちも)安心していられないですよね」

心の健康のための教育が求められるが…

若者の自殺を防ぐため、文部科学省では各学校に心の健康のための教育の推進を求めています。しかし学校現場ではカリキュラムが多い上にマンパワーも足りず手が回っていないのが現状です。さらに授業の中で“死ぬこと”や“自殺”を取り上げることにより逆に自殺を引き起こすのではないかと心配する学校も少なくないといいます。

(文部科学省初等中等教育局・生徒指導室長 鈴木慰人さん)
「死というものに対して、取り扱った瞬間に、自殺に対する意識が高くなっちゃう子がいるので。そういった子に対しての後々の対応も考えて、教育をするというところが大切」

独自の取り組みを行う学校も

一方、夢ら丘さんの『命の授業』を受けている東京都町田市の市立金井中学校では独自の取り組みも始まっています。
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この学校では5年前から、怒りの感情をコントロールするトレーニング『アンガーマネジメント』を取り入れています。
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子ども同士のトラブルを回避して、より良い人間関係を築くのが狙いです。

(授業を受けた生徒)
「自分って結構イライラしちゃったりとかするんですけれど、アンガーマネジメントの授業を受けて、少しでもイライラが収まったりとか人のことを考えたりできるようになったので、この授業を体験できていいなと思いました」
「自分も昨日、妹と喧嘩してしまって、勉強している時にうるさくて『あっち行って』とかそういうこといっぱい言っちゃって、『勉強してるから静かにして』ってちゃんと理由も踏まえて言えばよかったなって」
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(町田市立金井中学校 仙北屋正樹校長)
「子どもたちがそれぞれ人は考え方が違うんだっていうことが理解できるようになりました。話し合いの中で、冷静に相手の話を聞きながら、自分の考えを伝えることができるようになってきています」

子どもたちが自ら命を断つという悲劇はどうすれば防げるのか?学校現場では試行錯誤が続いています。

(絵本作家 夢ら丘実果さん)
「周りにいる人たちが、SOSを出せないで苦しんでいる人に早く気づいて優しく声をかけて話を聞いてあげるっていうことが、悩みを抱えている人たちが元気になるお薬になるんだっていうことを皆さんが知っていただければ、そういった声かけも進められるようになって救われる命がたくさん生まれるんじゃないかなと思います」


【もし悩んだ時は…】
▼相談ダイヤル:認定NPO法人国際ビフレンダーズ 大阪自殺防止センター
06-6260-4343
(金曜日午後1時~日曜日午後10時まで)

▼厚生労働省HP
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