新型コロナウイルス第6波で拡大するオミクロン株は、症状がない患者も多いとされます。そのため、病院に救急搬送される患者に、例えばコロナと関係なくても発熱などがあると、「コロナ疑い」として受け入れられないという病院が第5波に比べると増えています。京都府の病床使用率は2月9日時点で62%で、この数字だけを見るとまだ余裕があるように見えるかもしれませんが、コロナ疑いの患者も積極的に受け入れている京都府の基幹病院を取材すると、厳しい現実がわかってきました。

「救急医療の医療崩壊も起きている」

2月7日、京都府宇治市の「宇治徳洲会病院」の救命救急センターは錯綜していました。運ばれてくるのはコロナに感染した患者や発熱などのコロナ疑いの患者。さらに急病の一般患者などもいます。
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(救急総合診療科 三木健児副部長)
「こちらのコロナ疑いの患者さんは京都府で20件以上救急車で断られた。23件目で当院に搬送となりました。何を意味しているかというと、救急医療もかなりひっ迫し、救急医療の医療崩壊も起きている」
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第6波で感染者が爆発的に増える中、救急医療の現場は患者で溢れていました。

(救急総合診療科 三木健児副部長)
「搬入時間を見てみると、24時間で45件ですね」

患者の搬送件数は例年の1.5倍。しかし、その多くは、コロナ患者ではなく通常の救急患者だといいます。なぜこの病院に患者の搬送が集中するのでしょうか。

(救急総合診療科 三木健児副部長)
「コロナ感染の可能性があれば、その時点で診療を断られるというようなケースが非常に増えている。コロナ診療をしているような医療機関というのは救急医療もしています。かなり負担が大きくかかっていってしまっているのが現状です」

1月中旬から満床状態が続く「転院してもすぐに新しい患者が入る」

患者の情報はホワイトボードで共有されます。コロナ疑いの患者は「イエロー」で記されますが、その後陽性となって「レッド」に変わることが増えています。「イエロー」の患者も個室などで隔離されるため、救急の処置室はおのずと埋まっていきます。さらに、コロナの疑いが晴れても、一般病棟に入院する患者もいるため、この病院の病床は一般病棟もひっ迫しているのです。
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(北川きよみ副看護部長)
「第6波は人数の多さにもう本当に疲弊している。入院してきて、転院でとっていただく。でもとっていただいた分またすぐ新しい患者さんが入ってくるという。本当にパズルです」
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今年1月中旬から病床は満床状態。1人でも多くの患者を受け入れるために病床を確保しようとしていますが、入院患者同士が濃厚接触となることもあり、新たな患者の入院なども簡単にはいきません。

(北川きよみ副看護部長)
「今、院内からポロポロと陽性の患者さんが出てきている加減があって、病室から患者さんがもう動かせなくなってしまったんです。どなたかが陽性かもしれないので」

患者の移動にも人手が足りず…多忙を極める医療従事者たち

この日、救急に搬送された患者が一般病棟に入院することになりました。

(病床の調整をする看護師長)
「(入院する)部屋はあるけど、迎えに行くマンパワーがないという感じですか?もうちょっとだけ待ってほしい?だいたい何時くらい?午後1時くらい…わかりました。ER(救命)と確認します」

(北川副看護部長)「患者さんを(病室に)あげにいこうか、私たちで」
   (看護師長)「ちょっと待ってくれと言われました。(入院する)部屋はあるそうです。『連れて行ったらいいですか?』でよかったですか?」
(北川副看護部長)「そう『連れて行ったらいいですか?』にしよう」
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普段は救急の看護師らが患者を連れて行きますが人手が足りません。北川副看護部長らは対象の患者の方へ向かいました。

(北川副看護部長)「私らが(病棟に)あげようと思って」
 (救急の看護師)「マジっすか?すぐあげてほしいです」
(北川副看護部長)「(患者の)情報がほしい」

患者は無事に一般病棟へ移動し、これで救急の処置室にも空きができました。
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多忙を極める医療従事者たち。救急の看護チームをまとめていた看護師に話を聞きました。

(看護師)
「(Q休憩は?)きょうは1回も行っていないです。水分もとっていないので喉がパサパサです。(Q疲れはたまっていない?)ゲッソリです。さすがにそこは強がれないです。今、『大丈夫です』と言おうと思ったんですけど。きょうは本来午後5時まで仕事ですけど、たぶん帰れないので午後9時コースかなと思っています」

発熱外来や一般の診療も実施 子どもも多く

宇治徳洲会病院では救急医療だけではなく発熱外来や一般の診療も行われています。敷地内では車の中の患者に対して診療する様子が見られました。第6波では家族全員が感染することも多く、子どもたちの姿も多く見受けられます。

(救急総合診療科 三木健児副部長)
「感染防護対策をしっかりすれば、コロナをみている医者だけが診療にあたる必要性はなくなりますので、今ひっ迫している救急診療にももう少し余裕が出てきて、本来の救急疾患である心筋梗塞とか脳卒中の患者さんの受け入れがもっとスムーズにできるんじゃないかなと」

去年4月には「ECMO」装着の患者たちの姿 そのレッドゾーンは今…

では、コロナ治療の最前線はどうなっているのか。感染者が治療を受ける「レッドゾーン」にカメラが入りました。この時、人工呼吸器を使用していた患者は2人でした。

(医師)
「(人工呼吸器を)挿管されてきょうが5日目の方です。比較的酸素の値はよくなってきたので、おそらく明日に口の管を抜けるかな」
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取材班は去年4月にも同じ院内のレッドゾーンを取材していました。当時使われていたのは人工肺「ECMO(エクモ)」です。極めて重篤な患者への治療が行われていました。今はどういった状況なのでしょうか。
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(医師)
「人工呼吸器まではいくけれども、ECMOまではいかない。重症化に関しては減っているのかな」

高齢の患者が増えたレッドゾーン…看護師らが介助に

重篤な患者が減る一方で、増えていたのは高齢の患者です。意識がある患者や高齢患者が増えたことで、レッドゾーンの看護師らが介助にあたることが増えたといいます。

(患者に対応する看護師)
「ちょっと足を伸ばせるかな?痛い?…ちょっと足伸ばしてみて」

(レッドゾーンで働く看護師)
「昨日おとといぐらいから、えん下のリハビリが始まったばかりの方で、痰を先に出してもらってから、スプーンで食事介助としてゼリーを3口くらいいけた」
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高齢ゆえに基礎疾患があり、この数週間、亡くなる患者も増えています。「救急医療」と「コロナ患者」。その両方に対応することは第6波では過酷を極めています。
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(レッドゾーンで働く看護師)
「誰も助けてくれないなということは私もひしひし感じていて、もう誰か…という感じです、毎日。みんな時々たわいもない話をしながら少し息抜きして、また頑張ろうかと毎日やっていますけど」
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コロナ疑いの高齢者の搬送が相次ぐ現状。医療体制を維持するために松岡副院長は危機感を募らせています。

(松岡俊三副院長)
「コロナだから、心配だから入院させてほしいとか、そういう要望があります。もはやそれは医療というよりも介護の問題。流行状況によっては不自由を被ることもあり得ます。そこにどれだけ納得できるかというのが、これからあるべきことなんじゃないかなと思います。その納得もないままに、介護の問題であるとか医療提供体制の問題までこういう医療の現場にのしかかってくると、我々はおそらくポキッと折れると思います」