今、日本人女性の9人に1人が罹患すると言われている「乳がん」。そのうち35歳以下で病気がわかる若年性の乳がんは2.7%だということです。20代・30代でがんを経験すると、仕事や結婚出産などで大きな影響が出ると言われています。25歳の時に乳がんがわかり病気を公表したアイドルグループ『SKE48』の元メンバー・矢方美紀さん(29)が、取材班に自身の闘病の日々ついて話をしてくれました。

きっかけは小林真央さんのニュース…左胸のしこりに気付く

今年9月、東京都墨田区の「東京スカイツリー」で開かれた小児がん啓発イベント「世界小児がん啓発キャンペーン」。開業して9年を迎えたスカイツリーが、初めて金色をイメージしてライトアップされました。乳がんが「ピンクリボン」で知られるように、実は小児がんを表す色が金色で「ゴールドリボン」と呼ばれています。
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小児がん啓発イベントのゲストにこの日呼ばれたのは、矢方美紀さん(29)。

(元SKE 矢方美紀さん 今年9月)
「遠くから見てなんで今(スカイツリーが)金色なんだろうと思う方もいるかなと思うので、小児がんについてみなさんで考えるという1日と、いろんな人が見ている時間に感じてほしいと思います」
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矢方さんといえば、AKBグループの1つ、『SKE48』のメンバーとして名古屋市を中心に活動していた元アイドルです。5年間アイドルとして駆け抜けて2017年に卒業。身体の異変に気付いたのは1年後のことでした。

(元SKE 矢方美紀さん 今年10月)
「きっかけは小林麻央さんのニュースを見たのがすごく大きかったですね。その時に初めて若年性の乳がんを知って、(乳房の)セルフチェックを初めてして、自分で左の胸にしこりがあるのを見つけた」

最初は「ステージ1」と宣告も最終的には「ステージ3A」と診断

矢方さんは迷った末、病院を受診。1人で検査結果を聞きに行き「乳がん」と診断されました。意外に冷静だったそうです。

(元SKE48 矢方美紀さん)
「『ステージ1』なので初期だなと思っていて。初期の段階で見つかったから『治るだろう』と、気持ちとしては前向きになっていたので、それも焦らなかった理由なのかもしれないですね」
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ところが、手術前の検査を受けていくとリンパ節に転移が見つかりステージ2に。手術では左の乳房を全摘し、病理検査の結果、最終的に「ステージは3A」と診断されました。
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(元SKE48 矢方美紀さん)
「正直、(ステージの)数字がどんどん上がっていくのを見たときに、『死ぬのかな』と思ったのはもちろんあるんですけど、自分の身体に今後どういう変化が起きていくんだろうという不安がすごく出てきました」

手術・抗がん剤・放射線治療を受けて、髪の毛が抜けた時期はウィッグを付けて過ごしました。今も再発を抑えるためのホルモン剤を服用しています。

医師「どのステージでも治療をしっかり受けてほしい」

若年性(35歳以下)の患者は乳がん患者全体の2.7%。国が推奨する乳がん検診は対象が40歳以上で、2年に1回のマンモグラフィ検査となっており、若い世代では進行した状態で見つかる場合もあります。矢方さんのように最初の診断からステージが上がっていく患者は時々見られるそうで、「大阪国際がんセンター」乳腺内分泌外科の医師・中山貴寛主任部長は、どのステージでも治療をしっかり受けてほしいと話します。
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(大阪国際がんセンター 乳腺内分泌外科 中山貴寛主任部長)
「正しい術前診断をしてあげる必要はあるんですけれども、若い人の乳房は乳腺の濃度が濃いです。だからマンモグラフィでも見つかりにくく、腫瘍径が正しく測れない。実際(手術で)取ってみたら細かいリンパ節転移がたくさんあったという例もあるので、そうなると(がんの進行度を示す)ステージも上がってしまう」
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(大阪国際がんセンター 乳腺内分泌外科 中山貴寛主任部長)
「若い方で(矢方さんのように)ステージが高くなってしまって、リンパ節転移がたくさんあってステージが高いと。抗がん剤治療しなくていいと思っていたのに、必要になったという方もいらっしゃるので、ショックは大きいでしょうね。(若い人の場合)体力もしっかりあるし合併症も少ないので、若い方は最大限の治療をしっかり受けてほしい」

「絶対な人生ってない」乳房再建や卵子凍結はしないことを選択

矢方さんはアイドルを卒業後、アパレルショップで働いたり事務の仕事をしたりしながら長年の夢だった声優になるための勉強を続けていました。
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切除した乳房の再建手術も考えましたが、受けませんでした。また、抗がん剤の影響で将来妊娠が難しくなる可能性に備えて、治療の前に「卵子凍結」を推進する動きも当時、活発でしたが選択しませんでした。乳房再建も卵子凍結も事前の準備が必要で、治療の前に費やす時間が気がかりだったといいます。
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(元SKE48 矢方美紀さん)
「まだ手術もしていない、治療もしていない段階で(乳房再建や卵子凍結に)どうしようって悩んだり後悔するんじゃないかって思うのだったら、まずはやらない方に私は決めようかなと思いました。最初はすごく『なんで卵子凍結しなかったんですか?』って聞かれてしまったり、『子どもを産むことに関してどう思っているんですか』って言われたこともたくさんあったんですけど、正直それが絶対な人生ってないと思っている」
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治療で頭がいっぱいで将来のことを考えたくなかったと当時を振り返ります。
失った左胸を見ると「あの時、頑張った証し」と今は思うそうです。

同じ病気と向き合い語り合う「仲間」も

今年10月、取材した日に矢方さんが会ったのは、名古屋で患者会を主宰している乳がんサバイバーの加藤那津さん(43)。加藤さんは治療を始めて12年。5年前に「ステージ4」と診断されました。共にシングルで治療中、病気と生きる仲間として思いを語り合います。
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(元SKE48 矢方美紀さん)
「30歳に来年なるってなった時に、自分このままでいいのかなっていう、がんとは違う、普通に生まれてきて誰もが悩むであろう悩みが出てきた」
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(加藤那津さん)
「(がん患者)みんなが治るわけではないから、治らないとか、病気と今後も付き合っていかないといけない人たちもいる。特にAYA世代(15~39歳でがんを発症)とか仲間を見つけづらい人もいるし、そういう人たちをもうちょっと(社会全体で)支えていってほしい」

自分で下した決断に悩む時もありますが、病と向き合う人生を互いに誇りに思っています。

「何かの役に立つなら隠さずに伝えていきたい」

矢方さんは1年あまり、毎週日曜日の朝、「ZIP FM」のラジオ番組『RADIO ORBIT』のDJを続けています。がん患者と知らないリスナーも増えました。自分の経験を語ることが何かの役に立つのであれば、全てを隠さずに伝えていきたいと矢方さんは考えています。
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MBSでは12月11日(土)に第7回キャンサーフォーラムオンラインを開催します。矢方美紀さんに加え、大腸がんサバイバーで阪神タイガースの原口文仁選手(29)も登壇します。

公式YouTubeチャンネルでライブ配信しますので是非ご覧ください。
https://www.mbs.jp/joc/forum2021/