絶滅危惧種に指定されているメダカの天敵とされているのは『外来種の小魚』です。また、とあるため池では『地球上最悪の侵略的植物』と呼ばれる外来種の植物が池を隠してしまうほど表面を覆っています。いつの間にか近くに忍び寄る外来種の脅威を取材しました。

蚊を絶やすために持ち込まれた『カダヤシ』

奈良市内にある世界遺産・興福寺を望む「猿沢池」。市民や観光客が訪れる憩いの場になっています。今年5月、猿沢池で近畿大学の研究チームが何かを探していました。
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(近畿大学 北川忠生准教授)
「あ、いますね。たくさんいますね。今、棒が指しているあのあたりに、表面に群れている」

表面を泳いでいたのは小さな魚たち。
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勢いよく網をかぶせて研究チームが捕獲したのは『カダヤシ』と呼ばれる魚でした。

(近畿大学 北川忠生准教授)
「カダヤシです。特定外来生物。カダヤシを取り除かないと、たぶんミナミメダカはいなくなってしまうと思います。カダヤシの方が攻撃的なのでメダカを攻撃してしまいますね」
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全長4cmほどの魚・カダヤシ。猿沢池には元々在来種のミナミメダカが生息していましたが、いつからか外来種のカダヤシも生息するようになったといいます。
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オスのカダヤシとミナミメダカを見比べると、ヒレに違いはあるものの、見分けはほとんどつきません。カダヤシという名は「蚊を絶やす」が由来で、病気を媒介する蚊を撲滅させるため、100年以上前に人為的に持ち込まれたとされています。カダヤシは卵を産んで繁殖するのではなく、稚魚になるまで体内で育てるため、繁殖率が高いことで知られています。攻撃性も高くミナミメダカの住処を奪ってしまうのです。
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(近畿大学 北川忠生准教授)
「(カダヤシに攻撃されたミナミメダカは)尾びれが傷んでいる感じですね。よくカダヤシと一緒にいるといじめられてヒレがボロボロになると言われているんです」

近畿大学が駆除に乗り出す

日本全国でカダヤシの勢力が拡大したことにより、ミナミメダカは『絶滅危惧種』に指定されました。一方のカダヤシは、生態系などに被害を及ぼすおそれのある『特定外来生物』に指定され、近畿大学が駆除に乗り出したのです。
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(近畿大学 北川忠生准教授)
「ちなみにこれ道路に出た瞬間に違法行為になります。我々は許可を持っているからいいんですけれど、許可なしにカダヤシを道路に出したら、その時点で3年以下の懲役または300万円以下の罰金。それだけ脅威ということですね」
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特定外来生物は、別の場所に持ち込まれないように、捕獲には国の許可が必要です。この日の研究チームは慎重にカダヤシを容器に移して研究室に持ち帰りました。今後、研究室ではカダヤシの行動パターンなどを調べ、有効な駆除方法が検討されます。

地球上最悪の侵略的植物『ナガエツルノゲイトウ』

外来種による脅威。ほかの地域でも頭を抱えていました。今年6月、取材班が訪れたのは淡路島の田園地帯。ここに外来種の植物が生息しているといいます。

(農家 岡本賢三さん)
「もう全面。全面がナガエツルノゲイトウです。(Qただの植物じゃないんですか?)じゃないんですね。特定外来生物で『地球上最悪の侵略的植物』だと」
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南米産の水草である特定外来生物「ナガエツルノゲイトウ」。異常な繁殖力から『地球上最悪の侵略的植物』とも呼ばれています。
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一見、草むらに見える場所ですが、この場所は池だといいます。

(農家 岡本賢三さん)
「今は水面が見えないんですけれども、本来ならば全面に水面が写っている。(Qいまはどうですか?)これもう池じゃないですよね。なんなんですかこれ。もう陸地に草が生えている状況に見えますよね」
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国の許可を得て撮影したナガエツルノゲイトウの映像を早送りで再生すると、茎の節から新たな茎や根がどんどん伸びていきます。茎はわずか2週間で8cmも伸びました。驚くべきことに、たった2mmの茎からも再生されるため、草刈りをするだけでは撲滅できないのです。

水草なのに…池から離れた畑でも繁殖

かつてこの池ではうなぎやシジミなども獲れ、集落の人たちから愛されていたといいます。
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(住民 80代)
「女性たちは池で洗濯したりなんかしてましたよ。僕らが小さい時は泳いでいたよ。岸から岸まで競争したんだよみんなで。なんでこんなことになってしまったのかね」
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8年前の写真では侵略はまだ始まっていないことがわかります。
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淡路島は雨が少なく、農家にとってため池は欠かせない存在ですが、田んぼへの侵略を恐れ、水は使えないといいます。

(農家 岡本賢三さん)
「田んぼに入って増えると、また爆発的に飛び火していく可能性がある」

理由は不明ですが淡路島でナガエツルノゲイトウが確認されているのはここだけです。特定外来生物であり許可なく持ち出すことはできません。
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拡大を防ぐため岡本さんたちはネットを張るなどして対策を講じてきました。しかし、水草にもかかわらず、隣の斜面へと侵略を始めていました。

(農家 岡本賢三さん)
「(池から)飛び出たナガエツルノゲイトウがちょっと繁殖してしまったエリアです。(Qここは池じゃないですよね?)池じゃないんですね。『地球上最悪の植物』と言われるゆえんがそれだと思います」
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さらに、ナガエツルノゲイトウの侵略は、池から40mほど離れた場所にある畑でもすでに始まっているといいます。この場所は田んぼまでわずか1m。危惧していた田んぼへの侵略が迫っていました。

(農家 岡本賢三さん)
「ついに来るところまで来ちゃった。今までの対策が一挙にパーですよね。もう今、どうしようもない」

見えてきた「撲滅」の糸口

10月27日、取材班は4か月ぶりに岡本さんのもとを訪ねました。

(農家 岡本賢三さん)
「(Q6月から変わっていないように見えるが勢力は?)全く変わっていないですね。むしろ今の時点ではまだ増えている感じですね」

『地球上最悪の植物』に打つ手なし、ということなのでしょうか。
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(農家 岡本賢三さん)
「(Q対策面で進んだ点は?)そうですね、以前お見えになった時はたぶん透明のシートが張ってあったと思うんですよね。(Q黒くなっていますね?)そうですそうです」
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実は岡本さん、兵庫県からの補助金を活用し、撲滅に向けて動き出していました。遮光率99%のシートで光合成を防いで枯れさせる作戦です。
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(農家 岡本賢三さん)
「茶色くなっているというか、もうたぶん枯れて無くなっているんだと思います。やっぱり光がないのが1番良いんでしょうね」

侵略の発覚から約2年。ついに撲滅の糸口が見えました。
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(農家 岡本賢三さん)
「池全体に同じように黒いシートを張ってしまって、一挙に池のナガエツルノゲイトウを撲滅させたいですね」

外来生物の多くは人為的に持ち込まれたとみられていて、生態系だけでなく人々の暮らしをも脅かしています。