近年、瀬戸内海で海の生き物「ナルトビエイ」による『食害』で漁業関係者らが悩まされています。これまでエイを捕獲するなどして対策を行っていましたが、捕獲するだけではなく貴重な“海の資源”として、新たな活用方法もみいだされています。「ナルトビエイ」の食害の現状と捕獲したエイの新たな活用方法の取り組みを取材しました。

潮干狩りのアサリを食べつくす「ナルトビエイ」

今年6月、瀬戸内海に面する兵庫県たつの市の新舞子では、家族連れで潮干狩りを楽しむ様子がみられました。お目当ては大きなアサリ。しかし、近年このあたりの海岸では困ったことが起きていました。
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それは「ナルトビエイ」という二枚貝を好むエイによる、アサリの食害です。
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2010年に「須磨海浜水族園(神戸・須磨区)」で撮影された映像には、ナルトビエイがアサリを探して食べる様子が捉えられていました。ナルトビエイは本来、熱帯などの海域に生息していますが、温暖化の影響で次第に北上し、瀬戸内海でも大繁殖していると考えられているのです。
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(アサリを放流している田淵亜寿佐さん)
「だいたい10年くらい前からなんですけれども、海が満ちてきたら、ヒレだけが海面から浮いていまして…。本当に水際まで、すごく浅いところまで、エイが団体で入ってきていまして、放流しているアサリを食べ始めるという被害に遭っております」
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さきほどの潮干狩り場では、エイに食べられたとみられるアサリの殻などの残骸が散らばっていました。
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(アサリを放流している田淵亜寿佐さん)
「エイの歯の威力がすごく強いので、アサリをかみ砕いて 全部食べる場合もありますけれども、破片になって、小さな子どもたちがはだしで歩きまわると危ないので、見つけたら組合員で集めています」

体当たりしてカキを食べる「エイ」養殖業者を悩ませる

被害に遭っているのは潮干狩り場だけでありません。たつの市の室津漁港でカキの養殖業を営む磯部公一さんは、ナルトビエイの被害に頭を悩ませているといいます。実際にカキを育てている「いかだ」を見せてもらいました。
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(公栄水産 磯部公一代表)
「袋で囲っていないから、カキに直接エイが当たって食べてしまうんよ」

なんと、吊り下げられたカキに体当たりをして、海底に落としてから食べているというのです。ナルトビエイはアサリだけでなく、カキも大好物なのです。エイによるカキの食害が出てきたのは、ここ5~6年の話だといいます。
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(公栄水産 磯部公一代表)
「昔からいたけど、こんなにはいなかったな。(Qナルトビエイの数が増えた?)増えているな。すごく被害を受けているいかだもあるし(一度)やられたらそこに集中的にエイが来るみたいで」

捕獲して食害対策…捕った後は商品化へ

長い月日をかけて育てたカキの食害は漁業者にとっては死活問題です。磯部さんたちは、ある取り組みを始めました。

砂浜近くに網を張って、ナルトビエイを捕獲します。大きいものは重さ40kgを超えるといいます。毒針のある尾を断ち切ります。そして鮮度を保ち、臭みを抜くため、海中で「血抜き」をします。その目的は…。
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(公栄水産 磯部公一代表)
「商品化して値打ちがあるとなったら、みんなは駆除目的じゃなくて商売目的で(捕獲しに)行くと思う。そしたら、だんだん数が減っていくかななと。商品化をするのに、試行錯誤をしようかなと」

磯部さんらは地元の商工会や事業者と協力し、ナルトビエイを有効活用するプロジェクトを始めたのです。

丈夫な「皮」が『財布』や『かばん』に

目をつけたのは、丈夫な皮。実は「皮革素材作り」は古くから、たつの市の地場産業でした。磯部さんらは、地元の製革所にエイの皮を託すことにしました。引き受けたのは浦上製革所の職人・浦元敏光さんです。これまで誰も扱ったことのないナルトビエイの皮でしたが…。
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(浦上製革所 浦元敏光さん)
「『やってくれへんか』と言われたら、ちょっとやりたいですよね。そういう機会があれば。今この業界あまりよくないのでね。勉強のためにというのもありますよね」

ただ、エイの皮は熱に弱いといわれていて、皮を柔らかくする『なめし作業』をしようとすると、当初は破れてしまうことも多かったといいます。
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試行錯誤した結果、なめす直前まで冷凍保存することで、皮の品質を保てることがわかりました。なめす前なめした後を比べると、味わいのある風合いが出ています。

(浦上製革所 浦元敏光さん)
「生命力のある魚やね。皮も強いと思うなあ。あれだけ飛んで潜るくらいの生き物やから。その命を守る皮やからね。その良さを生かしたいな」
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その後、地元の革製品加工業者『レリップ』がナルトビエイの革を裁断し、縫製していきます。こうして、ナルトビエイの皮は財布やかばんなどに姿を変えました。
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製品を扱う地元の販売店も、その完成度を見て驚いたといいます。
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(かばん店『ア・プレスト』 嶋津早苗店長)
「水族館にいるエイしか想像がつかなかったものですから。仕上がってきますと、ザラザラとしたような、キレイ系というよりは少しワイルド系の男性好みの個性的な革に仕上がっているなと思いますね」

エイを「缶詰」に 全国大会に向け試行錯誤する高校生たち

利用できるのは皮だけではありません。同じくナルトビエイに目をつけたのは、兵庫・香美町にある兵庫県立香住高校でした。10月に地魚を使ったオリジナル缶詰で競う全国大会『LOCAL FISH CAN グランプリ』が開催されます。出場する香住高校海洋科学科の生徒たちは、エイを「駆除するだけでなく、食用としても利用できるのではないか」と考えたのです。
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大会に出場する香住高校2年の北村空大くんは、取材をした9月14日、初めてエイを調理して試作をしました。丁寧にエイを捌き、塩もみをして臭みを取ります。そして、フライパンで焼き目を付けていきます。
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調理したエイは、独特の臭みもなく、白身魚として美味しく仕上がっていました。
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(香住高校・2年 北村空大くん)
「焼けたにおいは魚っちゃ魚ですけど、焼いた感じが結構肉っぽい。魚だったら(焼くと)崩れるけど、あまり崩れないし、弾力があります。下処理がたぶんよかったですね。漁師さんにやってもらったので。下処理の段階で、血とか結構抜けていたので、それのおかげで臭くないと思います」
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その後も「焼肉味」や「酢豚風」などさまざまな味付けでも調理し、缶に詰めて後日、仕上がりを試すことにしました。ナルトビエイで大会優勝を目指します。

捕獲するからには、無駄なく活用をする。地元の努力で、エイの可能性は今後も広がりそうです。