コロナ禍の料理人、淡路島で新たな挑戦。コロナの影響で苦境に立たされている飲食業界ですが、仕事が減った料理人を応援する取り組みが兵庫県の淡路島で始まりました。自分の店を持つために家族を東京に残して、淡路島に単身やって来た一人の料理人を取材しました。

今年4月開業 淡路シェフガーデン

大阪湾を望む淡路島の北東に今年4月にオープンした「淡路シェフガーデン」。
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淡路牛や淡路島の玉ねぎを使ったハンバーガーや、淡路島近海で獲れた海鮮がたっぷり乗った海鮮チラシなど、地元の食材を活かすなどした27の飲食店が並ぶ最新のグルメスポットです。
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この淡路シェフガーデンは総合人材サービスの「パソナグループ」が企画。ここでは、建物や冷蔵庫などの初期費用を全てパソナが負担。出店者は月9万9000円の家賃で新店舗がオープンできます。出店は原則2年までですが、コロナ禍で苦境に立つ飲食店や料理人を応援するためにできました。

中国菜なべ屋 渡辺大輔さん

オープン当時からここで中華料理店「中国菜なべ屋」を営む渡辺大輔さん(36)。1人で店を切り盛りしています。

(渡辺大輔さん)
「いい感じですね。いい時もあれば悪い時もあって。楽しくはやっています」

“自分の店を持つ”という夢が叶った渡辺さん。ここに至るまで様々な苦労がありました。

東京の家族と離れて単身で淡路島に

約4か月前の今年4月11日。渡辺さんは家族のいる東京から淡路島に単身で引っ越してきました。この日、渡辺さんを訪ねると、部屋には家具がほとんどありません。

(渡辺大輔さん)
「家具は買う気がないのでこれで過ごそうかなと。すごく質素ですね」

東京の有名中華料理店で料理人として働いていましたが、新型コロナウイルスの影響で店の売り上げは半分ほどにまで落ち込みました。

(渡辺大輔さん)
「東京のほうは大変でしたね。こういう状況だからごめんと言われて、出勤日数を減らされて、給料も減らされて」

そんな中で今年2月に“淡路シェフガーデンで出店者を募集している”という話が耳に入りました。

(渡辺大輔さん)
「自分を知ってもらえると思いました。まずいうまいは置いておいて、まずは僕を知ってもらいたかったんですよ」
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元々独立を夢見ていた渡辺さん。幼い子ども2人と妻を東京の自宅に残して、淡路島に来ることを決めました。

(渡辺大輔さん)
「長女に玄関でわんわん泣かれちゃって。僕も出てくるのがつらくて。でも離れるのが、僕だけじゃなくて、娘も成長だと思って、離れて単身で来ました。奥さんにも本当に感謝しています」

農家から直接学ぶ淡路島食材

この時点でオープンまで3週間を切っていました。渡辺さんが淡路島に到着して早々に向かったのは地元の農家でした。独立したら食材を用意するのも全て自分の仕事。淡路島の食材を実際に手に取って味わってみる必要があります。
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(農家)「これニラなんです。中華料理ならニラたくさん使う?」
(渡辺さん)「そうですね、使います」
(農家)「生で食べたことあります?」
(渡辺さん)「ないです」
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農家の方に促されて生のニラを試食する渡辺さん。

(渡辺さん)「甘いですね。歯切れもいいですね」
(農家)「オムレツなんかにして食べるとすごくおいしい」

東京にいたころはあまりなかった農家の方と直接触れ合う機会。こうした経験ができるのも淡路島ならではだと渡辺さんは感じています。

(渡辺大輔さん)
「わくわく興奮が止まらない。農家のコダワリを感じて、僕もこだわらないといけないなと。そういうことを考えていると、わくわくしてくるというか、楽しいなって」

緊急事態宣言下でのスタートに

しかしオープン4日前の4月25日、兵庫県全域に緊急事態宣言が出され、飲食店に対して午後8時までの時短営業と酒類の提供禁止が要請されました。
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そんな中で迎えた4月29日、「淡路シェフガーデン」オープンの日はあいにくの雨。渡辺さんは夜の営業を断念してランチのみでスタートすることにしました。
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営業開始まであと2時間に迫った時…。

(渡辺大輔さん)
「これから買い物に行きたい。お客様用の荷物入れと傘立てが今日無いと…」

経費削減もあり他に従業員はいません。渡辺さん1人で買い出しに走ります。

そして午前11時、「淡路シェフガーデン」がオープンしました。

落ち着かない様子の渡辺さん。すると記念すべき1組目のお客さんがやってきました。
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この日は『香味蒸し鶏のランチプレート(税込み1650円)』の1種類で臨みます。新鮮な空気と水で育った地元の淡路どりを使い、八角・シナモン・ローリエなどの香辛料を組み合わせた本格的な中華料理で勝負です。
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食べたお客さんからは“美味しい”の声が。その後も続々と客が来店しました。
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(渡辺大輔さん)
「一安心と、来た来た来た!みたいな感じです。やばいやばい!すぐ出せないよ、ごめんね、みたいな感じですね」

(お客さん)
「めちゃくちゃおいしかったです。お肉もそうだし、ご飯にかけたタレもおいしかったです」
「すごくおいしかったです。淡路島に住んでいるんですけれど、こんな本格中華の味はなくて。台湾に旅行に行ったことがあるんですけれど、その時のことを思い出すくらいの味でした」

逆境での挑戦は続く

オープンから3か月が経った8月4日。淡路シェフガーデンは多くの観光客で連日賑わっていました。“独立”というチャンスをつかみ取った渡辺さん。店を軌道に乗せて、離れて暮らす家族を呼び寄せられるよう、きょうも1人、厨房に立ち続けています。
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(中国菜なべ屋 渡辺大輔さん)
「一言で言うなら、すごくありがたいし感謝しています。うちはわりとコアなファンが多いんですよ。リピート率が結構高くて。そこに支えられています。そこは財産だし、これからの自信にも繋がりますよね。僕が違うところで店をやっても、コアなファンがつくのかなという、ぼんやりとした土台は見えているのかなと。ここから50歳くらいまでは突っ走りたいなと思っています」