AYA世代のがん患者たちに無料で着付けをして撮影するイベントが大阪府東大阪市で行われました。「AYA世代」とは英語で思春期から若い成人までを意味する「Adolescent and Young Adult」の略語で、日本では15歳~30代半ばの世代を指す言葉です。がんは治療の過程で、時として脱毛をするなど外見の変化に戸惑うこともある病気ですが、華やかに着飾った患者たちは自分の写真をどう見たのでしょうか。

「やっぱり、カワイイっていいな」4度のがんを経験した女性

東大阪市の呉服店「丸十」で行われていたのは、若いがん患者のための振り袖撮影会です。可憐な振り袖姿で写真に写る女性は10代までで4度のがんを経験した「AYA世代」のがんサバイバーです。
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(4度のがんを経験した女性)
「5歳と8歳の時に横紋筋肉腫で、15歳の時に右肩に悪性新生物になって、最後は16歳で舌がんです。こういう機会があってうれしかったです。やっぱり、カワイイっていいなと思いました」

仕掛け人でカメラマンの西尾菜美さん。もともと、大阪のがん専門病院で広報として働いていた異色の経歴の持ち主です。

(西尾菜美さん)
「今年3月にAYA世代のがん患者さんの啓発イベントがあるということを聞いて、私が呉服店のスタジオでカメラをやっていたので、振り袖や袴を着てもらって笑顔の写真を撮ってプレゼントするのはどうですか、というお話をさせてもらったんです」

着付けやメイク、撮影も全て無料。持続的な活動にしていきたいと、費用はクラウドファンディングで集められました。

治療の過程で時として外見の変化が伴うがんという病気。若いAYA世代にとって、自分の変わっていく見た目に心がついてこないこともあるといいます。

「毛が抜けるのがすごく不安」乳がん経験者 SNSで経験を赤裸々に綴る

撮影会に参加していた澤田有希さん(39)。6年前、33歳の時に『乳がん』と診断されました。

(澤田有希さん)
「がんになって『おしまいやな』と思ってしまって、すごく落ち込んで、その当時お付き合いしていた方がいたんですけれども、その人に対しても『ごめんなさい』と思いました」

抗がん剤治療を受けなければなりませんでしたが、不安だったのは副作用の脱毛でした。
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(澤田有希さん)
「抗がん剤治療をした時に毛が抜けるのがすごく不安で、生えてくるかもめちゃくちゃ心配していて、だから抜けていく過程と生えていく過程を自分で撮っていました。お風呂に入ってきただけで抜けていって…」

“もう髪が生えてこないのではないか”、今まさにがんと直面しているAYA世代の患者たちに同じような不安を抱えてほしくないと、澤田さんが始めたのは変わっていく見た目をSNSで発信することでした。

髪の毛が生えてくるまでの経過やその間のウィッグ選びまで。自身の経験を赤裸々に綴ると、次第に反響も集まるようになったといいます。

(澤田有希さん)
「やっぱり同じぐらいの時期に治療をしている仲間がすごく増えたのと、未だに、もう5年も経っているんですけれども、新たにダイレクトメッセージで『私もこれから抗がん剤します』とか、『生えてくるんですね』とか言ってくれる人がおられますね」
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がんになってから撮り始めた自分の写真。記録することで気持ちの面でも前向きになれたと話します。

(澤田有希さん)
「二十歳の時に撮った写真より、この間に撮ってもらった写真の方がかわいく撮れたので、がんになってもいけるなと。まだまだ楽しめるなというふうに思えて、行ってよかったです」

「見た目を気にしていた」2歳半で右目にがんで義眼に

この撮影会に特別な思いを持って参加する女性もいました。多田詩織さん(25)です。

(多田詩織さん)
「本当にドキドキですね。どうなるんだろうって感じです」
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多田さんは2歳半の時、右目にがんが見つかりました。眼球を摘出せざるを得なかったため、物心ついたときにはすでに義眼をつけての生活でした。ずっと「見た目」が気になっていました。

(多田詩織さん)
「義眼っていう第一印象じゃないですか、見た目で。私も結構見た目を気にしていたので、どう思われているんだろうって」
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また治療の影響で、中学生の頃からは義眼をつけられず、青春時代の写真は全て眼帯姿。成人式の時も振り袖は着ましたが、眼帯を外すことはできず、治療が終わったのは24歳になった去年でした。

(多田詩織さん)
「治療がおわってきれいになったら、ちゃんとした写真を撮りたいなって。ずっと思っていたところに、そういう(撮影会の)情報があったので、探していたものというかぴったりだったので、これはぜひと思って」

“眼帯が外れたらきれいな写真を撮りたい”それが多田さんの夢でした。

眼帯のない自分の写真「夢叶いました」

そして7月6日。迎える西尾さんら撮影チームも気合十分です。

(西尾菜美さん)
「きょうは、みんなで彼女の夢を叶えてあげられるように努力して、笑顔で愛情を込めて撮影させていただければ」

いよいよ、念願の撮影会が始まります。

(多田詩織さん)
「みんなが盛り上げてくれるのでうれしいです。ただ恥ずかしいです、まだ」
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背景やセットを変えながら、写真を撮影していきます。この日撮った写真は115枚にのぼりました。

(多田詩織さん)
「すごいですね、思っていた以上の仕上がりでした」

改めて見る、眼帯のない自分の姿は?

(多田詩織さん)
「いつぶりでしょう…。眼帯のない写真をこんなにきれいに撮ったのは初めてです。夢叶いました」

 西尾さんらは、撮影会の2回目の開催に向けて、現在準備中だということです。2回目の開催費用については、1回目と同様にクラウドファンディングを活用し、10月ごろから募集を開始する予定です。

(7月29日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『コダワリ』より)