創立42年の奈良県立平城高校は、県内有数の進学校で、部活動も盛んな文武両道の学校ですが、県の高校再編計画により今年度末での閉校が決まっていて、その敷地には奈良高校が移転してくることになっています。閉校を前にした高校球児10人の最後の夏を取材しました。

奈良県立平城高校野球部。選手は10人で全員が3年生です。夏の甲子園をかけた県大会に向けて練習に励んでいますが、県の再編計画による奈良高校の移転を前に、今年度末での閉校が決まっているため、この夏が“最後の挑戦”になります。
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レフトを守り2番を打つ福永晃志君。副キャプテンを務め、部員一人一人に細かい気配りもできる、チームには欠かせない存在です。

(チームに話す福永晃志君)
「良いプレーをしようと思いすぎずに、しっかりやってきたことを出せるようにやっていきましょう」

選手10人とマネージャー2人の野球部

実は福永君の兄2人は平城高校野球部のOBで、母の直美さんも平城高校の卒業生。そのため、福永君もこの高校への進学を希望しましたが、そのころにはすでに閉校が決まっていました。

(福永晃志君)
「やっぱり野球がやりたかったので、平城高校に来たら人数が集まるかどうか、というのが1番の心配でした」
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しかし、いざ入学すると、野球に必要な9人を超える10人の選手と2人のマネージャーが集まり、それから今まで誰1人欠けることはありませんでした。
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 野球部を12年間率いてきたのは吉岡健蔵監督です。

(吉岡健蔵監督)
「いろいろ不安や心配もあったのですけれども、何とか10人が入ってきてくれて、最後も平城の単独のチームで戦えるなと」

選手を支える周囲の応援

下級生がいないため、準備や片付けも全て3年生の仕事。10人だけで行うグラウンド整備は一苦労です。

(福永晃志君)
「一人あたりのやる範囲が多いので、とにかく自分のところをできるだけ早く終わらせて、空いているところに回るという感じです。やっぱり周りを見て動くというのはみんな身についていると思います」

そんな中、新型コロナウイルスの影響で今年6月末まで対外試合が禁止に。10人だけではチーム内で分かれて行う紅白戦もできません。
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実戦不足に陥る中、練習試合の対戦相手になってくれたのはOBたちでした。

(野球部OB)
「平城のユニフォームを見られるのも最後になるので、1日でも長く戦って欲しいなと思います」
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グラウンドに置かれているホワイトボードにはOBたちからの力強いメッセージが残されています。

さらに試合前日、野球部に嬉しいサプライズがありました。コロナの影響により試合で演奏できない吹奏楽部から応援曲を収録したCDのプレゼントです。

(吹奏室内楽部)
「応援曲をCDにしてプレゼントしたいと思います。明日、頑張って下さい」

(福永晃志君)
「嬉しいですね。こういうのもらったら」

(吹奏室内楽部)
「(応援に行けないのは)やっぱり悔しいです。ラストなので頑張ってもらいたいな」

周囲の期待が高まる一方、バッティング練習で顔をしかめる福永君。実は7月上旬に練習中にボールが手に当たってしまい、左手の指の骨が折れてしまったのです。しっかりバットを握れず、力強いスイングができません。それでも諦めないのが福永君。

(福永晃志君)
「人数が人数ですし、やるしかないので。何とか出来ると言いました」
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マネージャーは千羽鶴に無事10人で最後の夏を迎えられるよう思いをこめます。
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(土岐遥歌さん)
「ケガをしたと聞いたときはほんまに泣きそうになって。もしかしたら10人で終わられへんかもしれないと思っていたので。とりあえず無事にみんなが最後まで野球を出来たら良いなと思う」
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福永君の母・直美さんは日々野球を通して成長する息子の姿を見守ってきました。

(福永君の母 直美さん)
「困難なことがあったときに、そういうことから逃げずに、正面から向き合って、自分たちの力に変えていくとか、そういうことができるようになってきたのかなというふうに思います」

直美さん自身も平城高校の卒業生であるだけに、球場で一緒に校歌を歌えることを楽しみにしています。

(福永君の母 直美さん)
「明日、子どもたちと一緒に歌いたいと思っているので、最近は車の中で復習をしています」
(福永晃志君)
「それはもう勝つしかないですね」

最後の夏

周りに支えられながら迎えた7月13日、試合当日。いよいよ平城高校の夏が始まります。第103回全国高校野球選手権・奈良大会。運命のいたずらか、平城高校の初戦の相手は奈良高校。たくさんの応援団が駆け付ける中、先にチャンスをつくったのは、平城高校でした。

3回、得点圏にランナーを置くと打席には福永君。惜しくもセンターフライに倒れます。しかし、後続のバッターのタイムリーヒットで先制に成功します。

ところが試合はシーソーゲームに。最終回、9回表に平城高校は同点に追いつかれ、9回裏の攻撃を迎えます。ランナー1、2塁のチャンスで回ってきたのが福永君でした。

そして、指のケガもなんのその、執念の初ヒットを放ち、次のバッターにつなぎます。そして平城高校がサヨナラ勝ち。球場には念願の校歌が流れました。


 【平城高校 校歌】
 青垣めぐる平城山の
 みどりの風に頬そめて
 清新の意気高らかに
 明日の文化を創らんと
 英知をみがく若人が
 集う誇りの学舎は
 ああ平城 我等の平城高校


しかし、7月19日の2戦目。平城高校は法隆寺国際高校相手に4対16で7回コールド負けとなり、平城高校の最後の夏は終わりました。

試合後、大きな拍手で迎えてくれたのは、たくさんの卒業生や保護者たちでした。
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(福永晃志君)
「仲間に恵まれて1年生からずっとやって来れたと思うので。今まで支えてきてくださったOBや地域の方々にも、1回勝って校歌が歌えたというのは、1つ恩返しになったかなと思っています」
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平城高校42年の歴史を背負って、この夏、全力で戦い抜きました。