日本ブライダル文化振興協会によりますと、新型コロナウイルスの感染拡大によって、去年1年間で約24万組の結婚式が延期や中止を余儀なくされ、約8割のカップルに影響があったとみられています。コロナ禍で新たな結婚式の形も生まれています。“身近な人へ思いを届ける”そんな結婚式を取材しました。

“式場ではなく家”という提案

今回話を聞いた新郎新婦は、去年11月に婚姻届を出して晴れて夫婦になりましたが、結婚式はまだ挙げていません。

(新婦)
「一番大きかったのはコロナです。結婚式を挙げようと思っていたのですが、祖父母は高齢というのもあったので参加はやめておこうかなと言われていて」
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結婚式をどのように挙げるのか。コロナ禍で結ばれたカップルにとっては難しい判断を強いられてます。ブライダル会社「LLB」でも、9割が延期や中止となり、1割が親族のみなど少人数で結婚式を挙げていて、思いとは違う選択を余儀なくされています。

【新郎新婦とLLB側のやりとり】
(プランナー)「もし、やりたいことがあったら?」
   (新郎)「おじいちゃんとおばあちゃんには手紙を書こうかなと」
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2人はどうするのか…。LLB側から“ある提案”がありました。

(LLBのウエディングプランナー 堀江未来さん)
「『花嫁姿で会いに行きたい』『花嫁姿を見てほしい』もしくは日ごろの感謝の気持ちを伝えたりとか『夫婦になりましたよ』という報告をしたいと言われる方々が、どうにかできないですかという形で」

提案されたのは「逢いに行く結婚式」です。
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2人には花婿・花嫁姿でどうしても会いに行きたい人がいました。

(新郎)
「結婚式を見たかった祖父がこの前亡くなりまして、(結婚の)あいさつも直接こんなご時世で行けなかった。このお正月も帰って妻を会わせたかったですが、コロナ禍だったので直接会えず、電話で顔だけ見せて。直接会えなかったので心残りがありますね」
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孫の結婚式を誰よりも楽しみにしていた新郎の祖父は今年2月に心筋梗塞で亡くなりました。2人は祖父の仏前で結婚を報告するため、実家や祖父母の家でささやかな結婚式を挙げることを決めました。

(新婦)
「おじいさまが亡くなってしまって、一番楽しみにしてくださっていたのは知っていて、おばあさまも来られないとなった時に、ご提案いただいて形になっていくのを見るとちょっとドキドキしてきました」

実家で花嫁衣装に 記念撮影場所は地元の公園

『逢いに行く結婚式』当日の午前8時半、新婦の実家に花嫁衣装が運ばれてきました。

(髪をセットしてもらっている新婦)
「いよいよ感あります。すごく楽しみです。自分の家でやってもらうことないから変な感じです」
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髪をセットした後、新婦は白無垢に身を包みます。

(新郎)「いいですね、かわいいと思います」
(新婦)「新鮮ですね」
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両親に会う前に記念撮影をします。撮影場所に向かうため、新婦が生まれ育った町を2人で歩いていると、「おめでとうございます」と通行人から祝福の声もかけられました。
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そして、2人は実家近くの公園に到着。新婦が子どものころによく遊んでいた場所です。

(新婦)
「いろんながことがありましたね。小学生の時に来ていた場所なので、大人になったんやなと思います」

人生をともに歩む伴侶と懐かしい公園での記念撮影。これも『逢いに行く結婚式』だからこそできました。
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その後、2人は実家に戻り、新婦の両親と対面します。

(新婦の母親)「きれいきれい」
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花嫁になる最後の儀式「紅差しの儀」では、思い出がつまった部屋で母親が娘に口紅を塗ります。

(新婦の母親)
「感激しました。徐々に支度をしていくところを見ていけるのも、お嫁に行くという感じがしてよかったと思います。ハンカチを持って指を吸っていたのに」
(新婦の父親)
「きれいですね。こんな時ですからね、まさか見られるとは思わなかったので」

新郎新婦が祖父母の家へ

新婦の両親がお嫁に行く娘を送り出し、2人はブライダル会社LLBのスタッフとともに新郎の祖母が暮らす家へ向かいます。

(新郎)
「緊張してきました」
(新婦)
「私は割と気が楽になったのですが、すごく喜んでくださるだろうから、楽しみですね」
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そして祖母の家に到着しました。最初に向かったのは仏壇の前。祖父への報告でした。

(新郎の祖母)
「(新郎の祖父は)顔見るたびに結婚結婚と言っていたな。来ていただいて喜んでいるわ」
(新郎の母親)
「涙出ますね。母(新郎の祖母)は結婚式に行くの諦めていたから。ありがたいことです」
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式場ではなく派手な演出や豪華な料理などはありません。コロナ禍でも2人の思いは伝わります。

(手紙を読む新郎)
「おじいちゃんおばあちゃん、きょうは時間を作ってくれてありがとう。今回こういった形でお邪魔させてもらったのは、誰より僕の結婚を心配していたおじいちゃんとおばあちゃんにちゃんとお嫁さんを紹介して結婚した姿を見てもらいたかったというのが一番大きな理由です。思い出がたくさんつまったこの家に、この姿で2人で伺うことができて本当によかったと思います。押し入れから上った天井裏や、昼寝の時におじいちゃんに聞かせてもらった昔話、おばあちゃんが作ってくれた焼きそばとカレーライス、いつも優しいおじいちゃんとおばあちゃんとの思い出をこの家に来るたびに思い出しています。ずっと元気でいてください。そしておじいちゃんは天国から見守ってもらえたらうれしいなと思います。きょうは本当にありがとうございました。これからもよろしくね」

(新郎)「せっかくなので(手紙)もらってください」
(祖母)「ありがとう。お父さん、また読むね」

(新郎の祖母)
「こういう場を作ってくださって、幸せいっぱい。今夜寝られない」
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コロナ禍で身近な人とも直接触れ合うことは難しくなりましたが、心を通わせることはできる。新しい結婚式の形は新郎新婦の思いを届けました。