ススキやヨシ、稲わらなどの「かや」を使って作るかやぶき屋根は年々、減り続けています。こうした中、伝統的なかやぶきの家を後世に残していくだけでなく、その技を現代の生活にも生かし、かやぶきの新たな魅力を伝えようと挑戦を続ける職人が神戸にいました。

神戸拠点の「かやぶき職人」

かやぶき職人の相良育弥さん(41)。神戸市北区を拠点にかやぶき屋根のふき替えや補修を手がける職人集団「くさかんむり」の若き棟梁です。かやぶきには機械化できる作業が少なく、今でもほとんどの工程を手作業で行います。

(「くさかんむり」代表 相良育弥さん)
「まず静かなんで、現場が。バリバリバリ、ギューンという音がなく、カサカサ、トントンみたいな。手作業がゆえの音の風景がある」

“匠の技”の継承者が向かう現場は多岐に渡っています。
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今年4月、相良さんが訪れたのは神戸市東灘区にある美容院「DiO」です。依頼者はオーナーの宮崎和悦さん。改装したてのサロンに、相良さんが「最後の仕上げ」をするといいます。相良さん、美容院の入り口にある大きな壁に鉛筆で線を描き始めました。
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(相良育弥さん)
「普段のセオリーに沿ってきれいにふくというよりも、わざとうねらせながら、“かやで毛並みを作るような感じ”で模様をつけていこうかなと」

いつもの屋根ではなく、垂直な壁一面にかやをふくといいます。

「かやぶき」前例のない挑戦

相良さんは屋根のふき替え以外にも“かやぶきの新たな可能性”を見出そうと、前例のない挑戦を続けています。東京・渋谷区のアウトドアショップ「UPI表参道」。キャンプ場のような雰囲気の店の中央には、相良さんが作ったかやぶき製のテーブルが飾られています。
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兵庫・丹波篠山市にある「丹波篠山キャンプ場・やまもりサーキット」に作られたツリーハウスの屋根は、今では珍しい『段葺(ぶ)き』と呼ばれるふき方で個性的なデザインになっています。

かやぶきを取り巻く厳しい現状

相良さんは神戸市北区で生まれ育ち、京都府美山町のかやぶき職人に弟子入りし、5年間の修業を積む中で、かやぶきを取り巻く厳しい現状を目の当たりにしました。

(相良育弥さん)
「修業が終わった頃に、『もう若手がいない』みたいな状況があって、これはかやぶきを続けないといけないなと、僕の思いというより周りの状況が先にあって。このままいくと、かやぶき屋根がどんどん廃れていっているので、何とかしないといけないなと」

実は1950年に「建築基準法」が改正されて以来、日本では新たにかやぶき屋根の家を建てることが非常に難しくなりました。そのうえ、維持するために数十年おきに約1000万円とも言われる高額なふき替え費用がかかるため、減少の一途を辿っています。

ふき替え作業は「一世代に1回」

この日、相良さんは「くさかんむり」の職人たちと一軒の家を訪れました。スニーカーから足袋に履き替えて…作りかけの屋根の上へ。生業である「ふき替え」の仕事です。今回使うのは「ススキ」。相良さんは熊本県・阿蘇産と静岡県・御殿場産の2種類を使い分けます。

(相良育弥さん)
「産地によって全然、形とか表情とか特徴が違う。阿蘇のほうが細くて細かいので屋根のコーナーとか軒先とか。平らなところは御殿場でガンガンふいていくような感じです」

ススキやヨシなどの植物を材料にした屋根は通気性や断熱性に優れていて、夏は涼しく冬は暖かいといいます。

依頼者は、この家を買うまではかやぶきに関する知識はほとんどありませんでした。

(依頼者 巽ゆか里さん)
「まさかこんなふうになるとは思っていなかったんですけれども。きれいですね、すごくきれい」

相良さん、依頼者に丁寧にレクチャーします。

 (巽さん)「(かやの)差し替えって、どれくらいごとにするんですか?」
(相良さん)「20年くらいは(大丈夫)。一世代に1回という感じなので、自分がやったら次は息子とか娘がやって、みたいな。なので(次は)娘さんが成人したぐらいに…」

若い人材の育成にも力

独立して10年が経った今、弟子やアルバイトなど、未来を担う若い人材の育成に力を注いでいます。

(相良さん指導の様子)
「並べたときに1回1回押してみて。『しっかり効いているなあ』みたいな感じを見ながらやるといい」

親方としての相良さんの背中は、弟子にとっても頼もしいようで…。

(弟子)
「人が思いつかないことをスパンスパンやっていく。見たことないものをよく見せてもらえる。『こんなんまた作ったのか』と、驚かされています」

海外の知恵を活用し美容院の内装をデザイン

別の日、相良さんはまた美容院の作業へ。壁のために選んだ素材は、光が当たると輝く『小麦のわら』です。そして、屋根のふき替えでは使っていない電動ドリルを活用します。

(相良育弥さん)
「(かやぶきの壁は)日本にはないんですけれども、ヨーロッパでは伝統的に行われていて、きょう用いているのもオランダの現代工法を応用して作っていっています。海外の方がむしろかやぶきは盛ん」
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実はオランダなどヨーロッパ諸国では法改正が進み、今も新築のかやぶきがどんどん建っているのです。数年前からドイツの大学で講師を務める相良さん、海外の知恵を輸入することにしました。
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ふさふさとした「毛並み」感を表現するため普段の屋根のふき替えとは手法を変えて、かやの方向を少しずつずらして1束ずつ縫い付けるように作業を進めます。

(相良育弥さん)
「今までのセオリーを1回忘れるのが意外と難しくて、帰ると脳みそが疲れています。普段以上に考えているんだなと」
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全てのかやをふき終わったところで、長さをそろえる『刈り込み』作業へ。全体の厚みを15cmにそろえます。相良さんは、美容院のオーナーにも作品に参加してもらうことにしました。

(美容院「DiO」オーナー 宮崎和悦さん)
「硬いですね…。でも髪の毛でもこれぐらいの人いますねえ、時々」

『小麦のわら』で毛並みを表現

そして5月31日。ついに作品が完成しました。制作期間は約10日間。軽トラック1台分の小麦わらをたっぷり使いました。照明が当たる部分がキラキラと反射し、“毛並み”のように見えます。
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(美容院「DiO」オーナー宮崎和悦さん)
「髪の毛にも毛並みがあって、それを出せたらいいなという話をしていたんですね。それがばっちり出ているので、すごくいい」

お店を訪れた人も…

(お店を訪れた人)
「ちょっとびっくりしました。前までと全然違うかったので。こんなにおしゃれに(かやぶきを)使うことがあるんだな、というのが一番驚きですね」

相良さんはまた一つ、新たなかやぶきを生み出しました。
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(相良育弥さん)
「伝統的に残っているかやぶき屋根はかやぶき屋根で非常に素晴らしくて風景と調和していいと思うんですけれども、それだけだと、かやぶきが持っているいろんな可能性が生かし切れていないというか、現代は現代の新しいかやぶきの在り方があると思うので、1つの挑戦でもあったと思います。(Qこれからも挑戦は続く?)挑戦しかないですね。挑戦をやめた時に僕は死ぬと思うので、見守っていただけたらと思います」

(6月15日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『コダワリ』より)