大阪府高槻市で、小学生の男子児童が体育の授業で持久走をした後に死亡しました。遺族は「同じような家庭が増えないように危険の芽を摘んでほしい」と取材に答えました。教育現場では、体育中のマスク着用についてどのような指導が行われているのでしょうか。

小5男児が持久走中に体調が急変し死亡 心臓発作の原因は不明 

運動が大好きで活発。将来の夢はプロゲーマーになることだったという11歳の男の子(当時小学5年生)が突然、命を落としました。男の子は4人きょうだいの末っ子で、姉たちから愛されていました。

(男の子の父親)
「(亡くなった後に)息子が好きな音楽を聴いたときに、いつも寄り添っていた姉が思い出したかのように泣いてしまったりとか。ずっと半泣き状態です。ずっといつでもすぐに泣けるような状態」
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今年2月、大阪府高槻市の小学校で、男の子は体育の授業で5分間の持久走をしているとき、体調が急変。搬送先の病院で亡くなりました。市の教育委員会によりますと、保健室に運ばれた時、あごにマスクがかかっていたということです。

(高槻市教育委員会事務局 杉野暁子課長) 
「児童は、おそらくという言い方になりますが、マスクを着用した形で授業に臨んでいたと思います。走っている最中にどういった状況だったかは、正確には把握しておりません」

学校では文部科学省や市が定めたガイドラインに則り、『体育ではマスク着用は必要ない』と児童らに伝える一方で、『希望する人は着けてもよい』とも指導していました。
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遺族によりますと、男の子の死因は“心不全”。持病はなく、持久走も楽しみにしていたということです。

(男の子の父親)
「友達と遊んだ帰りに走って帰ってきたりとか。走るのがとりあえず、はまっていた時期だったので」

男の子が心臓発作を起こした原因は6月11日時点でも不明で、詳しいDNA検査などが行われています。

(男の子の父親)
「私たちの子どもは戻っては来ないんですけど、我々みたいな家庭が増えないように、少しでも危険の芽があるのなら摘んでほしい。それのきっかけとなって我々として発信できたらなというのがありますね」
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熱中症予防の啓発などを行う救急専門医の犬飼公一医師は、今回の死亡事故についてこう話します。

(熱中症予防啓発ネットワーク 代表・犬飼公一医師)
「だいたい学校管理下における心臓突然死の約8割が運動に関係すると言われていて、だいたい小学4年生から中学生までの特に男の子に多いと言われています。マスクをして運動すること自体が心臓突然死と因果関係があるかどうかはわかりませんが、体にとってしんどいような状況になる可能性はあります」

マスクを着用した激しい有酸素運動 人体への影響は…

マスクを着用した激しい有酸素運動は人体に影響を及ぼすのか。犬飼医師の指導のもと、検証しました。普段運動をしない記者と、毎日現場に出るカメラアシスタントの2人が、マシンを使って時速6.4kmのジョギングと時速10.8kmのランニングで5分間運動し、マスクを着用した場合とマスクを未着用の場合とで心拍数などを比べました。
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カメラアシスタントの結果は、ジョギング・ランニングともにマスクを着用したほうが、心拍数がわずかに1上がりました。

【1分間の心拍数(カメラアシスタント)】
マスクあり…ジョギング:156bpm ランニング:185bpm
マスクなし…ジョギング:155bpm ランニング:184bpm
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一方、記者はマスクを着用して時速10.8kmでランニングすると、苦しさのあまり呼びかけに返答することもできません。

(マスクを着用してランニングを終えた記者)
「大きく息を吸うたびにマスクが口の中に入ってきて、全然息ができない状態。汗や出る空気で湿気がどんどん増えていくのもわかって、より口や鼻の穴にまとわりつく。非常に呼吸がしづらい」
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ランニングの結果は、血中酸素濃度はどちらも98%と同じですが、1分間の心拍数はマスクを着用した場合が180回、マスク未着用の場合が170回で、マスクを着用した方が10上がっていました。ジョギングの場合も血中酸素濃度は同じで、心拍数はマスクを着用した方がわずかに上昇していました。

【1分間の心拍数(記者)】
マスクあり…ジョギング:144bpm ランニング:180bpm
マスクなし…ジョギング:140bpm ランニング:170bpm
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(犬飼公一医師)
「今回の実験で心拍数がマスクを着けているほうが高く出たのは、呼吸のしづらさが心臓や肺に影響を与えたという可能性もあります。やはりマスクを着けての運動はマスクを着けていないときの運動と比べて、非常に運動の負荷が高くなる可能性を秘めています。負担が増えると、小学生や中学生のような心肺機能がまだ発達途上にある人は、病気が突然発症する可能性もあります」

さらに、今からの季節はこんな指摘も。

(犬飼公一医師)
「走ると熱がこもりやすくなりますし、走ることでの体温上昇も加味して熱中症になる危険は高くなると思います」

体育の授業ではシチュエーションにあわせてマスクの使用を指導 休み時間は…

学校では体育中のマスクの着用についてどのような指導が行われているのでしょう。大阪市立柏里小学校(大阪・西淀川区)を取材しました。運動場では、1年生の授業で50m走が行われていました。この学校では大阪市のガイドラインに則り、体育では児童同士の距離を取れる際や激しい運動をする際はマスクを外すように指導しているということです。
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一方、5年生の体育では鉄棒を行いました。児童らは集合して先生から指示を受ける時はマスクを着用しています。そして、鉄棒をする際は『マスクを外すように』と伝えていて、シチュエーションにあわせて細やかに指導していました。
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(大阪市立柏里小学校 竹内隆之教諭)
「しんどい運動をする時はマスクを外して呼吸がしっかりできるように、体調管理が自分たちでもしっかりできるように指導はしています。子どもたちが一番安全に、安心に学習をすることができるというのを一番に心がけています」
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しかし、体育の授業中と違ってガイドラインのない時間帯“休み時間”はどうでしょうか。最大で15分ある休み時間に児童たちはドッジボールやかけっこなど、思い思いに楽しみます。休み時間の間、多くの児童がマスクをしていました。先生たちは目が届きづらい休み時間に体調に異変が生じないか交代で見守り、休む時間はありません。
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(竹内隆之教諭)
「できるだけマスクをつけて遊びましょうという指導は最初はしていたので、暑くなってきた段階で、しんどくなったらマスクを外すということと、水分補給をしっかりしようという指導をしていくしかないかなと思います」

児童の命を守るため、学校現場ではひとつひとつの場面で危険をつぶしていくことが求められています。