65歳以上の新型コロナウイルスワクチンの接種率が全国1位の和歌山県では、時短要請も解除されるなど日常を取り戻しつつあります。ワクチン接種が早い理由について取材しました。

仁坂知事「この調子で突っ走ろうと」

和歌山県が誇る全国1位といえばミカンの収穫量やジャイアントパンダの飼育数です。そこに、新たに加わったのが「新型コロナウイルスワクチンの65歳以上への1回目の接種率」。6月2日時点で31.31%と全国1位で、仁坂吉伸知事も最近は口がなめらかです。

(和歌山県 仁坂吉伸知事 5月18日)
「1回目の接種率はダントツのトップであります。この調子で突っ走ろうと」
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では、なぜ和歌山県ではワクチン接種が早いのか。取材班が向かった先は県中央に位置する人口約1万2000人の和歌山県みなべ町です。特産は南高梅と紀州備長炭。診療所は8軒ありますが町内に総合病院はありません。町民憩いの喫茶店を訪れる人たちに話を聞きました。

(記者)「もうワクチンを打った人はいますか?」
(町民)「もう2回打った」
(記者)「早いですね?」
(町民)「そうやな。もうどこにでも行けるで」

地元バス会社と契約して高齢者を送迎 町民「ありがたい」

みなべ町ではすでに65歳以上の町民の約3割が2回のワクチン接種を終えていたのです。その秘訣を町職員に教えてもらいました。

(みなべ町健康長寿課 岩崎道則課長)
「これが接種会場に自分で来られない方のための送迎バスです」

町が地元のバス会社と契約してワクチン接種用の無料送迎バスを用意したのです。今回、取材班は送迎に同行。バスは午後1時半に出発し、少しづつ山の方へ向かっていきました。
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みなべ町の接種会場は町内の福祉センターの1か所だけです。しかし、山あいに集落が点在していて、移動が困難な人のためにバスで1時間かけて高齢者を送迎しているのです。
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狭い山道ですがさすが熊野古道にも慣れた地元の観光バスです。スムーズに曲がっていきます。
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そしてバスは1か所目の送迎地点に到着。しかし誰も来ていませんでした。

(みなべ町健康長寿課 寺谷拓真主事)
「まだちょっと来られてなかったみたい。ちょっと早めに余裕を持って来させてもらったんですが…あっ!たぶんあの方々ですね」
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待つこと10分。ワクチン接種を受ける予定の女性2人がやってきました。さらにもう1人の女性も姿を見せ、職員がバスまで案内します。

(記者)「バスで迎えに来てもらえるのは?」
(町民)「ありがたい。もったいないです」
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乗車の際は消毒と検温は欠かせません。帰りのバスを間違えないように、町民の手首にはバスごとに違う色のリストバンドを巻きます。その後、あわせて4か所の送迎地点をめぐり、次々と高齢者を乗せていきました。

(記者)「乗り心地はどうですか?」
(町民)「よろしいですよ。どこかに連れて行ってくれるみたい」
(記者)「行くのはワクチン会場ですけどね」
(町民)「どこか旅行かなんか行くみたい」
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午後2時半、町民12人を乗せたバスはワクチン接種会場へ到着。続々とバスから降りてきます。町民らは受け付けを済ませて接種を受けました。副反応が出ないか会場で30分待機して、再び送迎バスで自宅近くまで送り届けてもらいます。

(町民)
「楽々。送迎してくれるから楽やわ。(2回接種したから)もうコロナ怖くないよ」

午後5時、全ての乗客を送り届け、この日の送迎は終了しました。みなべ町は約800万円の予算でこうした送迎をバス2~3台使って週に3回ほど行っています。

和歌山県は『人口10万人当たりの診療所数』が全国1位

和歌山県は実は人口10万人当たりの診療所の数が全国1位です。これも接種が早い理由の1つです。診療所が多く集まる和歌山市では、かかりつけ医での個別接種がスムーズです。

(接種を受けた人)
「先生は全部診てくれますから、安心なんです」
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接種を行う医療機関は内科・耳鼻咽喉科・産婦人科・眼科・小児科などで、市内の約6割の医療機関で接種を受けることができます。また個別接種の場合、予約は電話や窓口で行っていて、インターネットを使う必要はありません。

(接種を受けた人)
「インターネットとかしていないし、(電話予約の方が)親しみがあっていいんと違うかなと思います」
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こうした取り組みもあってか、和歌山市内の65歳以上の人の1回接種率は5月31日時点で33.8%と高水準です。

(和歌山市ワクチン接種調整課 本間照生課長)
「和歌山市の医師会と良好な関係がありまして、地域の医療機関の皆さまにご協力いただいたからこそ今があると考えています」

時短要請が解除され“日常”に近づいていく和歌山

和歌山県では、5月30日~6月3日の新規感染者数は毎日一桁で推移していて、6月4日はゼロでした。6月になると和歌山市内の飲食店への時短要請が解除され、大型商業施設やイベントへの制限もありません。営業を再開した和歌山市内のスナックでは、マスクを付けながらカラオケを楽しむ人の姿がありました。

(スナックの客)
「和歌山がワクチン接種に対しては一番早いと聞いていますが、だからといって遊びほうけていいわけではないと思うから、ストレスをためないようにうまいこと付き合っていくしかないかなと思います」

ワクチン接種ととともに和歌山県は日に日に「日常」に近づいています。