日本酒の全生産量のうちのわずか「0.0009%」ともいわれる古酒。作る人はわずかで市場もなく、評価もされてこなかった古酒を40年前からこだわって造ってきた社長がいます。ついに時代が追いついてきたようです。

“熟成古酒”の新たな市場開拓を目指す社長

“日本酒だってヴィンテージは作れる”。約40年前に若き酒蔵の4代目が始めたコダワリ。それが『古酒』です。

(本田商店 本田眞一郎社長)
「ワインはね、30~40年前から“ロマネコンティ”で1本20万円だったんですよ。我々(日本酒)は1本1000円2000円で、すごいなと憧れたもんですよ」
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2021年で創業100年を迎えた酒蔵「本田商店」(兵庫・姫路市)の4代目・本田眞一郎社長(69)。代表銘柄の「龍力」など代々米にこだわった吟醸酒を造ってきました。本田さんが新たな市場の開拓をと意気込んでいるのが古酒です。

(本田商店 本田眞一郎社長)
「“熟成古酒”の世界はまさにスタート。ないことへの挑戦ってすごいですよね。そのかわり大変ですよ。市場がないねんから。これから作らないとあかんねんからね」

「古酒」とは?

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古酒とは透明な清酒と一体何が違うのでしょうか。9年物の古酒の色はやや黄色みがかって白ワインのようです。さらに2009年に仕込んだという12年物の古酒はまるでウイスキーのような琥珀色をしています。

(本田商店 本田眞一郎社長)
「日本酒にはアミノ酸という成分があります。年を経ることによってアミノ酸や糖質の変化で色がついていく。色の変化はそういう変化です」
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本田商店は、清酒を造る傍ら、細々と古酒造りを続けてきました。タンクが並ぶ部屋に案内してもらいました。
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(本田商店 本田眞一郎社長)
「絞ったお酒を置いておく部屋です。このタンクは『平成9BY(=BreweryYear・酒造年度)』ですから22年くらい前ですね」

「いつか古酒のニーズが高まるときが来る」と信じて、瓶などで長期貯蔵をはじめ、いまは味や香りの変化が大きい樽貯蔵にも挑んでいます。平成以降は毎年のように造られた古酒。それぞれ違う味や表情をみせています。

そして本田さんが冷蔵庫の中から取り出してきたものは…

(本田商店 本田眞一郎社長)
「これが1983年に醸造した当社で一番古い『真古酒』という純米吟醸の熟成古酒です。(在庫が)あと41本しかないんです。今の技術にずっとつながっていっている最初の1本がこれなんです」

ウイスキーならとてつもない高級品。在庫がわずかになり、元々1万円だった値段をヴィンテージワインなどに匹敵する1本3万円に上げました。

日本酒自体ほとんど口にしたことがない記者が古酒を試飲させていただきました。まずは9年物の古酒。

(記者)「日本酒のとがった感じがなくて、甘みがもっと強いです」
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続いては12年物の古酒。ウイスキーのような琥珀色をしています。

(記者)「お茶みたいな香りがします。甘い!甘い!なんだこれ…梅酒みたいな甘みを感じる味になっています」

(本田商店 本田眞一郎社長)
「通常の日本酒、たとえばこの神力米(の清酒)を置いていても古酒にはなる。古酒にはなるんですけれど、これはこのままでおいしいという設計図で造っているので、10年置いてもっと個性が出るようにというためには、もう少し甘口の酸の多いものを『10年後に楽しみだね』と造っていくんです」

古酒が見過ごされてきた背景は

それなのに古酒は日本酒の全生産量の0.0009%ほど。なぜその存在が見過ごされてきたのでしょうか。

古くは皇室儀式にも振る舞われたという古酒。しかし明治時代になり、酒の出荷量ではなく造った分だけ税金が課せられるようになり、長時間手元に置く古酒はコスト高で敬遠され、作ってすぐ売る清酒が定着しました。

本田さんもほとんど売ることはなく研究用としてコツコツ続けてきました。

フレンチレストランのシェフが作る“古酒×スイーツ”

4月7日、本田さんはスーツに身を包んで大阪市内にあるミシュラン2つ星のフレンチレストラン「LaCime」に来ていました。この店の高田裕介シェフが用意していたのはロールケーキ。甘さに特徴がある本田商店の11年物の古酒を生地に染み込ませた試作品です。

(本田商店 本田眞一郎社長)
「いただきます。ちゃんと熟成古酒のあの味がしている!」
(LaCime 高田裕介シェフ)
「うん、おいしい」
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シェフが考えたのは、古酒をアレンジしたスイーツと古酒そのもののペアリング。新たな提案でした。
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(LaCime 高田裕介シェフ)
「(Qやろうと思ったきっかけは?)普通に面白そうっていうだけです。『面白い』がないと楽しめないので」
(本田商店 本田眞一郎社長)
「酒屋もそうですよ。結局は自分の好きな酒を造っているんですよ。これ売れるから嫌いだけど…なんて酒は造らない」

本田さん、手ごたえを感じたようです。
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(本田商店 本田眞一郎社長)
「日本酒の熟成古酒という世界、これまでにない世界です。これが本当に一つの形になっていってくれれば、新しい食文化が始まる第一歩だと思います」

じわじわと広がる古酒の世界

知る人ぞ知る古酒。最近では専門店ができるなど魅力にはまる人が増えつつあります。この日、兵庫県淡路市の「古酒の舎」で熟成古酒を楽しむイベントが行われました。

(店員)「ぜひ香ってください。スワリング、回して飲んでいただくのが、とてもおいしくいただくコツです」

初めて口にした人たちに感想を聞きました。
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(参加者)「こんなにおいしいと思っていなかった。すごく飲みやすくて、思っていたのと全然味が違って楽しいです」
(参加者)「爽やかな味もするし、日本酒ってキリッとした感じがするんですけど、(香りが)ふわ~って、おいしかったです」
(古酒を飲んだことがある参加者)「飲んだ時の香り、飲んだ時の余韻。もはや日本酒じゃない」

若き日、4代目がこだわって造り始めた古酒。40年経って、味も評価もいよいよ期が熟したようです。

(4月16日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『コダワリ』より)