飲食や排せつの介助といった身体介護や、掃除・洗濯・料理などの生活援助を行う訪問介護。そんな訪問介護事業の2024年の倒産件数が過去最多となり、危機に陥っています。今現場では何が起こっているのか、取材しました。

生活援助や身体介護 利用者の介護度に応じて1人で対応

 ホームヘルパーの長岡ち江子さん(65)。大阪府高槻市の訪問介護事業所『ヘルパーステーションゆうゆう』から週に1回、この家を訪れ、部屋を片付けたあと、利用者の飲み薬を準備して、脚に軟膏を塗ります。

 (ホームヘルパー 長岡ち江子さん)「鍵を閉めてくださいね。ありがとうございます」

 1時間で仕事を終えると、休む間もなく次の訪問先へ。

 (ホームヘルパー 長岡ち江子さん)「こんにちは。かわいらしいベストを着ておられますね」
 (利用者(91))「はい」
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 長岡さんは、朝から夕方まで8時間の勤務で平均7~8軒を訪問します。調理や掃除などの『生活援助』から、体の向きを変えたり、排泄を手伝ったりする『身体介護』まで。利用者の介護度に応じてすべて1人でこなします。

 (利用者(91))「来てくれるのうれしいよ。やっぱり(体を)動かしてくれるから」

 (ホームヘルパー 長岡ち江子さん)「ヘルパーの仕事をものすごく皆さんが喜んでくれる。動くのが好きなので、ヘルパーの仕事に向いていると思います」

介護報酬の引き下げに「『えっ』と非常にショックを受けた」

 長岡さんが働く事業所『ヘルパーステーションゆうゆう』では、120人の利用者を16人のヘルパーで支えています。毎日訪問が必要な利用者もいるほか、急な呼び出しへの対応などで人手はひっ迫しています。できればヘルパーを増やしたいところですが、そうはいかない事情があります。それが介護報酬の改定です。

 (ヘルパーステーションゆうゆう 去来川裕代表)「『えっ』と思うようなびっくりする内容だった。当然上がるべきものが下がったので非常にショックを受けました」

 厚生労働省は去年4月、訪問介護の利益率が施設での介護サービスなどよりも高いことを理由に、基本報酬を2%ほど減額しました。当然、採算性は悪化するため、好条件でヘルパーを募集することができないのです。

 (ヘルパーステーションゆうゆう 去来川裕代表)「どんどんスタッフは少なくなる、仕事は厳しくなる、賃金もそのままで働かないといけない。『あと何年やっていけるだろうか』が率直な感想です。閉鎖になれば120人の利用者の行き場がなくなるので、頑張らないといけない」
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 去年、全国の介護事業所で倒産が急増。過去最多になりました。その半数近くを訪問介護の事業所が占めています。この状況が続けば、訪問介護が受けられない地域がでてくる可能性もあります。

山あいにある“村唯一の事業所” 離れて暮らす利用者家族が安心できる存在

 京都府南部の山あいに位置する南山城村。65歳以上の高齢者が過半数を占めていますが、訪問介護の事業所は村に1つしかありません。

 (ホームヘルパー 石川洋子さん(61))「こんにちは。お世話になります。お風呂のほうを先に掃除してくるわな」

 この事業所『南山城村社会福祉協議会』では、8人で村に住む30人の高齢者の訪問介護を行っています。ヘルパーの存在が、離れて暮らす家族の安心につながっています。

 (木津川市在住 利用者の息子)「実際ここで住むとなると、なかなか仕事を持ってここにいるのは厳しい。ヘルパーさんが来てくれなかったら、もっと落ち込んでいると思います。うまいこと気持ちが保てています」

 (利用者(94))「訪ねてもらってお話を聞かせてもらって、それが楽しみです。誰も遊ぶようなお年寄りもいなくなって、人が近所にいない」

ガソリン代高騰も追い打ちに 立ちはだかる山あいの村特有の事情

 利用者に頼りにされている訪問介護。基本報酬の引き下げで収益が悪化するため、事業の継続には利用者を増やす必要がありますが、山あいの村特有の事情が立ちはだかります。

 (ホームヘルパー 石川洋子さん)「移動に時間がかかるから、移動費も出ないから大変ですね。ガソリンの減りが早かったりするから、ガソリン代も高くなっているし大変です」

 利用者の家が広範囲に点在しているため、1日に回れる家の数が都市部と比べて大幅に少ないのです。そこにガソリン代の高騰も追い打ちをかけています。

「支え手がいなくなれば暮らしができなくなる」

 この事業所では元々、訪問介護は赤字でしたが、昨年度の赤字は前の年の1.5倍に拡大。改善の見通しは立っていません。事業所の代表は、国は介護報酬を一律に改定するのではなく、地域の事情を考慮してほしいと話します。

 (南山城村社会福祉協議会 末廣睦事務局長)「人材が少なくなるとわかっていながら報酬に結び付かない制度になったのはなぜか。支え手がいなくなれば暮らしができなくなることに直結する。そういう部分に目を向けてほしい」

 南山城村の担当者は、このままでは村で訪問介護が利用できなくなる懸念があるとして、国に支援を求めます。

 (南山城村役場 土井充保健医療課長)「財政状況がよい市町村は赤字補填をされている。それでは市町村のレベルによって不公平さが出てくるので、事業所の赤字経営のところに国から支援を平等にしていただきたい」

 自宅で暮らす高齢者にとって最後の砦となる訪問介護。どこに住んでいてもサービスが受けられるよう、制度のあり方を考える時が来ています。